ナタリー PowerPush - UA

2年ぶり新作アルバムが描く地に足のついた音楽と生活

音楽を止めるとか休むという選択肢はない

──新作が完成したときの感触はどうでしたか?

1年もかけたので、レコーディングが終わったときも前のように「出来た! やった!」という解放感はなかったんですよ。前だったら、帰りの車で出来上がったばかりの自分のアルバムを聴きながらまた泣いたりするような人だったのに。今回は平静というか、落ち着いて聴けたんですよ。それくらい生活と音楽の距離が近づいてきたのかなあ。

──デビュー15年目に入り、さらにネクストレベルに向かっている感がありますね。

地味にゆっくりとね(笑)。田舎暮らしもだいぶ板についてきて、いよいよ情報には疎くなってきて、それが今の私にはいいみたい。最初は子供のためにそうしていたんだけど、今は本当に時間がなくて。その分、自分の音楽だけに集中できるのかもしれない。

──音楽と生活が密接に結びついた日々の充実が音楽に表れていますね。

そうね。男性はいようと思えばずっとロマンチストでいられるけど、女の人は生活という現実と向き合わざるを得ないからね。今まではアルバムとなると、3カ月くらいガーッと集中してレコーディングしていたけど、自分の生活のペースで制作していくのは理想でもあったんですよ。今回、やっとそれが実現したから、満足度が高いんだと思う。

インタビュー写真

──時間をかけて丁寧につくられている贅沢感がある。

ゴージャスという意味ではない贅沢な感じはあるかも。ホーンやストリングスもけっこう入っているし、好きなんですよね。なんのかんの言っても、自分の声は生の楽器が合うと思っているんでね。今のレコーディング技術は、歌はいかようにもいじれるけど、それがいいことなのかはまた別だしね。それに限られた時間でベストを尽くすために、ジャッジは早くなったかもしれない。

──今回のアルバムを作るにあたりインスパイアされたものはありますか?

現実をそのまま歌詞にすることはめったになくて、本でいえばジョセフ・キャンベルの神話学や、ネイティブ・アメリカンもの、最近はイスラム系の詩人なんかを読んでましたね。現実がちょっと息苦しくなったら、そういう別世界に行きたくなる性分は昔から変わらないですね。一時は映画をバカみたいに観てたんだけど、自分のイマジネーションを自由に発揮するには本のほうが私には合っているみたい。

──音楽は想像力をかき立ててくれる最たるものですよね。

そう。だからずっと飽きずに続けてこられたし、きっとすごく救われているんでしょうね。止めるとか休むという選択肢は今のところ自分にはないし、そんな勇気はないですね。

──生活環境が変わっても、音楽を作り、歌う悦びは代え難い?

そうですね。私にできることはそれしかないみたいですね。産む前はこんなお母さんになりたいと夢見たりしてたんですよ。ところが産んでみたら、何にも変わってない。ホントはカッコいいお母さんを目指したいんだけど、まだまだ根性が不良やね(笑)。

──今作は、いつになく素のUAさんが見えてくるアルバムだと感じました。

そうですね。14年も続けていると、知らず知らずのうちに自分自身がUAの存在にヤラれてしまっているところがあってね。いまだにソウルとかR&Bのイメージはあるみたいでビックリするんだけど、カテゴライズされたり、ひとつのイメージに縛られるのは苦手みたい。自分が新鮮でなくなるのが音楽を続ける上でいちばん怖いこと。自分の気持ちが新鮮でないと、繰り返して歌は歌えないし、そこがいちばん気をつけていることですね。

──アルバムを作るたびに自分を発見するようなところがある?

今回は特にそうかな。私は何でも自分が実感しないと前に進めないみたい。音楽も、田舎暮らしも、家族との生活も、そうやって一歩一歩地に足付けて踏みしめながら。

インタビュー写真

ニューアルバム『ATTA』 / 2009年7月22日発売 / 3045円(税込) / ビクターエンタテインメント / VICL-63363

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CD収録曲
  1. 愛の進路
  2. TIDA
  3. Purple Rain
  4. KOSMOS
  5. 2008
  6. Reveilles-toi! 目覚めよ
  7. アスパラガス (Album Mix)
  8. picnic_20c.
  9. 13番目の月
  10. 怪物
  11. Familia
  12. 月がきえてゆく
  13. トキメキ
UA(うーあ)

1972年大阪生まれ。1995年にシングル「HORIZON」でデビューし、1996年発表のシングル「情熱」でブレイク。同年発売のアルバム「11」は90万枚を超える大ヒットを記録する。以後、ソウル、ジャズ、レゲエなど、ジャンルにとらわれないナンバーを幅広く歌い、その圧倒的な歌唱力と存在感でトップアーティストとしての地位を確立する。2000~2001年には浅井健一らとロックバンドAJICOを結成して活躍。2003年にはNHKの教育番組に「歌のおねえさん」としてレギュラー出演し、さらに2006年には菊地成孔とジャズのコラボレーションアルバム「cure jazz」をリリース。映画「水の女」「大日本人」にも出演し、女優としてもその才能を発揮している。