音楽ナタリー PowerPush - 上間綾乃
“はじめての海”との出会いがもたらした新しい歌声、進化する私
ルーツを示すための「てぃんさぐぬ花」
──レゲエテイストの「夏いちりん」やハッピーな雰囲気に満ちた「オキナワのともだち」などはともにホーンがフィーチャーされていて、ライブで盛り上がりそうなテンションの高い楽曲ですね。
はい。「夏いちりん」なんかは、この夏に野外フェスに出演することが決まっていたので、バンドの皆さんに「野外フェスのイメージで演奏をお願いします」って最初に伝えましたから(笑)。ものすごく夏を意識した曲なんですよね。
──歌声も楽しそうに弾けていますし。
実は「夏いちりん」と「オキナワのともだち」、あと「はじめての海」はオケ録りのときに歌った仮歌をそのまま使ってるんですよ。今回の制作は前半で足踏みしたぶん、後半がすごく立て込んだんですね。だから最後の最後に熱が出て、声は出るんだけどフラフラな状態になってしまったんです。スタッフには「無理しなくていいよ」とは言われたけど、CDの発売日に間に合わなくなる可能性もあったから、とりあえず仮歌を歌ってみて。そうしたら思いがけずいいテイクが録れたので、そのままいこうということになったんです。
──熱が出た状態でテンションの高い曲を歌うのは大変そうですけどね。
熱が出たことで、「これは何度も歌うことはできないぞ」と思ったんでしょうね。だから今までにない集中力が発揮できたのかもしれないです。ま、いつもそのくらいの集中力を出せよっていう話ではあるんですけど(笑)。
──資料を見ると、アルバムのラストに収録されている沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」の歌もデモテイクをそのまま使っているそうですね。
そうそう。それはね、今回初めてご一緒する松浦(晃久)さんにアレンジをお願いするにあたって、「てぃんさぐぬ花」がどういう曲なのかをまず聴いていただいたんですよ。松浦さんの自宅スタジオで、松浦さん家の猫が足にスリスリしてくる状況の中(笑)、三線を弾きながら1人で歌ったんです。で、それを一応記録用として録音しておいたら、数日後に「これをそのまま使いませんか」って言われて。私は仮のつもりで歌っていたからそれはどうなのかなと思ったんですけど、気負いがない、自由でゆったりとした気持ちが歌と三線に表れてるからすごくいいんだよっておっしゃってくれたんですよね。
──確かにすごく柔らかく、温かな雰囲気が感じられる歌ですよね。
結果的に私も、仮歌を使ってすごくよかったなって思いました。ただ、歌と三線を1本のマイクで録っていたから、エンジニアの方はかなり大変だったと思うんですけどね(笑)。
──曲の後半には、上間さんが補作した歌詞が付け加えられていますよね。それはどうしてだったんですか?
その場でパッと思い付いちゃったんですよ(笑)。お昼から夕方に差し掛かる頃の、すごくキレイな光の中で気持ちよく歌っていたからでしょうね。明日の楽しみは太陽とともにある、陽が沈んでもそれは終わりではなくまた生まれ変わって繰り返すんだっていう気持ちになれたというか。だからそれをそのまま歌いました。
──アルバムの最後にご自身のルーツである沖縄民謡が入り、しかもそこには上間さんからのメッセージも込められているっていうのは、ものすごく大きな意味がありますね。
そうですね。私はルーツをしっかり持っています、だからこういう曲たちが生まれましたよっていうメッセージが最後に伝わればいいかなって。今回は4人のアレンジャーの方とご一緒したことで、自分の中にある新しい引き出しをたくさん開けることができたと思いますね。いろいろあったけど、本当に面白い制作でした。
変わることを恐れないのが大事
──前回のインタビュー(参照:上間綾乃「ニライカナイ」インタビュー)のときに上間さんは「民謡という土台がありつつ、その上で自分なりの表現を突き詰めていきたい」といったことをおっしゃっていましたが、本作ではそれがさらに大きく押し進められた印象です。民謡というくくりでは収まりきらない新しい表現が詰まっていますから。
それを感じていただけたならばすごくうれしいです。歌というのは生モノなので、もっとこうすればよかったなっていうのはすぐ見えてきてしまうものなんですよ。でも、そういった成長過程の中でできる今の精一杯を今回も詰め込むことができたと思うんです。自分でも何度も何度も聴きたくなる自信作になりましたね。
──制作への欲求はまだまだ止まることはなさそうですね。
はい。今回の作品でやりたかったことがたくさんできたけど、これからの新たな方向性が見えた部分もありましたからね。すぐにまたレコーディングを始めたいです。
──東京での生活が2年目に入り、また多くの刺激を受け取ることになるでしょうし。それがどう楽曲に反映されていくのかも楽しみです。
まだまだ新しい出会いがたくさんあるはずですからね。この1年で変わることを恐れないのが大事なんだっていうことに気付けたので、これからも進化していく上間綾乃の姿をずっと見続けてほしいなって思います。
収録曲
- はじめての海
- 波
- 花言葉
- 夏いちりん
- 童神(わらびがみ)
- あの角を曲がれば
- オキナワのともだち
- 海へ来なさい
- あなたには守ったものがある
- てぃんさぐぬ花
ライブ情報
上間綾乃 Concert Tour 2014「はじめての海」
- 2014年8月30日(土)東京都 東大和市民会館ハミングホール
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2014年9月13日(土)東京都 EX THEATER ROPPONGI
OPEN 17:00 / START 18:00 - 2014年9月15日(月・祝)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 16:30 / START 17:00
上間綾乃(ウエマアヤノ)
1985年生まれ、沖縄県出身の女性シンガー。小学校2年生から三線を習い始め、19歳で琉球國民謡協会教師免許に合格する。インディーズでCDを発表し積極的なライブ活動を行う中、2012年5月にアルバム「唄者」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。2013年には1stシングル「ソランジュ」、2ndアルバム「ニライカナイ」を発売し、「FUJI ROCK FESTIVAL '13」への初出演も果たした。2014年7月に3作目のフルアルバム「はじめての海」をリリース。