音楽ナタリー Power Push - UA

愛と祈りを込めた7年ぶりのアルバム「JaPo」

私は歌とか音楽でしか感じてることを表現できない

──オープニングを飾る「AUWA」は、本作のサウンドのメインであるポリフォニー / ポリリズムを体現するナンバーですね。UAさんの自在なボーカルが歌としても、音そのものとしても、同時に突き刺さってくるというか。

この曲はけっこう入魂してるよね(笑)。ただ、これ見よがしに難しいことをやりたかったわけじゃ全然なくて。さっき話したみたいに、伝えたいのは結局、愛なの。私たちのいるこの世界が、これ以上悪くなってほしくないという祈り。それを理屈や押し付けがましいメッセージではなく、シンプルに音として響かせたかったんです。

──それが「JaPo」というアルバム全体を貫くテーマでもあると。

そう。震災後しばらくはね、音楽活動以外にも自分に何ができるかを考えて、なるべく発言するよう心がけてた時期もあったんです。でも、どこか自分でも腑に落ちなかった。やっぱり私は、歌とか音楽でしか感じてることを表現できないんだなってつくづく感じたのね。実際、人類全体の意識を変えないと、この社会はもう立ち行かないでしょうし。そのことに気付いてもらいたいなら、少なくとも私の場合、言葉を費やすよりも音楽やリズムに回帰したほうがよっぽど早い。アルバムの中でも特に「AUWA」はその意識がストレートに出ていると思います。

──曲の中盤に、耳慣れない言葉が4ライン入っていますよね。これはなんでしょうか?

あれは「ホツマ」といって、漢字が入ってくる前の古い日本語。いろんな説があるみたいだけど、聞こえ方が面白いので採り入れてみました。

──語呂がよくて、しかも響きがソリッドでカッコいいですよね。

やったー!

──あの部分はどうやって作ったんですか?

UA

辞典が出てるので、普通にそれを買ってきて(笑)。本とにらめっこしつつ、音と意味がうまくハマる単語を選んでます。例えば1行目の「アーカーシャ ヤヤ キラ タラ チネ イクラムワタ ハ」は、「虚空 稚児 雲母 父母 地根 五臓六腑 葉」という意味。「AUWA」というのは、「宇宙の中心」という意味があります。こういう古い言葉を混ぜてみたくなったのは、ホツマとはまた違いますけど、たぶん私が母方の故郷にあたる奄美の島唄を習い始めたことも関係してるんじゃないかなと。

──へえ、どうしてですか?

なんだろう……島唄を歌うのって、自分のオリジナルの曲を歌うのとはまったく違う感覚があるんですね。やっぱり何百年、もしかしたら千年以上も前からずっと受け継がれてきた曲であり、言葉が歌われてるから。私自身が触媒になり、大きな時間の流れにつながって、昔のものを今に降ろしてる感じがするのね。その感じが少しでもアルバムに採り入れられたらいいなと思って。求めているのは、ロジックではない部分で現実に作用するような音なので。昔の言葉を引っ張り出したのは、自分なりのトライアルだったと思うな。

──ゆったり揺らぐようなリズムの「JAPONESIA」も、奄美の島口(方言)と英語が巧みにミックスされてますね。どちらも青柳さん作曲のナンバーで。

うん。そういう意味では「KUBANUYU」もそうだよね。声とギターと跳ねるようなパーカッションが重なったリズミカルなアレンジですけど、歌詞はすべて奄美の島口。実はスタジオに入って、最初に一発録りしたのがこの曲で。タイミングを合わせるのが大変で、レコーディングに丸々1日かかりました(笑)。

残した言葉や声に祈りが宿る

──アルバムタイトルのもとにもなった「ヤポネシア」という言葉は、もともと作家の島尾敏雄さんが考案した造語なんですよね。

UA

そうなんです。日本という国家ではなく、いろんな島々が連なった日本列島を表す言葉。そこから土地の文化がなだらかに連なり、お互いに認め合ってきれいな弧を描いているイメージが浮かんでくるんだよね。今って資本主義がグローバル化を推し進めて、そういった細かい地域性を壊しているでしょう。そうじゃない豊かさを示したかった。あと、島尾敏雄さんの奥さんのミホさんは奄美出身だから不思議な縁も感じました。島尾ミホさんと作家の石牟礼道子さんの対談が載った「ヤポネシアの海辺から」という本は、今回のアルバムにすっごく影響してると思います。

──「JAPONESIA」の曲後半では、細かいビートに乗せてジョン・レノン「Imagine」のメッセージに通じるフレーズが登場しますね。

リスペクトを込めて歌わせてもらってます。最近「Imagine」みたいな曲を聴くと、やっぱりソウルって残るんだなとすごく思うんです。(忌野)清志郎もそうだよね。何年か前までは正直、彼らについてそこまで深くは捉えてなかったけど、年を重ねるにつれてどれだけ偉大だったかがわかってくる。本人がどういう人だったかとはまた別のところで、残した言葉や声に祈りが宿ることって本当にあるんだなって。

ニューアルバム「JaPo」
2016年5月11日発売 / 3240円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64408
[アナログ] 2016年6月29日発売 / 3780円 / HRLP-026
収録曲
  1. AUWA
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  2. JAPONESIA
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  3. ISLAND LION
    作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド
  4. いとおしくて
    作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド
  5. あいしらい
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  6. KUBANUYU
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  7. BEAM YOU
    作詞:UA / 作曲:レイチェル・ダッド
  8. 愛を露に
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
  9. TARA
    作詞:UA / 作曲:ヨシダダイキチ
  10. ドチラニシテモ
    作詞:UA / 作曲:青柳拓次
UA TOUR 2016「HELLO HAPPY JAPONESIA」
2016年6月12日(日)
神奈川県 Yokohama Bay Hall
2016年6月18日(土)
東京都 日比谷野外大音楽堂
2016年6月23日(木)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2016年6月24日(金)
大阪府 ユニバース
2016年8月7日(日)
大阪府 ユニバース
UA(ウーア)
UA

1972年大阪生まれ。1995年にシングル「HORIZON」でデビューし、1996年発表のシングル「情熱」でブレイク。同年発売のアルバム「11」は90万枚を超える大ヒットを記録する。以後、ソウル、ジャズ、レゲエなど、ジャンルにとらわれないナンバーを幅広く歌い、その圧倒的な歌唱力と存在感でトップアーティストとしての地位を確立する。2000~2001年には浅井健一らとロックバンドAJICOを結成し活躍。2003年にはNHKの教育番組に「歌のおねえさん」としてレギュラー出演し、さらに2006年には菊地成孔とジャズのコラボレーションアルバム「cure jazz」をリリースした。映画「水の女」「大日本人」にも出演し、女優としてもその才能を発揮している。2015年にデビュー20周年を迎え、2016年5月にアルバム「JaPo」を発表。同月に1990年代に発表されたアルバム「PETIT」「11」「アメトラ」「turbo」のデラックスエディションをリリースする。