「HELLO」じゃダメなんですか?
──「過去曲テイストで新曲を作り、それをAIボーカルに歌わせる」というアイデアは、ABEDONさんの発案なんですよね。
そうだね。
──どこからその企画に思い至ったんですか?
えーとね……どっから話そうかな(笑)。順を追って言うと、まずアルバムのコンセプトを決める前に、映画主題歌のオファーをいただいたんですよ。それが「『HELLO』(2009年リリース9thアルバム「シャンブル」収録)みたいな曲を書いてくれ」という話で……まあ依頼というものはだいたいそういう形で来ることが多いんですけども、「じゃあ『HELLO』じゃダメなんですか?」と(笑)。
──そうなりますよね(笑)。
ははは。まあでも当然書き下ろしが望ましいわけで、向こうの事情もわかるんでね。だけど「HELLO」というのは非常に大事な曲なので、そのテイストでと言われてもなかなか難しい部分もあるよなと考えていたんですけど……やってみたら意外とすんなり作れたんですよ。
──おおー。
ロックバンドというものを長年やっていると、「いくら仕事として頼まれたからって大事な曲の焼き直しをするのか?」みたいな、どうでもいいようなプライドが染み付いてしまう部分も少なからずあるんです。「バンドとはこうあるべきだ」とかね。自分はもうちょっと適当にやれる派だと思ってたけど、意外とそういうのが染み込んでいたんだなあ、なんて書きながら思っていたんですよ。そしたら意外とその曲の出来がよくて、思いのほかみんなが幸せになれたので「これは僕だけじゃなくて、ほかの人でもできるんじゃないか?」と思い当たったんです。
──なるほど……。
ただやっぱりね、やる機会というものがなかなかないわけですよ。ただ単に「あの頃みたいな曲を書いてくれ」と言われてもね、書く理由にはならないので。そのための……まあ口実じゃないけど、みんなが書きやすい動機付けを何かうまいことできないかなあと考えているときに、AIというものが同時に引っかかっていたので、それを組み合わせたというか。
──ということは、もし仮にその「『HELLO』みたいな曲」がうまく形にならなかったり、あるいは「できたけど気に入らないな」となっていたら、今回の企画にはつながらなかった?
おそらくなかったと思いますね。はい。
みんなに伝えるときは単純な言い方を
──実際に「HELLO」みたいな曲を作るにあたっては、どういうところから考えていったんでしょうか。
まず、映画のエンディングで流れたときにどういう作用をする曲が望ましいのかということですよね。監督はなぜ「HELLO」的なものを望んだのかという……つまり、「HELLO」っぽいとはどういうことなのか?と。
──何をもって「HELLO」っぽいと感じるかは、人によって違いますもんね。
具体的には、例えばリズムの感じは独特なんで、頭にスネアがある感じとかは当然踏襲するんだろうな、とか。あとはコード感とか、メロディの……なんて言うの、エモーショナルな感じ?(笑)とかになってくるんだろうなと。そこらへんの要素を盛り込みつつ、工夫しながら構築していった感じですかね。
──クリアすべき条件が複数あって、それが全部重なる部分をピンポイントで突くような作業になるわけですよね。その縛りがあることでやりづらいかと思いきや、意外とやりやすかったという。
そういうことなんでしょうね。だからアルバムに対してコンセプトを設けるというのもその1つだと思うんですよ。真っ白な紙の上はどこにでも行けるけど、どっちに進んでいるかはわからないでしょ? そこに1本線を引けば、前か後ろに進めるようになる。で、もう1本縦に線を引くと3次元になるんで、さらに自由度が上がる。そんなふうに、できればその3次元がうまく機能するようなテーマを設定できないかなあといつも考えてるんですけど。
──近年ユニコーンのアルバムに毎回何かしらの縛りが設けられているのは、その表れということですよね。
そう。それと、集まる理由が欲しいっていうのもひとつあるかもしれない。
──集まる理由を作らないと、なかなかやろうというふうにならない?
なかなかね。
──でもみんなで集まってやりたいから、がんばってお題を考えるわけですね。
そうだね。それともう1個クリアしなきゃいけないのは、やっぱりクリエイティブでなければいけないということで。ガチガチに「今回はこれこれこういうコンセプトで」と提示すると堅苦しくなっちゃうんで、もっとそれをきっかけに遊べそうなイメージとして提示したいんですよ。だからみんなに伝えるときは「このコンセプトに至った経緯は、目的は」みたいなことじゃなくて、「AIに歌わせるやつと、なんか明るい曲」みたいな(笑)、単純な言い方をするようにしてます。そういうふうに簡単に言うと、みんな勝手に考え始めるんで。
1人でやるしかなかった
──そのコンセプトのもとにABEDONさんが作った曲が、「WAO!」(2009年リリース9thアルバム「シャンブル」収録)を下敷きにした「OAW!」です。下敷きにしたというか、逆さにしたというか。
はい。
──ABEDONさんには数々の代表曲がありますけど、その中でなぜ「WAO!」を?
「明るい」テーマのほうはみんな作りやすいだろうし自由にやればいいと思ったんですけど、AIのほうは非常にデリケートというか、複雑なことをやらなければいけないと思っていたんですね。出し方によってはまったく理解されない可能性もあるし、面白くならない可能性もあったんで。だから作り方も見せ方も、非常に慎重に進める必要があったわけです。その中で、メンバーに曲を書いてもらう際に「例えばこういう曲ね」という例題を示す必要があったというか。「例えば、僕だったら『WAO!』をもとにして書くとこうなるんだけど」と言うと、みんなが「ああ、そういうことか」「面白そうね」となりやすいじゃないですか。
──つまり一種のガイドラインとして、「WAO!」が最も適していたということなんですね。
うん、わかりやすいかなと思って。なんとなくこのプロジェクトを象徴してもいるしね。
──AIボーカルで楽曲を作ってみた手応えはいかがですか?
前例がないしフォーマットもないものなんで、作ってる最中はメンバー自身も何をやっているのかイマイチわかっていないような状況になっていたんですよね。レコーディング中も「もう1回説明しましょうか?」みたいな(笑)。みんな的には「よくわからんけど、阿部がやってるんだからまあいいんだろう」くらいの話ですよ。だから、どういうふうに見せたらいいのかはなかなか悩みましたけど……まあ手応えとしては、やってよかったかなと思ってます。僕しかたぶんできないし。
──民生さんは「阿部が1人だけすごく大変そうだった」とおっしゃっていました。
ははは。そうね、これは1人でやるしかなかった(笑)。今回は「本当にできるの?」という判断がまずあるんで、まずAIの制作チームを組んで作曲に入る前に何回かテストをしてるんですよ。できるかどうかわからないのにメンバーに曲を書かせても仕方ないでしょ? だから「AIに歌わせて作品としてリリースするところまで問題なくできます」という確証が得られるまでテストをする必要があったんですけど……上がってきた音声を聴いてみると、意外とクオリティが高かったんですよね。思ったより、なんかこう……倫理的にヤバいレベルで(笑)。
──そして、アルバムではその「OAW!」がご本人の歌唱で収録されていて、ミュージックビデオも制作されました。これまた「WAO!」のセルフオマージュ的な映像で。
監督が板屋宏幸さんなんですけど、「死ぬ前にもう1回ユニコーンを撮らせてくれ」と常々言われていたんです。「死ぬ前に」って変な表現ですけど(笑)。でも板屋さんの撮影って長時間になりがちなんで、俺は「早くしてくれないから嫌だ」って返してたんですけど、まあ今回はこういう曲ということもあるんで「WAO!」ぶりにお願いした感じですね。
──最初に映像を観たときは驚きましたけど、冷静に考えてみると「この曲のMVを作るんだったら、確かにこれ以外あり得ないよな」と思いました。
うん、そう思います。あれ実は逆回転になってるんですよね。逆回転している昔の映像と正回転している現在の映像が交互に現れるという板屋さんの演出で、それはたぶん僕が「WAO!」を「OAW!」って逆に書いたからだと思うんですけど。
──なるほど! 正直、言われるまで気が付きませんでした(笑)。
でしょ(笑)。ここでちょっとそういうふうに言っておけば、わかる人もいるでしょ。
凝り固まるのは古い気がする
──ABEDONさんの手がけたもう1曲の「100年ぶる~す」についても聞かせてください。個人的には「細かいことはさておき、みんなで歌うと楽しいよね」という曲だと感じたんですが、どういうアイデアからできた曲なんでしょうか。
これはね、あのー……昔、「PTA ~光のネットワーク~」(1990年発売の5thアルバム「おどる亀ヤプシ」収録)というパロディ曲を書いたことがあるんですよ。
──あの、TM NETWORK的な。
その曲では、僕らは楽器を演奏してないんです。全部カラオケでやっていて……いや、テッシーはギターを弾いてたかな? まあいずれにせよカラオケ主体なわけですよ。ロックバンドとしてはあるまじき行為なわけです。
──まあ、言ってみればそうですね(笑)。
でも、それが逆にいいなと。ロックバンドだからって楽器を演奏しなければいけないなんて考え方は取っ払ってしまってもいいんじゃないかと思って、楽器を持たずにみんなで歌えるような曲として作ったのがこの曲です。
──確かにユニコーンの場合は各メンバーのパートがあってないようなものというか、一応ありますけど曲によってコロコロ変わりますからね。だったらその延長線上に“楽器を持たないというパート”があっても不思議ではないですし、それがたまたま5人全員でもおかしくない感じはします。
実際そういうバンドもいるでしょ? だからそれでもいいかなと。
──今のユニコーンの自由で楽しい感じがよく伝わってくる、とてもいいお話ですね。
うんうん。なんか固定観念とまでは言わないけど、「こうあるべき」とか「こういうものよね」みたいに凝り固まってるのって、もう古いような気がするんですよね。なんなら、もはや「バンド」という呼び方すら古いんじゃないかと思っていて。バンドであるということに付加価値を置きすぎというか……だからといって、どう呼べばいいのかはわからないんだけど。「団体」とか?(笑)
──「集団」とか(笑)。でも、年齢を重ねれば重ねるほど凝り固まったほうがラクだったりもしますよね。
そうだと思います。はい。
──そういう中で、ユニコーンのような人たちが逆を行ってくれるのはすごく心強いです。勇気付けられる人も多いんじゃないでしょうか。
ああー……そうだと助かります。
──「助かります」って(笑)。
ははは。それが正解なのかどうかは、僕はわかりませんけどね。ただやっぱり……いや、これは5年後くらいに言おうかな。5年後にまたインタビューに来てください。ひとつ考えがあるんで。長期作戦があるんですよ、こっちには。仕掛けとしてはね。
ユニコーンチルドレン・マカロニえんぴつから預かった質問を直接本人にぶつけてみるの巻
ABEDON編
はっとり(Vo, G)からの質問
「開店休業」が大好きです。作ったときのこと(作る際にイメージしていたものなど)を少しでも伺えたらうれしいです。本当にこの歌が好きです。
どうだっけな……だいぶ前のことなんでね。とりあえず言えるのは、あの曲って「イントロ→A→B→サビ」という構成の曲じゃないんですよ。「A→B→A」という、The Beatlesがよくやる形になっている。当時、日本のポップス界では過剰なまでにサビが重要視されていたようなところがありまして、なんなら「サビだけよければいい、それ以外はなんだっていいんだ」みたいな風潮がどっかにあってね。それに賛同しかねる思いが個人的にはあったわけですよ。やっぱり音楽って時間の流れがあってこそのものだし、一部分だけを切り取って残りを捨てるような考え方はちょっと寂しいじゃないですか。それはあんまり面白くないなと思ってこの構成にしたと思います。だから、曲のジャンル的にはロックではないかもしれないけど、精神性としては誰よりもロックな曲なんじゃないかな。
高野賢也(B)からの質問
ライブで大切にしていることはなんですか?
1階席と2階席の間を見て歌うことですかね。それは意外と僕、最初からずっとやっています。2階席がない会場の場合は、1階席のちょっと上あたりを見てやってるかな。要するにお客さんを直接見るんじゃなくて、その頭上あたりを見ることによって、なんとなく手の届かない感じになるんじゃないかと(笑)。ステージに上がるってそういうことだと思うんですよ。実際の僕自身は大した人間じゃないので、音楽をやっているとき以外はどうでもいいんですけど、ステージに立ったときはそういう存在でいなきゃいけないと思うんでそれを心がけていたりしますね。まったく手が届かないんじゃなくて、「届きそうで届かない」くらいの微妙なラインが大事。だから「ちょっと上」なんですよ。
田辺由明(G)からの質問
数多くの現場でサウンドプロデュースをされているABEDONさんですが、ユニコーンのサウンドを作るうえで大事にされていることはありますでしょうか?
よその現場とユニコーンでの違いみたいなことですかね? 基本的には同じかなあ。それぞれのバンドなりアーティストなりの醸し出すカラーというものがありますけど、それが「なぜそうなっているのか」を明確にするのが僕の仕事なんですよね。「たまたまそういうカラーになりました」では、プロとしてやっていけない。毎回サイコロの6を出すのは無理でしょ? でも6を出し続けなきゃいけないんですよ。まあ時々5も出ますけど(笑)、そこらへんをウロチョロしてなきゃいけない。そのためにはどうやってサイコロを振ればいいのかというのを、音楽理論などを使いながら理屈付けしていく作業が多いんですね。そのパターンがバンドの数だけあるわけです。だからユニコーンだけがほかと違うわけじゃなくて、それぞれ違う。「こうやるとユニコーンっぽくなる」という方程式もあるかもしれないけど、それはあくまで僕が潜在的に持っているものなんで。
長谷川大喜(Key)からの質問
ライブを拝見していてワイルドとクールの絶妙なバランスでパフォーマンスをしているように見受けられるのですが、何か意識されていることはありますか。
そんないいもんじゃないです(笑)。おそらく、担当する楽器の特性上そうなってるのかもしれないね。鍵盤を弾くときとギターを弾くとき、ボーカルを取るときで回ってくる役割が違うから。ユニコーンではセンターに立つ人間がどんどん変わりますけど、そのときセンターにいる人が引っ張っていくほうが面白いだろうと思ってるんですよ。だから僕の番が回ってきたときは「俺が引っ張る」という感じになるし、引っ込んだときは僕じゃないところにお客さんの目が行ってほしい気持ちがなんとなくあって。それが、僕の場合はちょっと極端に見えるということなのかもね。自分では特にそのバランスを意識しているということはなくて、そのとき立つポジションが自然にそうさせているということだと思います。
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