Vaundy×モクモクれん(「光が死んだ夏」原作者)|時代を切り開く同世代クリエイターの共鳴 (2/2)

ずっとライブしてるんだよ、マンガって

──Vaundyさんも絵を描いたり、映像を撮ったりしていますし、音楽がメインの仕事ではなかった可能性は十分にありますよね。

Vaundy あるけど、僕の場合はダーツを投げて、その刺さった矢がずっとゆらゆらしてるだけだから。やっぱり音楽って旬があるというか、ずっと鮮度が必要で。それに関しては、これからもずっと考えていかなきゃいけないことだと思う。音楽はマンガよりも旬のスピードが速いかもしれない。一般人だった子が急に「おら、行け!」と世に出される時代になったんだなと感じます。若いとなおさらあれこれ言われるし、大変ですよね。

モクモクれん 私も「素人崩れ」みたいなことを今もずっと言われてますよ。だからこそ、描いているうちに大義を見つけないと耐えられないなと思います。いろいろと言われる中で、これを描く意味が世の中にちゃんとあると思えていないとやっていけない。「なんのためにこれをやってるんだろう?」と考えたときに、それがお金、名誉、承認要求であってもおかしくはないんですけど、一番は「これは社会に必要なんだ」という気持ちが大事かなって。

Vaundy マジでそう。本当にいらないものを「いや、これが一番必要だから」と言える人じゃないといけないというか。しかも、それが自分の髪の毛という。自分の髪の毛をツンって抜いて「これ、マジでいいやつだからもらってみて」と差し出すような世界なんですよ。だから語彙力と説得力、カリスマ性は必要だし、マンガだとそれがキャラクターの数だけあると思ってるので、大変だなと感じますね。僕はその分曲をたくさん作ってるんですけど、マンガはキャラクターを交差させていかないといけないから、すごく難しい。ライブみたいな感じ。ずっとライブしてるんだよ、マンガって。

──しかもそれを何年にもわたってやっていくという。

Vaundy そう。本当にすごい。

モクモクれん でも、Vaundyさんもマンガを描けるんじゃないかなと思いますよ。

Vaundy 描けたらいいんですけどね。今年の頭ぐらいに、一時期描こうと思ってたんですよ。でも、これは下手に手を出してはいけないものだと(笑)。今でも絵を描くのはすごく好きだし、挑戦はしますけど、本当に難しい。音楽を作るのとは違う忍耐力がいる。僕も集中力があるほうだと思ってたけど、マンガで必要とされる集中力ってちょっと違うんだよな。

モクモクれん 確かに、忍耐力は必要かもしれないですね。15時間椅子に座れる人向きかもしれない。

Vaundy 僕も座れると思ってたんですけどね。まあ、音楽作りでも座るときはあるけど、やっぱり腰が痛くなる(笑)。

モクモクれん いい椅子が必要です(笑)。マンガを通して自分が言いたいことをダイレクトに言えたりするので、それで気持ちを発散できるところはあります。読者全員が読み取ってくれるわけじゃないんですけどね。

Vaundy マンガ作りって、完成させなきゃいけないものが工程の中にたくさんあるのが大変ですよね。プロットの完成、ネームの完成、メインの作画の完成……何回も完成させなきゃいけないのがめっちゃ難しいんですよ。ものづくりって1回完成させるのですら大変なのに、それを4回とかやるって尋常じゃない。しかも、アシスタントさんが入るのは終盤で、そこまでの大半のことは1人で作業する。映画やMVの工程も似てるけど、1人では作らないから。僕の場合は8時間かけたら、8時間の間に曲が全部完成する。そのあとにレコーディングはあるけど、それは人と一緒にやれるから、ある程度体力を分散できるんです。でも、マンガはちょっと違う。

モクモクれん 言いたいことをワーッと吐き出して終わりだったら楽しいですけどね。マンガ家はみんな、自分が考えてることを誰かに書いてほしいなと思ってるかもしれません(笑)。

Vaundy 忍耐力がすごいですよ。

モクモクれん 私からすると、自分の思いを音楽で吐き出せるのがすごいなと思いますけどね。私は音楽のセンスが微塵もないので、フィーリングで曲にできる人は素晴らしいなと。そこの変換コードが自分の頭にはないです。

Vaundy でも、変換のコードが必要だと思ってる時点で、たぶん自分の感覚と音楽をつなげられたらできるんですよ。そのために僕みたいな人がいるので、使ってもらえればなと。マンガから音が出たっていいしね。そういう未来がいずれあるかもしれない。1ページ目を開いたら、ストーリーに合わせて音が鳴っていくみたいなのもありえると思うから。そういうの、やってほしいな。

アニメ「光が死んだ夏」より、ヒカル。

アニメ「光が死んだ夏」より、ヒカル。

アニメ「光が死んだ夏」より、よしき。

アニメ「光が死んだ夏」より、よしき。

ストーリー性のある色塗り

──「光が死んだ夏」の原作では物語に急展開が続いてますけど、着地点がどうなるのかがとても気になります。

Vaundy そうなんですよ。そこが難しくて、主題歌の歌詞を書くときもめっちゃ悩みました。最近は先の展開を予想できるようなマンガが増えてきたと思ってるんですけど、「光が死んだ夏」に関してはどうまとまっていくのかがわからない。マンガを読んでいても、毎話「えっ、これどうなるの?」って感じで終わるし。

モクモクれん でも、私としては連載が始まったときからゴールは決まっているんですよ。

Vaundy 隠してるんだ。僕、勝手に最終話を頭の中で描いたんですよ。それは言わないでおきますけど、最後にちゃんと確認したい(笑)。

──「再会」という曲にも、Vaundyさんなりの物語の結末みたいなものが込められている?

Vaundy そうですね。よしきとヒカルの「再会」がどうなっていくのか、僕なりにちりばめてあります。そこが実際にどうなるのか、楽しみです。

モクモクれん 「再会」のミュージックビデオを観させていただきましたが、めちゃくちゃいいですよね。原作とはまた別の世界なんですけど、芯の部分で共通したところもあって。最後に登場人物の手が離れていくところとか、「クーッ!」と思いましたね。森山未來さんと窪塚愛流さんが出演されていますが、2人に年齢差があるのがすごくいい。そこが大事だと思いながら観てました(参照:Vaundyミュージックビデオに森山未來と窪塚愛流、亡くなった親友と“再会”)。

Vaundy すごく細かいポイントをキャッチしてくれてる。ありがとうございます。今回のMVは、Masaki Watanabe監督が作ってくれてるんです。2人の手が離れていくところだったり、印象的な画がしっかりドーンとあるのはいいですよね。1枚絵でちゃんと語る感じが、ちょっとマンガっぽくていいなと僕も思っています。

──ジャケットはモクモクれん先生が描き下ろしていますね。

Vaundy 本当にありがとうございました! めちゃくちゃいい。

モクモクれん 私も描けて光栄でした。うれしい。配信チャートのランキングに自分の絵が載ってると「おおー!」ってなります(笑)。

──“よしきの前髪越しのヒカル”という構図もいいですよね。

Vaundy「再会」ジャケット

Vaundy「再会」ジャケット

Vaundy 洒落が効きすぎてるよね。あと僕、色の塗り方がめっちゃ好きなんですよ。ホラーマンガとは思えないような、ストーリー性のある色塗り。あれはデジタルで描いてるんでしたっけ?

モクモクれん そうですね。

Vaundy デジタルでこの質感のイラストを描くのって難しいんですよ。簡単にやってるのかもしれないけど、これは選ばれしうまい人たちしか描けない。

モクモクれん いや、そんなことないですよ。ソフトに頼ってます(笑)。

Vaundy でも、ソフトを使えるのが僕らのすごいところですから。間違いなくそこはありますよ。コンピューターを制すという。

ほかの作品ではできないことに挑戦できている

──Vaundyさんはいつも「既存のアニメソングに挑戦する」という姿勢でアニメのタイアップ曲を作ってきました。今回の「再会」についても「この先のアニメ音楽に挑戦する」というコメントを出していましたが、その“挑戦”というのはどういうものでしたか?

Vaundy 曲って、別に探せば似たようなものがあるというか。もうたくさんのことがやり尽くされちゃってる。だからこそ、それを誰がやるか、どういう組み合わせでやるか、アニメと一緒にやるならこの作品と一緒にやる意味は何かとか、そういうところが個性になっていくんですよね。それで僕も「光が死んだ夏」の持っている、ほかのホラー漫画にはない意外性みたいなところを曲で出せればいいなと思いました。青春要素もあるけど、絶対に超えられないホラーの要素が入っているような感じにしたいなと。ほかのアニメ作品ではこんな曲は作れないし、そういう意味で挑戦的だなと思いますね。

モクモクれん 挑戦というのは、「光が死んだ夏」のアニメにも原作にも共通するワードですね。「光が死んだ夏」を描き始めたときはあまり考えてなかったんですけど、描いていくうちにけっこうチャレンジングなことをしてきたんだろうなと思うことがいろいろあって。いつも「がんばって社会に挑戦するぞ」みたいな気持ちを持って描いてるんですけど、アニメの監督たちもおそらくそんな気持ちがあるんじゃないかなと思うんです。監督が「映像表現の部分でほかのアニメではできないことをやってる」ということをインタビューでおっしゃっていたんですけど、曲も映像も、ほかの作品ではできないことに挑戦できているのかなと思うとすごくうれしいですね。

アニメ「光が死んだ夏」より。

アニメ「光が死んだ夏」より。

プロフィール

Vaundy(バウンディ)

作詞作曲、楽曲のアレンジ、アートワークデザイン、映像制作のセルフプロデュースなども自身で担当するマルチアーティスト。2019年6月にYouTubeに楽曲を投稿し始め、2020年5月に1stアルバム「strobo」を発表。その後も「怪獣の花唄」「踊り子」「花占い」などヒット曲を連発し、2022年の大晦日には「NHK紅白歌合戦」に初出場した。2025年7月にアニメ「光が死んだ夏」のオープニングテーマ「再会」を配信リリース。2026年2月から男性ソロアーティスト史上最年少で全国4都市7公演のドームツアー「Vaundy DOME TOUR 2026」を行う。現在までに計17曲がサブスクリプションサービスでの累計再生回数1億回を突破。日本ソロアーティスト1位の記録を打ち出し、令和の音楽シーンをけん引する存在として支持されている。

モクモクれん

2021年、KADOKAWAのWebコミックサイト・ヤングエースUPにて「光が死んだ夏」で商業デビュー。同作は現在も連載中で、単行本は最新7巻まで刊行されている。「次にくるマンガ大賞 2022」のWebマンガ部門では第11位に選ばれ、「このマンガがすごい!2023」(宝島社)のオトコ編では第1位を獲得。2023年には額賀澪による小説版が刊行され、2025年7月にはTVアニメ化も果たした。そのほか、2023年から2024年にかけて開催された角川文庫のフェア「カドイカさんのブックアドベンチャー2023」のコラボ企画として、小野不由美「鬼談百景」、貴志祐介「天使の囀り」、澤村伊智「ぼぎわんが、来る」の期間限定カバーイラストも担当している。