植田真梨恵|必要な言葉だけを、シンプルに美しく

本当に必要な言葉だけを歌詞にする

植田真梨恵

──3曲目の「distracted」はどういうテーマで作ったんでしょう?

これも“本当に必要な言葉だけを歌詞にする”っていう、ここ最近の私のブームの一環で制作した曲ですね。「Lazward Piano」のMCで、話す内容を事前に決めきってしまわないで、その場でそのとき本当に思ったことをただ話す時間を作ろうと思っていたんですけど、初日の札幌公演で私は「美しいと感じる方向に私は進んでいきたいです。皆さんもそうしてください」って話したんですよ。自分で想定していたより激しく心が動いていて、私自身思いがけない言葉だったんですけど、その言葉って私にとってめちゃくちゃ大事なことだなって思ったんですよね。今でも、人生の中で難しい選択に迫られたときの判断基準として「迷ったら美しいほうへ」がテーマになっています。この曲を書いたときもまさにそういう気持ちで、美しい関係を美しい気持ちと美しい言葉だけで曲にしようと思って作ったものです。

──メロトロンの独特なサウンドが印象的ですが、なぜ入れようと?

メロトロンって子供の頃のすべてに守られてる感じと、全部がなくなっちゃいそうな感じ、その両極端があるように感じる楽器だなと思っていて。The Beatlesの「Strawberry Fields Forever」とかまさにメロトロンから始まりますが、強さと脆さの両方があって、かつ甘さのある雰囲気にしたかったので。

──メロトロンの音色にはちょっと不安定な感じもありますが、タイム感もちょっと遅れるんですか?

あ、あれはあえてアタックを遅らせているんです。西村さんに弾いてもらったんですが、めっちゃ緊張していたのが印象的でした。メロトロンって鍵盤の数も多くないし、この曲でやってることと言えばシンプルなことだけなんですけど、終わったあと「めっちゃ疲れた」って言ってて。歌入れのとき私もまったく同じ気持ちになりました。ちっちゃい声でしか歌ってないけど、「一発で決めるんだ」「どんなに音を外してもこのテイクを使うんだ」という気持ちで歌ったので。

──一発録りだったんですね。

絶対そうしてくださいって言ったわけではないんですけど、西村さんも感じ取ってくれて。「1回でやるっきゃないだろ」って雰囲気の中それぞれ録音したら、今度はミックスでも「これはもうモノラルでしょ!」っていう流れになっていって(笑)。それくらいの潔さを持った曲になりましたね。

この世に残したかった

植田真梨恵

──初回限定盤には植田さんのiPhoneのボイスメモで録音した、「distracted」のアコースティックギターの弾き語り音源が収録されますね。

朝方に自宅のリビングで歌った1テイク目で、私自身も初めて通しでこの曲を聴いたときの音源です。

──先程アレンジは料理だというお話がありましたけど、それで言うとこの音源は何も味付けをしていないと言っても過言ではないですよね。それをそのまま出せるのって、素材である曲自体がいいからにほかならないと思います。

ありがとうございます。私はこの生まれたての「distracted」がめっちゃ好きで。初めて歌う緊張感や不安さ、でも素敵にしたいっていう息遣いも含めて、レコーディングスタジオに入ってがんばって初心に帰って演奏しても表現できっこない感じがしたので、どうしてもみんなに聴いてほしくて。私のiPhoneに残ってるだけではあまりに惜しくて、この世に残したかったんですよね。

──そんな曲を作れるなら、もっと自信があっていいんじゃないかと思うんですけど(笑)。

ははは(笑)。天才かもって思うことも2秒くらいあります。でも才能ないって思うことのほうが多いですし……わからないんですよね。

これからも一番素敵だと思えるものを

植田真梨恵

──改めて活動10周年おめでとうございます。

ありがとうございます。本当に思いがけないことの連続で常に手探りで続けてきたんですけど、一緒に歩んできてくれたスタッフとファンの方がいてくれての10周年なので、本当に感謝しています。

──10年前の自分に声をかけるとしたら?

「がんばって。のちにいい友達いっぱいできるから安心してね」って言いますね。あと「もっと曲書いてもいいと思うよ」かな(笑)。

──次の10年は想像しにくいかもしれませんが、10周年を経てこの先どう過ごしていきたいですか?

これからもその時々で一番素敵だと思えるものを作っていくんだろうなと思います。私の歌を聴いてくださってる方はまっすぐで、不器用で、責任感の強い人が多いと思っていて。そういう人たちに対して、私自身が自分の気持ちに正直に、いいと思えるものを届けていきたいと思います。より一層がんばっていきます。