ウイルスバスター|ネット上で創作活動を楽しむために ヒャダインが語るネットセキュリティの重要性

DAWソフトやパソコンの性能の向上により、個人が自宅で音楽制作を行う環境は飛躍的に進化し続けている。さらにネットを使って動画配信サービスや音楽ストリーミングサービスへ配信するハードルも下がっており、ますますインディーズアーティストの活躍の場が広がっている。一方、ユーザーを実在するサイトそっくりに作られた偽サイトに接続させて個人情報を盗み出すフィッシング詐欺や、SMS(ショートメッセージ)を悪用したスミッシング詐欺など、ネット詐欺の被害も年々拡大している。そこでネット上で音楽活動を楽しむ人たちの強い味方になってくれるのが、ウイルスバスター クラウドだ。パソコンのウイルス感染のみならず、これらのネット詐欺を未然に防ぐ機能が備わっている。

音楽ナタリーでは、インターネットと親和性が高く、NHK Eテレ「ヒャダ×体育のワンルーム☆ミュージック」のMCを務めたヒャダインにインタビューを実施。かつてLINEの乗っ取り被害に遭ったこともある彼に、ネットセキュリティの重要性について語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 相澤心也

楽しい人生です

──今回はウイルスバスターの特集ということで、ヒャダインさんにはインターネット上で音楽活動をすることの利点と危険性について伺えたらと思っています。

もちろんです、はい。

──ヒャダインさんはニコニコ動画で楽曲を発表することで作家としての道が開けた方ですが、今はそういう活動スタイルもすっかり当たり前のものになりましたよね。

ですね。ここ10年くらいで、ボカロPをはじめとする音楽クリエイターがYouTubeやニコニコ動画などをアウトプットの場にする活動形態が定着しました。やっぱりCtoCと言いますか、お客さんへダイレクトで届く感じがありますし、よくも悪くもお客様の声が直に聞こえる時代になったと感じますね。間にレコード会社などを挟まないことによってクリエイター同士のコラボも盛んですし、「絵を描けますよ」「ムービーを作れますよ」といった人たちとの相互作用もあって。インターネットで音楽を出すということは芳醇なものになっているイメージがあります。

ヒャダイン

──ヒャダインさんはそうした活動を足がかりに、今では作曲活動だけでなくタレント業もされるなど、いろいろな分野に活動の幅を広げていますよね。

ありがたいですね。楽しい人生です、本当に。最高。

──ニコ動時代、そういう未来は想定していたんでしょうか?

いや、まったくまったく。こんなことになるとは思わなかったですもん。ただ、インターネットで音楽を出してそれで満足、という感じでもなかったですけど。ゴール設定がそこにはなかった……今でもゴールはどこにも設定していないんですけど、そういう意味ではちょっとだけ貪欲ではあったと思います。「いろんな人に歌ってほしい」とか「有名になりたい」とか、ちょっと先の景色を見ていたような気はしますね。

──今ネット上で音楽を発表している若い人たちに、ヒャダインさんの現在の姿はすごく夢を与えているんじゃないかなと。

だといいですけどね。僕だけじゃなくて米津玄師さんやAdoさんなどもそうだと思うんですけど、今はインターネット発のアーティストがどんどん増えていて。とても夢のあることだと思います。

──先ほど「ネットではファンの声がダイレクトに届く」というお話がありましたが、ちなみにヒャダインさんはエゴサーチをするタイプですか?

曲が出たときだけですね。「どんな反応かな?」というのは気になるので市場調査的に調べたりはするんですけど……ちょっと狂った感じの曲を作ったときとか、それが受け入れられているかどうかを見て「これくらいまではやっていいんだな」という判断基準にしたりとか(笑)。

──人間的にどう見られているかではなく、楽曲に対する反応だけをチェックしているんですね。

ですね。それに付随して「ヒャダインはすごい」みたいなコメントが出てくるのはもちろんうれしいですけど(笑)。僕自身の人間的な評価みたいなところは気にならないというか、最近は本当に興味がなくなってきてしまって……ある程度キャリアも積んできたことで、「もし人格を否定されたところで揺るがない」という気持ちがあるからかもしれません。なので、まだ他人の言葉で簡単に揺らいでしまう若い世代にはエゴサーチはあまりお勧めできないです。

──ネットでの音楽活動においては、ほかにどんなことに気を付けるべきでしょうか。

僕が一番気を付けているのは、言葉の使い方ですね。“てにをは”の使い方1つ間違えるだけで大きな誤解を生むこともあるくらい、日本語ってすごく繊細な言語なので。一部を切り抜かれることで曲解されるケースも多いですから、「どう切り抜かれても間違えられないように」というのはデリケートに考えますね。

──もしかしたら、それは音楽のエディット作業にも似ていますか? 「どこを切り取られてもその曲になるように」みたいな。

そうですね、それはあります。同じくらいデリケートな作業かもしれない。どちらも、ちゃんと真意を伝えたいですからね。

ヒャダイン

人生に主人公補正はない

──今のお話はネット上のコミュニケーションに関する注意点だと思いますが、サイバー的な意味での脅威についてはいかがですか?

めちゃめちゃ怖いですよ。今は1つのコンピュータで全部を管理しているので、作曲データや音楽制作ソフトのライセンスキーなどはもちろん、メールやメッセンジャーのログ、連絡先、銀行のログイン情報なんかも全部入ってるから、この1台がハッキングされるだけで大変なことになってしまう。もしデータを盗まれたり、もしくは乱されたりすると本当に何もお仕事ができなくなってしまうので、その恐怖はめちゃめちゃありますね。

──なるほど。一般の方でも似たような状況の人は多いかもしれません。

テレビ番組で自前のパソコンを使う場合、スタッフさんにロック解除のパスワードを教える必要があるんですよ。そうしないと現場がスムーズに進まないからなんですけど、正直いつもビクビクしながら貸しています(笑)。悪用しようと思えばいくらでもできちゃいますからね。

──無理にでも信用しないと仕事に支障が出てしまうという。

そういうセキュリティ意識は……僕、ずいぶん前に一度LINEを乗っ取られたことがあるんですよね。そこで一気に危機意識が高まりました。

──2014年に報道された一件ですね。ヒャダインさん以外にも多くの著名人が被害に遭ったと聞いています。

なんとなく「自分だけは大丈夫だ」みたいに思い込んでいたんですけど、実際に自分の身にも起こり得ることなんだなと、そこで初めて気が付いたというか。ものすごくシンプルなパスワードを使っていたもので、そりゃ無理よねと。

──どこかから情報が流出したわけではなく、単に特定しやすいパスワードを使っていたことが原因だったんですね。

たぶん、ランダムに大量のパスワードを生成してログインを試すようなソフトとかがあるんでしょうね。それの餌食になったんだと思います。

ヒャダイン

──やはりセキュリティ対策としては、まず何よりもそういった各自の意識が大事であると。

本当にそう思いますね。例えばReolさんなんかは、自宅でレコーディングしたデータをネット経由で送るときには必ずパスワードロックをかけていると言っていました。僕もその厳重さは見習わないといけないなと思いましたし、あとは最近だとオンラインの会議も増えたじゃないですか。あれも怖いですよね。もし誰かのパソコンにスパイウェア(※端末内に潜んでユーザーの行動や個人情報などを外部に送信する不正プログラム)的なものが入っていたらと思うと……。

──確かにその危険性を考えると、セキュリティ意識の高い人ほど発言が制限されてしまいそうですね。

そうなんですよね。SNSのメッセージなんかも同じですけど、最悪その会話が漏れてもいいようには意識しています。漏れたところで問題ないレベルの話までしかしないようにしていて、本当にヤバい話は対面で直接話すように心がけていますね。「本当にヤバい話」ってなんだよ?って話ですけど(笑)。

──(笑)。やはりLINE乗っ取り事件で得た教訓は大きかった?

はい。意識の変化で一番大きかったのは、正常性バイアスですね。「自分だけは大丈夫」という……自分の人生って自分が主人公だから、“主人公補正”がかかっているとついつい思い込んでしまうところがあるんですよ。交通事故のニュースを見ても、どこか自分には関係ない話だと思っちゃうみたいな。それがいざ自分の身に降りかかってみると、決して他人事じゃなかったんだと身につまされました。それ以来、正常性バイアスについてすごく考えるようになりましたね。人生に主人公補正はないんだと。いつでもモブの1人になり得るんだと。

──それ以降、そういった被害にはまったく遭っていないですか?

まったくなくなりました。まずパスワードの使い回しをやめて、1個1個違うものを使うようにしたのが大きかったと思います。最近厄介だなと思っているのはそういう乗っ取り系よりも、国税庁とかからのメールが紛れ込んでくることですね。

──いわゆる、なりすましメールですね。

ほかにもAmazonとか、アカウントも持っていないみずほ銀行とかりそな銀行とかからもバンバン来るんですけど。

──(笑)。

僕はまだそれらを偽物だと見極められるから被害には至っていないですけども、果たして僕の親世代の人がこれを見たときに正誤判定できるのかと心配になりますよね。最近はどんどん手口も巧妙になってきていますし……実際、これは10年前くらいの話ですけど、うちの親は詐欺メールを送ってきた相手に「こんなことしちゃダメだよ」って返信して戦ってたらしいんですね。正義感で。そんなの、一番のカモじゃないですか。

──「返信すること自体が危険」という意識がまだ浸透していなかった頃のお話ですね。

高齢者への注意喚起が特に難しいと思います。僕の親も結局インターネットが好きだし、とはいえ仕組みをよくわかっていないから、つい全部を盲信しちゃうみたいなところがあって。これはちょっと、ウイルスバスターさんに守ってもらうしかないでしょうね。