上田麗奈が10月21日に2ndシングル「リテラチュア」をリリースした。
表題曲は10月クールの新アニメ「魔女の旅々」のオープニングテーマ。主人公の女の子が出会いと別れによって成長する姿を描いたこの曲は、上田の「誰かとつながりたい」という気持ちを重ねて丁寧に作り上げられている。このインタビューでは、「もともと歌うことが嫌いだった」と語っていた上田が周囲の支えに気付き、“1人の戦い”を終わらせるに至った変遷と今作にかけた思いに迫る。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 須田卓馬
スタイリスト / 下田翼 ヘアメイク / 矢澤睦美(Sweets)
「あなた」との出会いと別れがあったから次に進める
──1stフルアルバム「Empathy」(2020年3月発売)リリース時のインタビューで、1つ聞きそびれてしまったことがありまして。
はいはい、なんでしょう?
──上田さんは「Empathy」を作るにあたって「アーティスト活動というものに対してより前向きになっている部分があるので、音楽的にも春っぽく、ちょっとカラフルになっていく」とおっしゃっていました(参照:上田麗奈「Empathy」インタビュー)。当時、何か前向きになるきっかけがあったんですか?
私は音楽活動を始めた当初、ずっと「1人の戦いだな」と思っていたんです。デビューミニアルバムの「RefRain」(2016年12月発売)では、まずは自己紹介の曲を作ろうというので自分の意見も反映させてもらったんですけど、もともと苦手から入っている活動だったので、いっぱいいっぱいだったこともあって。自分の周りにどういう人たちがいて、どういうふうに作品に関わってくださったのかというのを考えられていなかったんですね。
──はい。
それが、活動に慣れていくにつれて、こんなにも周りの人たちの支えがあったんだというのに気付けて。自分のことをしゃべるだけじゃなくて、ちゃんと会話できるような、もっとみんなとつながれるようなものを作りたいと思った結果、どんどんカラフルになっていったというか。心が花開いていく感じがしましたね。
──「RefRain」に比べて、「Empathy」はマインドが外向きになっていますよね。
うんうん。今回のシングルでもそういう流れができていて。「RefRain」という孤独な冬のミニアルバムを聴いてくださった「メルヘン・メドヘン」というアニメ作品のチームが「sleepland」(2018年2月発売の1stシングル)を作ろうと言ってくださったんですけど、今回も春の「Empathy」を聴いてくださった「魔女の旅々」のチームが声をかけてくださったんです。そうやってアルバムを受けて作るシングルがちょっとずつ変化していて、だから「リテラチュア」はすごく明るい曲になったなあと。
──僕も「Empathy」から「リテラチュア」への連続性を感じます。こじつけかもしれませんが、音楽的にも「リテラチュア」はハウスを下敷きにしたようなトラックで、それがディスコやR&Bを取り入れていた「Empathy」と地続きになっているような。
おお。音楽的なことについてはわからないことが多くて、「そうなんですね」としか答えられないんですけど、内面にあったものが音楽として完成されて外に出た結果、そういうふうに捉えられるというのはとてもうれしいです。
──あるいは「リテラチュア」の歌詞に「あなた」がいるのも「Empathy」の延長のようで。
うんうんうん。「魔女旅」の主人公はイレイナという女の子なんですけど、彼女はいろんな土地を旅しながら人と出会って、そして別れていく過程で成長していくんですね。つまり“あなた”との出会いと別れがあったから次に進める。それを「リテラチュア」で描くことができたのは、「Empathy」を作っていたときに「誰かと会話したい、誰かとつながりたい」という気持ちを大事にしていたからこそだと思います。
キラキラしすぎない方向でも大丈夫ですか?
──「Empathy」は“共感”をテーマにしたコンセプチュアルなアルバムでしたが、今作も1枚のシングルとして何かしらテーマを設けたんですか?
やっぱりタイアップ曲は、作品と切り離されたアルバム曲とは作り方も考え方も違っていて。今回は「魔女旅」とイレイナを軸に、まずは表題曲を作って、そこにカップリング曲をなじませていくような考え方だったんですね。
──では、表題曲「リテラチュア」の制作はどのように?
最初にみんなで打ち合わせをして、イレイナのどこにフォーカスするかを話し合ったんですけど、そこでさっき言ったように、優等生の女の子が本で読む文学じゃなくて“出会いと別れの文学”で成長していくというテーマにしようと決めて。じゃあ、優等生でありつつ、成長していくための明るさや力強さを持った人って作家さんだと誰になるだろうと、またみんなで意見を出し合ったんです。もう、お芝居のキャスティングと同じような感じで。
──そこでRIRIKOさんが作詞、作曲に抜擢されたと。
そうです。RIRIKOさんは今まで作詞をお願いしたことはあったんですけど、曲を作っていただいたことはなかったので、私としてもすごく楽しみで。楽曲のテイストとしては、オープニングテーマだけど、オープニングらしいキラキラ感はあんまり出したくなくて、私からもアニメの制作サイドの方に「キラキラしすぎない方向でも大丈夫ですか?」と相談したんですよ。「私に声をかけてくださったということは、キラキラ感がそんなになくても成立するということなのかしら?」と思いつつ、探りを入れる感じで。
──あまりキラキラしないほうがいいというのは、作品の性質を考えてのことですか?
というより、1人の女の子の成長を描くにあたって、ふわっと足が浮いちゃうような、軽薄さみたいなものを出したくなかったんです。やっぱりそこにはそれなりの重みというか、シビアさがあるはずなので。
──タイアップ曲というとコンペで選ぶ、つまりあらかじめ用意された楽曲の中から選ぶケースも多いと思いますが、上田さんの場合は作家選びの段階から丁寧に作っているんですね。
やっぱり、内面がフィットするかどうかが一番重要かなと思っているので。コンペだと、その作家さんがどういう方なのかわからないこともあるし。実は「Empathy」のときにコンペをして、「こういうイメージがいいです」という要望にしっかり応えてくださる方は多かったんですけど、そのぶん作家さん自身の個性が見えにくくなってしまって。なので、もしこちらの思惑にハマりそうな作家さんが思い浮かぶんだったら、その方にお願いして詰めていったほうがいいかもしれないなと。
──なるほど。
RIRIKOさんにしても、優等生的な部分は知っていたけど、イレイナみたいに本心が出てきて等身大になったときにどうなるかはわからなかったので、そういうRIRIKOさんも見てみたくて。あとRIRIKOさんの歌詞は、2番以降がさらに素晴らしくなるというのも知っていたから、それもイレイナが成長していく様子と噛み合うんじゃないかと思ったんです。
「主人公になれていますか?」
──完成した「リテラチュア」は、おっしゃる通り明るいけれどキラキラしすぎず、軽やかだけれど浮き足立ってはいないという、絶妙なラインを突いていますね。
本当に、デモの時点で「何も言うことがない!」と思いましたし、こちらの期待を軽々と超えるものを作ってくださいました。歌詞にしても、やっぱり2番以降はすごいグッとくる、泣いちゃう歌詞だったので。
──具体的にどのあたりですか?
もうAメロの「期待されていること 見向きさえされないこと」から泣きそうなんですけど、Bメロの終わりの「主人公になれていますか?」で「ひえええええ!」ってなりました。そのあとのサビも、1番と同じメロディとリズムなのに、自ずと歌のニュアンスが変わってくる歌詞を付けてくださっていて。ここは落ちて落ちて、気持ちがどんどん沈んでいって……というのを表現できたので、本当にすごい歌詞だなあと思いました。
──イレイナの成長を描いた歌詞だけれど、上田さんも共感できる?
できますね。「私って、ちゃんとやれてるのかな?」と不安になることはしょっちゅうありますし。挫折もいっぱい味わうんだけど、そういう中で人と関わり合ってだんだん変化していく。そのすっきりする感じもわかります。だから仕事や勉強、部活だったり、一生懸命がんばっている人にすごく響く歌詞なんじゃないかなって。
──前回のインタビューで、上田さんはご自身の音楽について「自分で好きなものを選んでいった結果、自然と方向性が定まっていった」とおっしゃっていました。
はいはい。
──それが、サビの「好きだから選ぶ 選びながら私になってゆく」という歌詞に重なる気がしたんですよね。
ああ、確かに、言われてみればその通りですね。でも私、ここはどうやって歌ったんだろうな……たぶん「泣きたくなるくらい、恵まれているなあ、うれしいなあ」みたいな、ちょうど泣いているのと笑っているのの中間くらいの感じでふわっと歌ったと思うんですけど。自分にもそういうことがあったなあって、今気付きました。
声でお芝居をしている人間として歌う
──「リテラチュア」のボーカルは、感情の揺らぎあるいはうねりみたいなものを声で細やかに表現していると思いますが、今のお話ぶりですとレコーディングしたときのことはあまり覚えていない?
私、どうやって歌ってるんだろう? スタッフさんからはよく“降臨型”と言われるんですけど(笑)。
──降臨型(笑)。何かが降りてくるんですか?
いや、歌う前に構築はするんです。台本を読むときもそうなんですけど「ここにこの言葉があるから、そこに向けてこういう気持ちになって……」とか、どこに感情のポイントがあるのかを考えて。一方で「思ってたより大きい感情の波が来たなあ」みたいな、出たとこ勝負的なものも大事にしたいんです。だから頭で考えて、1回それを体に覚えさせるんですよ。
──体に?
ここで言う体というのは心の筋肉みたいなもので、その筋肉の使い方を覚えたうえで歌うんだけど、予期せぬ何かがどんどん飛んでくるから予想外の動きをしなきゃいけなくなったり、逆に動けなくなったりして。そうやって、その場で生まれたプラスαも取り込んでいくような作り方をしているので、歌の技術面は意識していないんです。歌手として歌うというよりは、声でお芝居をしている人間として歌うことを大事にしたいから、気持ちの波を優先して、流れに任せる感じで。だから私のレコーディングは頭からお尻まで通して歌い切るし、その結果、テイクによってまったく違うものが生まれたりするんですよ。
──「Empathy」に収録されていた「いつか、また。」などは、その波が特に激しそうですね。 奇しくもこの曲の作詞もRIRIKOさんですが。
ああ、そうですね。「いつか、また。」は本当にいろんなテイクがあったと思います。お芝居でもそうなんですけど、感情の山場みたいなものをどこに持ってくるかによって前後の流れも変わってくるので、それが1つでも変わると全部変わっちゃうんですよ。
──アウトテイクも聴いてみたいですね。
どのテイクでも素直に感情を出していたはずなので、どれも成立はするんじゃないかなと。ただ、どの感情の流れが最もこの曲に相応しいかとか、音楽として完成度が高いのはどれかとか、総合的に判断した結果、あのテイクが選ばれました。
次のページ »
音じゃなくて心で演じるんだ
2020年10月30日更新