愛はこれから出会うものじゃなく、すでにその中にいる
──映画「ファーストラヴ」にはもう1曲、「無機質」という曲が挿入歌として使われています。
これは「ファーストラヴ」と対になる曲をイメージして書きました。無機質というのは温度感がないという意味で、これも人との出会いによって心が開かれていくという、「ファーストラヴ」と同じ歌詞構成の曲です。
──「無機質」の1人称は“僕”ですけど、この曲は登場人物の誰にでも当てはまる曲だなと思いました。
そうですね。このお話は、登場人物がみんな主人公と同じような性質を持っていると思うし、それは私たちにも共感し得るものだと思います。この映画を観て私が一番強く思ったのは、自分の周りにあった愛に初めて気付く、そういう意味の“ファースト”というタイトルでもあったのかなと。というのも、主人公の由紀はもうすでに自分の家庭を持っていて、愛というものの中にいたはずなんですよね。だけど彼女は、人との対話を通して自分を見つめることによって、自分の周りにある愛情に初めて気付けたんじゃないかと思うシーンがあって。つまり愛はこれから出会うものじゃなくて、自分はもうすでにその中にいて、それに気付いたときにやっと本当の意味で愛を知る……ということもあるのかなと思います。
──ちなみに堤幸彦監督とは直接会って打ち合わせをされたんですか?
はい、このお話をいただいたときにお会いしました。私、「TRICK」が大好きで全シリーズ観てますし、「20世紀少年」や「池袋ウエストゲートパーク」も大好きで、お会いしたときはまずその気持ちをお伝えしました。
──長年のファンだったんですね。
そうなんです。監督からは「歌詞をこういうふうにしてほしい」などの細かいリクエストはなくて、私が映画を観て感じることを信頼してくださっているように思いました。作りながら、この映画に自分の心を解かせてもらったような感じがします。曲をお渡ししたときに「ありがとうございます」と言っていただけて、私も「こちらこそありがとうございます」という気持ちでした。
私の音楽を聴いてくださっている方を支えられる音楽を
──主題歌のタイトルが映画と同じ「ファーストラヴ」というのも、巡り巡ってここにたどり付いたんだろうなあと思いました。
「ファーストラヴ」以外のタイトルも考えようと思ったんですけど、これ以外のタイトルが出てこなくて。原作者の島本さんにも確認していただいて、許可をいただきました。
──これしかないと私も思います。ところでUruさんは読書好きとお聞きしたのですが、普段どんな本を読まれるんですか?
これを言うとちょっと驚かれるんですけど、サスペンスとかミステリーとか、寝る前に読むと怖い夢を見そうな小説が好きです。高野和明さんの「13階段」や「ジェノサイド」とか。高野さんの書かれる陰の描写がすごく好きです。
──へえ、ちょっと意外です。
あと、中村文則さんの「私の消滅」は何度も繰り返し読みました。最初は難しくてよく理解できなかったところが、2度3度と読むことでさらに面白くなってきて。3度目のときに抱いた感想を忘れたくなくて、ぶわーっとメモを取りました。
──それほど衝撃的だったんですね。そういうときってよくメモを取るんですか?
はい。スマホに打ち込んでますね。
──それが歌になることも?
あります。人とのやり取りで抱いたちょっとした感想とか、曲に使えそうだなと思ったものはメモします。
──自分で好きなように書く言葉と、歌として外に出す言葉に違いはありますか?
そうですね……外に出す言葉は否定的なものをそのまま出すのではなく、ちょっと丸みを帯びさせることはあります。好きなように書く言葉はもっとラフなものですね。
──表現を続ける中で、自分自身が変わったと思う部分はありますか?
変化……変わらないかもしれないです(笑)。
──Uruさんの歌を待ってる人がどんどん増えて、取り巻く環境はすごく変化してると思うんです。
そういえばファンクラブをやらせていただくことになったときは、なんだか信じられなくて。私、昔からすごくネガティブでしたし、自分のことをプラスに評価するのが苦手だったので、そんな私のファンクラブができるっていうことにピンとこなかったんです。でも、皆さんからの声を聞いているうちに、私も助けられてばっかりじゃダメで、私の音楽を聴いてくださっている方を支えてあげられるような音楽を作らなきゃいけないっていう……そういう勝手な使命感みたいなものが小さく芽生えてきた。そこはちょっといい変化です。
──早く皆さんに対面で会えるといいですね。
はい、ホントにそう思います。