ナタリー PowerPush - つじあやの

メガネの向こうはどんな世界!? あやの視線で生まれ変わったJ-POPの新しい形

つじあやのが約4年ぶりとなるカバーアルバム「COVER GIRL 2」を9月24日にリリースする。このアルバムは多彩なアレンジが光る「tokyo side」と、地元・京都でフィールドレコーディングを行ったという「kyoto side」の2枚組。

ここ数年、空前のカバーブームに沸くJ-POPシーンだが、つじあやののカバーは彼女にしか生み出せない独自の輝きにあふれ、そのオリジナリティと空気感は他の追随を許さないものだ。

今回のインタビューは彼女が考えるカバーの魅力や知られざるレコーディング秘話、そしてデビュー10周年を目前に控えた今の心境を語ってもらった。

取材・文/臼杵成晃

カバーには新鮮な驚きや発見がいっぱい

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——約4年ぶりのカバーアルバムとなりましたが、今このタイミングでカバーを選んだことには何か理由があるんですか?

1作目(2004年発売「COVER GIRL」)の評判が良くて、リスナーさんやレコード屋さんから「また作ってほしい」という意見をたくさんもらって。もう4年も経ったし、ここいらで作ってみるかな、という気持ちになったんです。

——4年間の間に、世の中はちょっとしたカバーブームになっていますが。

それは意識してなかったですね。音楽を始めたばかりのころは、自分の好きなアーティストの歌を弾き語りで歌っていることが多かったし、いい歌にはジャンルを超えて惹かれる部分があるから、そういうステキな歌を自分なりに歌ってみるのは楽しいです。だから「COVER GIRL 2」を作ると決まったときは、素直にうれしかったですね。

——選曲もかなりユニークですよね。特にm-floや嵐というラインナップは意外でした。

そうですよね(笑)。前作のときはルーツ的な楽曲を多く選んだので、今回は好きな曲の中から幅広く、意外なところにまでチャレンジしてみました。

——カバー曲とオリジナル曲では、歌うときの気持ちは違うものですか?

はい、まず歌詞が違いますよね。他人の曲の場合そこに描かれているのは自分からは生まれてこない言葉なんです。でもそこが面白くて。今回の場合は「come again」がまさにそうで「着信のチェック?」みたいな(笑)新鮮な驚きがありました。それに驚きや発見は歌詞の部分だけでなくメロディも同じで。今回歌った曲も全部、自分の中からは出てこないメロディばかりなので。

——そうした発見を吸収して、次のオリジナル作品に活かしていくという側面もありますか?

まさにそうですね。尊敬できる曲に出会うと、自分もいいものを作りたいなって思うし。自分で作らへんような歌を歌えるというのも成長につながるんです。

自分の世代感を大事に選んだカバー曲

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——ではスタジオ録音のDISC1「tokyo side」について伺いたいんですが、1曲目からm-floの「come again」というのはさすがに驚きました。このあたりは意外性を意識して選んだところもありますか?

ちょっとありますね(笑)。今回の選曲では、自分の世代感みたいなのもすごく大事にしたくて。私が今30歳なんですけど、同じぐらいの世代の人が自然に耳にしているはずの曲の中から「ええな」と思えるものを選んだんです。

——シュガーベイブ「DOWN TOWN」はこれまた意外なテクノポップ調に仕上がっています。これもきっと、つじさんの音楽を聴き慣れているファンは驚くんじゃないでしょうか。

「DOWN TOWN」はもうとにかく軽薄な感じにしたくって(笑)。「この曲はこんな感じ」というのが決まれば、そこにとことん、グイグイ乗っていくという感じでしたね。

——それぞれの曲のアレンジについては、録音前から明確にイメージしていましたか?

うん。まず「この曲を自分がやるなら」というイメージを浮かべて、その曲と自分とのマッチングで一番いいかたちを1曲1曲考えていきました。

——7曲7様というか、すべての曲が違ったアプローチで作られていますよね。

カバーアルバムを作るときに重要なのはバランスだと思うんです。今回は「丘を越えて」「頼りない天使」の2曲が映画主題歌として先にできあがっていたので、そこからアルバム全体のバランスを想像しつつ、それぞれの曲の魅力を引き出すアレンジを考えました。

——続いてウクレレの弾き語りによる野外レコーディング盤「kyoto side」のお話を。「京都の街で弾き語り」というのは、まさにつじさんのルーツだと思うんですが。

そうですね。もともと前作「COVER GIRL」は「ウクレレのみの作品がつくりたい」というところから始まったものなんです。カバーに加えてなにかもうひと工夫ほしいなと思ったときに、昔ライブでやっていたように京都のいろんな場所でフィールドレコーディングしようというアイデアが浮かんだんです。

——鴨川で「君は天然色」、嵐山電鉄で「ルージュの伝言」という曲それぞれのロケーションにもこだわりがあるんですか?

マッチングはかなり考えてるんですけど……「ルージュの伝言」は“ママに会いに行く”から電車で(笑)。そういう単純な話です。嵐の「Happiness」は夢を追いかける熱い内容だから大学のキャンパスで。「美しく燃える森」は、下鴨神社の森の中で録ったという。「kyoto side」は歌とウクレレが中心のアレンジだけど、SEも楽器のひとつというとらえ方なんですよね。

——普段の弾き語りのライブと、機材を用意して行うレコーディングでは、やはり気分も違いますか?

レコーディングのときは、やっぱりちょっと、神経質とまではいかないですけど、気を張ってしまいますね。だから一番リラックスしてたのは、お客さんを入れて録音した「悲しみは果てしなく」のときかも。初回盤特典のDVDにそのときの様子が入ってるんですけど、自分で観てもリラックスしてるのがわかります。

ニューアルバム『COVER GIRL 2』

2008年9月24日発売 / SPEEDSTAR RECORDS / [2CD+DVD] 初回限定コンプリート・パッケージ:3900円(税込)VIZL-305 / [2CD] 通常盤:3150円(税込)VICL-63078~9

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DISC1 "tokyo side" 収録曲
  1. come again(m-flo)
  2. SWEET MEMORIES(松田聖子)
  3. 丘を越えて(藤山一郎)[映画『丘を越えて』主題歌]
  4. 戦場のメリークリスマス(坂本龍一)
  5. DOWN TOWN(シュガー・ベイブ)
  6. 渚のシンドバッド(ピンクレディー)
  7. 頼りない天使(FISHMANS)[映画『ネコナデ』主題歌]
DISC2 "kyoto side" 収録曲
  1. 君は天然色(大滝詠一)~鴨川土手より~
  2. ルージュの伝言(荒井由実)~嵐山電鉄車内より~
  3. Happiness(嵐)~龍谷大学・深草キャンパスより~
  4. 悲しみは果てしなく(ザ・ディランII)~Coffee House 拾得より~
  5. 美しく燃える森(東京スカパラダイスオーケストラ)~下鴨神社より~
  6. TENNESSEE WALTZ(Pee Wee King and His Golden West Cowboys)~カミ家珈琲より~
  7. 恋におちて ~Fall in love~(小林明子)~貴船荘・川床より~
DVD "film kyoto side" 収録内容(初回限定コンプリート・パッケージのみ)
  • 京都で3日間行われた7曲のレコーディング映像
  • メイキング&インタビュー
  • Coffee House 拾得 ミニライブ映像
「come again」PV
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プロフィール

つじあやの

1978年京都生まれ。1998年発売のインディーズ盤「うららか」を経て、1999年9月にミニアルバム「君への気持ち」でメジャーデビューを果たす。眼鏡をかけたルックスとウクレレ弾き語りというスタイルで話題を集め、リリースを重ねるごとに着実に人気を高めてく。そして2002年スタジオジブリ制作のアニメ映画「猫の恩返し」主題歌に、彼女の「風になる」が起用。このロングヒットにより、お茶の間にもその楽曲が浸透。その後もカバーアルバム「COVER GIRL」や初のベストアルバム「つじベスト」がスマッシュヒットを記録。2007年には柳田久美子や鈴木亜美といったアーティストのプロデュースも手がけている。