ulma sound junction「INVISIBRUISE」インタビュー|メジャー1stフルアルバムで示す無限の可能性

ulma sound junctionが6年ぶりとなるフルアルバム「INVISIBRUISE」をリリースした。

昨年4月のメジャーデビュー以来、初のフルアルバムとなる本作は、アニメ「ラグナクリムゾン」のオープニングテーマ「ROAR」や10分超えの大作「Protopterus」など、テイストの異なる10曲が収録された多彩な1枚となっている。本人たち曰く「この先のいろんな可能性を作ることができた」という「INVISIBRUISE」はどのようにして生まれたのか。メンバー4人に制作の裏側を語ってもらった。

取材・文 / 西廣智一撮影 / NORBERTO RUBEN

いろんなベクトルの曲を詰め込みたかった

──昨年4月に「Reignition」でメジャーデビューしてから1年半以上経ちましたが、メジャーデビューの影響を感じることはありましたか?

田村ヒサオ(Vo, B) メジャーデビュー後に大きな変化を感じているかと言われるとそこまでではなくて、現場1つひとつを大切にするところは昔とそこまで変わらないのかな。ただ、コロナによって業界全体が停滞した感じを我々も味わったので、そこを払拭していこうとガツガツ進んでいく姿勢はメジャーデビューの影響を受けているのかもしれません。

加勢本タモツ(Dr) コロナの期間は配信でのライブがメインでしたし、状況が緩和されていくにつれて動きやすくなったものの、同時にこのアルバムの制作期間に突入したので、僕は最近になって「やっとライブができる!」という感覚になってきたところです。そういう意味では、ここまでの準備期間が長かったですね。

田村 しかも「Reignition」は過去曲のリテイク中心だったので、そこも制作のウェイトとしては違いましたし。

福里シュン(G) 今までふざけていたわけではもちろんないですけど、リテイクのあとのフルアルバムなので「真剣にやらなくちゃ」という覚悟が必要だったよね。

──しかも、フルアルバムとなると2017年の「imagent theory」以来6年ぶりですし。

田村 フルアルバムは6年ぶりですけど、その間にEPが2枚あって。1st EPの「primary」(2021年発表)から考えると1年おきに作品を発表できているので、腰が重いとかマイペースすぎるとよく言われる我々としては(笑)、しっかりやってますよというアピールもできていたんじゃないかな。

田村ヒサオ(Vo, B)

田村ヒサオ(Vo, B)

──では、今回のアルバムではulma sound junctionとしてどんなものを聴かせたい、見せたいと考えましたか?

田村 アルバムとしては特にコンセプチュアルな内容にはせず、いろんなベクトルの曲を詰め込みたいと思っていました。例えばラウドに特化したものもあればプログレッシブロックの要素が主になる長尺の曲、とことんダークな曲もあるし、ポップスみたいにキャッチーな曲もあって、さらにはピアノとボーカルだけのシンプルな曲もある。どういう方向に進んでもよかったと思えるような強みがある、聴く人にとってどの曲がリード曲になってもおかしくないような内容にしたかったんです。

──正直ここまで多彩なアルバムを想定していなかったので、最初に聴いたときは驚きました。

田村 そうですよね。我々も驚きましたから(笑)。

山里ヨシタカ(G) ピアノだけの曲なんて誰も想像してなかったでしょうし。「こんなことをやるバンドなんだ!」と思ってもらえることが、また新鮮ですよね。

山里ヨシタカ(G)

山里ヨシタカ(G)

──穿った見方をすると、ポップな曲やピアノバラードに対して「メジャーに行ったから日和った」と揶揄する声があっても不思議じゃないんですが、アルバム全体の流れでは間違いなく必然性のある楽曲なんですよね。

田村 そうですよね。だから、浮いていないですし。僕らも特別メジャー感を意識したわけではなく、守りに入るようなことを一切せずともこういうカラーになった。柔軟性とまでは言わないですけど、この先のいろんな可能性を作ることができたと思っております。

──そういうポップでムーディな曲が含まれるアルバムですが、オープニングナンバー「Appetite」の頭10数秒でガツンとやられるわけで。メジャーから初めて出すアルバムでこの幕開けを飾るところにも、僕は強い意思を感じましたよ。

田村 ありがとうございます。それこそラストの「Protopterus」なんて10分超えてますから、メジャーっていう枠組みはそこまで意識していないことはわかってもらえると思います。

加勢本 実は、メジャーという枠組みについては自分たちが一番わかってないかもしれません(笑)。

田村 昔からこういうスタイルで続けてきたので、それを今もやらせてもらえているのはすごくありがたいことだと思います。

人生初タイアップがもたらした気付き

──このアルバムにはアニメのタイアップ曲も含まれています。皆さんに初めてインタビューしたとき(参照:沖縄発プログレ×ラウドロック・バンド・ulma sound junctionがメジャーデビュー、キャリア17年の歩みを振り返る)、田村さんは「僕らはゴールデンタイムのアニメでThe Dillinger Escape Planがかかってもいいくらいの感覚でいこうと思っているので、そういったことにも挑戦できるようにがんばっていきます」とおっしゃっていましたが、それも「ROAR」で実現させている。現在オンエア中のテレビアニメ「ラグナクリムゾン」のオープニングテーマとしてこの10月からオンエア中ですが、ulma sound junctionらしいサウンドで何ひとつ“寄せた”感もないですし。

田村 言ってましたね(笑)。

山里 僕らが一番驚きましたから。

田村 「ROAR」に関してはまず、アニメ用にいわゆる89秒尺のものから作ったんです。フル尺を考えたのはそのあとなんですよ。極端な話、フル尺は6分になろうが10分になろうがいいと割り切っていたんですけど、結果的にはコンパクトにまとまって。この手法は僕らとしては初めての経験でした。でも、僕らの楽曲制作の方法は昔から足し算が多かったので、プロセスとしては今まで通りだったのかなと。そう考えると、そこまで違和感はなかったです。

山里 そういう意味では、思ったよりも着地点が見えていたところもあって。今、「6分になろうが10分になろうが」と言っていましたけど、89秒バージョンの時点でこのリフで終わるという着地点ができていたので、思ったよりもすごく足し算したわけでもなく、ちょっとの足し算ぐらいで済んだのかな。そういう意味でもコンパクトにまとまったと思います。

福里 作詞に関してはプロの作詞家さんとの共作で。曲に関しても先方の意向も汲んで作っていくのは初めての経験だったので、メインコンポーザーの田村はやり取りもいろいろ大変だったと思います。で、アニメ用がかなりコンパクトだったので、フルは長尺になるだろうなと覚悟していたんですけど、結果コンパクトにまとまったのでよかったなと(笑)。

田村 大変ではあったけど、いい経験になりました。

加勢本 人生初のタイアップ曲だしね。

福里 レコーディング現場で、ボーカルに関して「こういうニュアンスで」とかアドバイスを出してもらったのも、新鮮でした。

福里シュン(G)

福里シュン(G)

──フル尺バージョンでも確認できますが、イントロからワンコーラス終わって、アウトロというか間奏までがきっちり89秒ですね。テンポも含めて緻密に考えられたアレンジなんだろうなと思いました。

田村 そうなんですよね。テンポに関しても先方の意向も汲みつつ、やり取りしながらたくさんのバージョンを作って選びました。結果として大変さよりも楽しさのほうが勝ちましたね。

──他者からお題を与えられて、その枠組みの中で作っていくという、新しいチャレンジなわけですものね。

田村 制約があるとないとでは、意外とあるほうがいいものが作れるんだなと思いますし。我々みたいなプログレッシブロックと言われているバンドは、これくらい制約を設けることがいい作品を作るうえでは大切なのかもしれないという、新たな気付きもありました。

──「ROAR」で初めてulma sound junctionに興味を持ったリスナーが、最初に触れるCD作品がこの挑戦的なアルバムというのがまたいいですよね。

加勢本 ほかの曲を聴いてどう思うのか、ぜひ聞いてみたいですよね。

福里 「あれっ?」って思うのかな(笑)。

山里 落差がすごいですからね。

田村 言ってしまえば、普段ポップスしか聴かない方にも引っかかる曲があるはずだし、ラウドを求めている方も楽しめますし。ファンキーな曲だったり暗い曲だったり、本当にいろんなタイプの曲で迎え入れる準備ができています。

ライブでは再現よりアドリブ感を楽しんでほしい

──このアルバムは曲順が本当に秀逸ですよね。冒頭の「Appetite」「ROAR」でガツンとやられたかと思うと、SE的な3曲目「Seizure」でワンクッション置いて、続く長尺曲「Patient of Echo」からエンディングの「Protopterus」までの構成がとても濃厚です。

田村 ありがとうございます。曲順についてはいろんな方から褒めてもらえるんですが、これって特徴的なんですかね? 我々としても曲順についてはいろいろ話し合いましたが、最初の曲と最後の曲だけは全員共通の意見で。それ以外は……正直、今でもこれが正解なのか自信がなくて。

加勢本 特に中盤の流れが難しかったよね。

山里 「Protopterus」はさすがに途中で聴きたくないので、最後しかなかったし。

福里 まあ長すぎるから(笑)。

──「Protopterus」1曲に何曲分のアイデアが含まれているんだ、と最初に聴いたときは驚きました。

田村 対バン相手からも言われるよね、「この1フレーズで1曲作れるのに」って(笑)。

──同じ長尺曲でも、「Patient of Echo」と「Protopterus」でここまで違う色を出せるんだと、そこにもニヤリとさせられました。

田村 「Patient of Echo」はテンポチェンジがない中で、構成や雰囲気で聞かせるタイプの長尺曲なんですけど、逆に「Protopterus」は目まぐるしい展開を繰り返しますからね。

加勢本 テンポもめっちゃ変わるしね。

加勢本タモツ(Dr)

加勢本タモツ(Dr)

──「Protopterus」はレコーディングも特に大変だったのではないでしょうか。

加勢本 どの曲も大変なんですけどね(笑)。もっと言うとライブでやるのがさらに大変で。

田村 レコーディング中に「ここはライブで再現可能なのか?」という部分も出てくるんですよ。でも、再現できるかを重視するよりも我々がこの1曲をどう表現したいかが重要なので。特にうちのドラムはライブになるとわりとアドリブをかましてくるんですけど、全然それでいいと思っています。

加勢本 ライブの雰囲気って日によって違うわけじゃないですか。そこでアルバムと同じことだけをやっていてもね。

田村 もちろん、曲によっては再現性を重視するものもありますけど、根本的にはライブバンドなので、そのへんも大事にしていかなくちゃなと常に思っています。