UZ(SPYAIR)がソロ1stアルバムに宿した情熱「もっと自由に音楽を楽しみたい」 (2/2)

ソロをきっかけに変化したギターに対する考え方

──「One More City」はサックスのリフを軸にしたナンバーです。「Jazzy 84」などの曲にもサックスが使われてますね。

好きなんですよ、サックス。中学生のときに吹奏楽部でサックスを吹いていたのもあって、あの音色がずっと好きで。ポップスやロックの曲でサックスのソロが入ってるものってたまにあるじゃないですか。

──1980年代には多かった気がします。

ですよね。いいところでサックスが聴こえてくると妙に興奮しちゃうんです(笑)。スケールもギターと違うし、特にアルトがそうですけど、人間の声に近いんですよ。そこにもグッと心をつかまれるし、このアルバムにも打ち込みでけっこう入れてます。今は全然吹けないですけどね(笑)。

UZ

──それもUZさんのルーツですね。ちなみになぜ部活でサックス担当になったんですか?

絶対に部活に入らなくちゃいけない学校だったんです。1年のときはバレー部だったけど途中で辞めて、友達がいる吹奏楽部に入ったら、たまたま与えられたのがサックスで。初めて触ったのに、発表会ではソロパートもあって、一生懸命練習しましたよ。その頃はもうギターも弾いてたんですけどね。

──ギタリストとしてのUZさんももちろん、アルバムにしっかり反映されていて。「Fly Higher」「Blue Map」などはギターソロも聴きどころだと思います。

ありがとうございます。ギターについても以前と比べて考え方が変わりましたね。ソロを始めた当初はギターはそんなに弾かなくていいというか、曲の中の1つの要素くらいに思ってたんですけど、何年か経つ中で、ギタリストとしての自分も大事にしたいなと考え始めて。ロックバンドのギタリストで、トラックを作ってラップもやって歌も歌ってギターソロも弾いて……ってなかなかいないと思うんですよ。それはすべて自分が培ってきたものだし、しっかり作品に落とし込みたいなと。ライブではギターソロは弾かないと思いますけどね、ラップと歌だけでいっぱいいっぱいなので(笑)。いつかはやれるようになりたいと思ってますけど。

──「Muse」をはじめ、サビのメロディのよさも魅力的でした。めちゃくちゃポップですよね。

それはもう体質というか(笑)。根本的にキャッチーなものが好きなんですよ。例えばディストーションギターがめちゃくちゃうるさい曲であっても、ドープなヒップホップであったとしても、特にサビに関してはキャッチーさを求めていて。逆にマニアックな方向にはなかなか突き進めない。トラックや歌詞はちょっと斜めに逸らしたりもできるんだけど、メロディだけはそれができない。やっぱり肉体的なところから生まれるものだからだと思うんですよね。たぶんどんなアーティストもそうだと思うんだけど、音楽性が広い人であっても、トップラインはその人がもともと持っているものがどうしても出てくるんじゃないかと。

──メロディのクセってありますからね。

そうそう。それはその人ならではのものだし、根っこにあるものでもあって。そこはやっぱり大事にしたいんですよね。

ジャズは刺激的、聴いててめちゃくちゃ楽しい

──「Soloist」はネオソウル的なテイストを取り入れた楽曲です。

こういうグルーヴ感も好きなんですよ。今40歳ですけど、30代半ばくらいからネオソウルと呼ばれるジャンルを聴くようになって。一番ハマったのはディアンジェロかな。ディアンジェロにハマるとほかの音楽が聴けなくなるというか、抜け出せなくなるんですよ。それくらい革新的だったし、影響も受けていますね。

──「人は皆孤独なソロイスト」というラインも印象的でした。人は根本的に1人なんだという感覚もある?

すごくありますね。特にソロのアルバム制作は、基本的に1人なんで(笑)。この曲のラップのパートで歌ってるのは、まさに俺の日常ですね。ちょっとカッコよく歌ってますけど(笑)、毎日、同じ時間に起きてスタジオに行って、ミリ単位で制作を進めて、家に帰って、次の日も同じことをやっている。でもそんなルーティンこそが美しいと思うし、しっかり続けることで大きな旅になっていく。そういうことを歌ってる曲ですね。

──このアルバム自体も、ソリスト感がすごくありますよね。まったくゲストがいないという。

さっきもちょっと言いましたけど、今回は人の力を借りたくなかったというか、1人で完成させたかったんです。もちろん人と一緒に音楽をやる喜びも知っているし、ある意味ラクかもしれない。でも、1stアルバムはとにかく自分でやり切ろうと。途中で「女性シンガーを呼びたい」ってめっちゃ思いましたけど、耐えました(笑)。サンプルで女性の声を入れている曲はありますけどね。

──「Urban Cruise」のサウンドもすごく個性的でした。基調はハウスミュージック?

基本的にずっと四つ打ちだし、確かにハウスミュージック的なビートですよね。コード進行だけ取り上げると、かなりジャズに寄ってるんですよ。さらにラップもして、しっかりギターも弾いて。独特のミクスチャー感がこの曲の面白さかなと思ってます。

──一般的なミクスチャーロックは“ヘヴィロックやニューメタルとラップの融合”という印象がありますけど、「Urban Cruise」は混ざっているものがまったく違っていて。ジャズにハマった時期もあるんですか?

最近ですね、それは。ヒップホップのサンプリングもとになっているジャズは聴いてたんですけど、全然詳しくなかったから、ジャズ入門みたいな本で勉強しています。ジャズの歴史もそうだし、マイルス・デイヴィスが登場してファンクと混ざって、一方ではビル・エヴァンスみたいなすごいピアニストが登場して。それこそジョン・コルトレーンみたいなサックスの巨人もいますからね。ロバート・グラスパーが出てきて、ヒップホップと近付いて……みたいな最近の流れもすごく興味があって。そのあたりの音楽は刺激的だし、聴いててめちゃくちゃ楽しいですね。

UZ

俺は常に新しい景色を見たい

──アルバムの最後に収められている「Photographs」は、切ないメロディが印象的なバラード系の楽曲ですね。

以前リリースした曲のコード進行だけをサンプリングした曲です。アルバムの曲順は早い段階で決めていて、これは最後の曲として決め打ちで作ってたんですよ。アルバムを聴き終えたときに温かい気持ちになってもらえたらいいな、と。モロにバラードというよりヒップホップ的なビート感もあって。歌詞は、自分がここまで歩いてきた道のりをベースにしながら、今をしっかり大事にして、この先も生きていこうというメッセージですね。

──UZさんの人生もいろんなことがありましたからね。

そうですね。バンドの活動を振り返ってもいろいろあったし……。この曲の中で「もう消えはしない傷跡も 共に生きていこう」と歌ってますけど、まさに人生はそういうものだったりするので。きついこと、傷になるようなこともあったけど、それも全部含めて今の自分がある。だったらそれを糧にして進んでいくのが大事だし、ポジティブに捉えてます。

──前向きじゃないと、ソロプロジェクトを立ち上げてアルバムを完成させることはできないと思います。

確かに。常に新しい景色を見たいし、どんどん挑戦しながら生きていきたいですね。

──ソロライブ(12月13日に行われた「UZ LIVE 2025 "STATE OF RHYMES"」)も新たな挑戦なのでは?(※取材はライブ開催前に実施)

1stアルバムを出して、ワンマンライブをやるところまでがソロプロジェクトの1つの目標だったんですよ。トラックを生演奏に置き換えるスタイルが好きなので、実現できてよかったです。最初はドラムとベースをKENTA、MOMIKENに頼もうかと思ってたんですけど(笑)、それはやっぱり違うなと。2人と一緒にやれば安心だけど、それだと新しい挑戦にならないので。

UZ

──今後もSPYAIRとソロを継続していく?

可能な限りやりたいですね。このアルバムを作ってるときはつらすぎて、最後のほうは「これが終わったらちょっと休もう」と思ってたんですよ。自分でやるって言っておいて勝手に苦しくなってたんですけど(笑)、作り終えてみるとさらなる制作欲求が出てきた。とは言ってもまだ1枚目ですからね。SPYAIRもインディーズで2作、メジャーで3作目くらいでやっとスタイルが確立できた感覚があって。ソロでももっと追求できることがあるんじゃないかなと。

──SPYAIRも2月から全国ツアーがスタートします。ソロ活動が本格的に始まったことで、バンドへのモチベーションも変化しているのでは?

シンプルに楽しいですね。もちろんクリエイティブの苦悩みたいなものは常にあるんですよ。SPYAIRにはしっかり型があって、その中でいかにいいものを作るか?という。ソロとはベクトルが違いますけど、それを含めて全部が楽しいので。今はいいバランスでやれていると思います。

プロフィール

UZ(ユージ)

ロックバンド・SPYAIRのギタリストでプログラミング担当。バンドのメインコンポーザーとしてこれまで100曲以上の楽曲を手がけている。2023年に配信シングル「Take My Wish」でソロデビューを果たし、2025年12月に1stソロアルバム「STATE OF RHYMES」をリリース。自身の41歳の誕生日である12月13日には初のソロワンマンライブを東京・shibuya CYCLONEで開催した。