ナタリー PowerPush - UA
2年ぶり新作アルバムが描く地に足のついた音楽と生活
1995年に衝撃的なデビューを飾り、唯一無比の存在感と音楽性で多くのリスナーを虜にしてきたUA。その圧倒的な個性から生まれる歌の力は、ジャンルにとらわれないボーダーレスな音楽性とともに、人々に深い感銘を与え続けている。ソウル・ロック・ジャズ・レゲエ・民族音楽などのさまざまな要素を取り込みながら、独自の濃密な世界を築いてきた彼女も今年でデビュー15年目に突入。7月22日に2年ぶりのニューアルバム「ATTA」をリリースする。
昨年は第二子を出産し、いち女性としても充実した時を重ねているであろうUA。その実りの豊かさはアルバムの内容にも見事に反映されている。細野晴臣、LITTLE CREATURES、YOSHIMIO(BOREDOMS (V∞REDOMS)、OOIOO、etc…)、半野喜弘など多種多彩な音楽家を迎えつつ、やはり際立つのはUAの歌であり、その歌が紡ぎだす魅惑的なストーリーなのだ。
さらに新しい扉を開けた感のあるUAの音楽と生活、そこから見えてきたUAという希有な歌い手の存在を探る。
取材・文/佐野郷子 インタビュー撮影/平沼久奈
自分の歌詞に泣いていた時代は過ぎたのかも
──アルバムのレコーディングは妊娠中に始まったそうですね。
そう。最初は出産前にレコーディングはすべて終わると思っていたら、第一子を産んだ20代のときとはワケが違った。とにかく、集中すると眠くてたまらない。なので、制作期間は出産をはさむことになりました。曲はすでに揃っていたんだけど、なんせ歌詞が書けない、眠すぎて。
──でも、生活のリズムは以前より規則正しくなったのでは?
以前よりはね。ただ、「規則」がどうもいまだに苦手で。まあ、20代のときとは違うけど、やっぱり夜のほうが歌詞を書くモードになりやすい。夜は自分のために使える時間だから、眠いのに神経が興奮するみたいで。
──身体の自然な欲求に即した音楽生活ともいえそうだけど。
まさにそのとおり。こうでなきゃいけない、という決まりもないしね。ただ、今までのやり方が身につきすぎて焦った時期もあったけど、「いやいや、ちょっと待てよ」と優先順位を考えられるようになったかな。
──「2008」はシングルジャケットのUAさんの妊婦の姿が印象的でした。
そういえば、妊婦のジャケットってあまりないなと思って。女性にとってあんなに面白い時期ってないのに。実はアルバム「11」のときもすでに妊娠中だったし、後ろ姿ではあるけど「甘い運命」のジャケットもそう。「2008」はまさに新しい旅立ちがテーマでもあったしね。
──旅立ってみたら、眠かった?
妊娠中ってお腹の子と母体のために、なるべく頭を使わないようになっているみたいでね。産後も授乳があるし、まあ脳みそのシワはずいぶんなくなったでしょうね。誰でも頭をつかいすぎてワケがわからなくなるときってあるでしょ。そんなときは1回寝て起きるとスッキリするように、私の場合、妊娠~出産でリフレッシュされた感じはあるかな。
──アルバムはまさにUAさんの生の記録でもある、と。
そうですね。こうなってくると。ただ、産前と産後ではやり方も全然変わりましたね。産前は1人で自分の世界に引き籠もって書いていたけど、産後はそういうわけにはいかないからね。前は歌詞を書くと、感極まって泣いてしまうことがよくあったんです。そうなることが自分にとってのクリアラインだと思ってもいたし。ところが産後は、常に自分のそばに第三者がいるから──家族とはいえ──いい意味で入り込まずに書けたというか、感情をセーブできるようになったのかな。泣くことがなくなって、むしろケラケラ笑ったりしてた。
──UAさん自身が感極まって書いた歌詞だからこそ、聴き手も感情移入できたところはありましたね。
どんなに明るい歌詞でもそうだったんですよ。自分で感動しないとリアルじゃないような気がしていて。歌詞を書くのは毎回ものすごいプレッシャーなんですよ。白い紙を前にすると、「私は書けるのだろうか?」って不安に押しつぶされそうになる。だから、歌詞が書けた瞬間、感極まって泣いてたんですけど、そんな時代は過ぎたのかもしれない。正直少し寂しい部分はあるけど、たぶんいいことなんじゃないかな。環境の変化で思いもよらない自分を発見できたんだから。
CD収録曲
- 愛の進路
- TIDA
- Purple Rain
- KOSMOS
- 2008
- Reveilles-toi! 目覚めよ
- アスパラガス (Album Mix)
- picnic_20c.
- 13番目の月
- 怪物
- Familia
- 月がきえてゆく
- トキメキ
UA(うーあ)
1972年大阪生まれ。1995年にシングル「HORIZON」でデビューし、1996年発表のシングル「情熱」でブレイク。同年発売のアルバム「11」は90万枚を超える大ヒットを記録する。以後、ソウル、ジャズ、レゲエなど、ジャンルにとらわれないナンバーを幅広く歌い、その圧倒的な歌唱力と存在感でトップアーティストとしての地位を確立する。2000~2001年には浅井健一らとロックバンドAJICOを結成して活躍。2003年にはNHKの教育番組に「歌のおねえさん」としてレギュラー出演し、さらに2006年には菊地成孔とジャズのコラボレーションアルバム「cure jazz」をリリース。映画「水の女」「大日本人」にも出演し、女優としてもその才能を発揮している。