東京スカパラダイスオーケストラが、11月7日に配信シングル「紋白蝶 feat.石原慎也(Saucy Dog)」をリリースした。
今作でスカパラがゲストボーカルに迎えたのは石原慎也。Saucy Dogのギターボーカルとして活躍する彼は、過去にチューバを吹いていた経歴の持ち主だ。
2組がコラボした「紋白蝶」は、スカパラと石原、両者の楽曲制作へのこだわりが細部まで詰め込まれた美しいラブソングとなり、彼らのもとを飛び立った。楽曲のリリースを記念して、音楽ナタリーでは谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)と石原にインタビュー。「紋白蝶」の制作秘話やスカパラメンバーも気になる石原の音楽的背景、そして現在の音楽シーンで活躍するボーカリストの印象に至るまで、盛りだくさんのトピックを語ってもらった。
取材・文 / 大山卓也撮影 / 斎藤大嗣
チューバが吹けるんです
──石原さんのスーツ姿、いいですね。
石原慎也(Saucy Dog / Vo, G) ありがとうございます。僕もいいなと思ってたところです(笑)。
加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ / G) 完全に馴染んでますよね。
──スカパラと石原さんの出会いはいつ頃ですか?
石原 最初に谷中さんに挨拶させてもらったのが5年前です。そのあとフェスでメンバーの皆さんにもお会いしました。
加藤 慎也くんが島根出身、僕は鳥取というのもあって以前から気になっていたんです。山陰出身のミュージシャンはわりと珍しいんで。去年、僕がギターで参加している「VIVA LA ROCK」(フェス)の企画バンド(VIVA LA J-ROCK ANTHEMS)に慎也くんがゲストボーカルで来てくれて、そこから仲よくさせてもらってます。
──その関係性が今回のコラボにつながっていくんですね。
加藤 石原くんは歌がすごいのはもちろんなんですけど、チューバが吹けるんですよ。
石原 チューバが吹けるんです(笑)。小4から高3まで、吹奏楽部で9年間チューバをやっていました。だから初めて谷中さんに会ったときにも「いつかチューバでスカパラに参加したいです」って。
谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax) 俺からしたらめちゃくちゃ熱い話ですよ。チューバが吹けるボーカリストなんて聞いたことなかったから、これはすごいなと。
──とはいえチューバの腕前だけでコラボを決めたわけではないですよね?
加藤 もちろん(笑)。慎也くんはやっぱり声の存在感がすごくて、今の音楽シーンを代表するボーカリストの1人だし、チャンスがあれば一緒にやりたいねというのはずっと話してました。あと歌だけじゃなく、彼の歌詞や曲の作り方にもすごく興味があったんで。
谷中 今回レコーディングで一緒に作業させてもらって、創作力と洞察力がずば抜けてるのを痛感しましたね。メロディをきめ細かく微調整したり、アレンジに関しても積極的にアイデアを出してくれたり。信じられないくらいの才能に、スカパラのメンバーみんな感動していました。
──チューバ奏者としての石原さんはいかがでしたか?
谷中 音がいいんですよ。もうバッチリでした。ブランクがあったみたいだけどレコーディングが進むにつれてよくなっていったんで、このまま吹き続けてほしいですね。
加藤 あと、この曲はインストバージョンとボーカルバージョンでキーが違うんです。慎也くんには両方でチューバを吹いてもらってるから全然違う指使いを2曲分覚えてもらいました。申し訳ない(笑)。
──インストバージョンは日本テレビ系「スッキリ」のテーマソングとして10月からオンエアされていますね。
谷中 そうなんです。だからコラボの発表前から、実は世の中ではもう石原くんのチューバの音が流れてたんですよ。
うまいボーカリストの中で埋もれないように
──この曲を聴いて石原さんのボーカリストとしてのスキルの高さに改めて驚かされました。1曲の中でとても多彩な表情を見せていますよね。
石原 歌い方はめっちゃ考えました。最初は落ち着いたトーンで入って、サビはガツンといこうとか。2Aからはタンギング多めでポップな感じを出して、最後はがなるくらいに力強く歌おうとか。
加藤 歌い方のバリエーションが本当に幅広くて、それは3ピースのバンドをやってるからだろうと思うんです。2時間のライブを3つの楽器と声だけで構成していくのは相当なことで、Saucy Dogの曲って、普通に考えたらもう1人ギターかキーボードがいてもっと楽器がその曲を説明すると思うんです。そこを楽器の代わりにメロディとコーラスで説明してる。スタンスがジャズっぽいんですよね。
石原 確かに3人だけでやってるんで、どうやって曲のよさを引き出すかはすごく考えますね。語感がいい歌詞しか入れたくないし、あとはコーラスワーク。声を楽器にすることでほかのバンドにはないやり方ができたらと思ってます。
加藤 声のニュアンスやAメロ、Bメロ、サビの歌い分けで表現してるんですよね。今回の歌入れもビックリすることばかりでした。単に歌が上手なだけじゃない。表現スキルの蓄積がすごいんですよ。
石原 うれしいです(笑)。
加藤 慎也くんをはじめとして、今の日本の音楽を聴いてると歌の進化がハンパないなと思いますね。僕らは専門のボーカリストがいるバンドじゃないから客観的に見られる部分もあるし、スマホで音楽を聴く時代になって歌の存在感がさらに大きくなってるとも思う。特にこの4、5年かな。歌のスキルと表現力がすごいレベルになってますよね。
谷中 僕らの頃はスキルがなくても味だけで勝負しているボーカリストがいっぱいいたけどね。今はスキルがあるうえでそれぞれ個性を出して闘ってるから。
──石原さんは同世代のボーカリストをどう見ていますか?
石原 それこそ幾田りらちゃんはすげえうまいと思うし、Vaundyもそうだしヒゲダンのさとっちゃん(藤原聡 / Official髭男dism)とか、あと同い年なんですけどKing Gnuの井口(理)くんとか。
谷中 みんな個性あるよね。
石原 みんなうまいから埋もれないように、自分らしさをどう出していくかは悩みますね。ボイスメモを録ってメンバーに「これ、俺の声に聞こえる?」って聞いてみたこともあります。いろんな歌い方を試していくうちに自信がなくなっちゃって。今はどんな声も自分だと思えるようになったけど、昔は「誰々の声に似てる」とか「パクリじゃん」って言われることもあったんで。
──常に研究してるんですね。
石原 あと、気になる音楽は耳コピするようにしてます。歌い方を真似してみて「ここでブレスしてるんだな」とか「自分だったらどう歌うかな」ってアレンジしたり。ギターも耳コピでいろいろ弾いてみてますね。
モンシロチョウは生涯ずっと恋愛期間
──歌詞についても聞かせてください。谷中さんとしては珍しく、どこかSaucy Dogの世界を思わせるような等身大のラブソングになりましたね。
谷中 うん、Saucy Dogの作品やファンの人たちを意識して書いたところはあります。石原くんが歌うことを考えると、身近な世界観で個人の思いが感じられるほうがいいと思って。世の中いろんなことがますます激しく面倒くさくなっている中で、本当に大事なのは好きな相手を思う気持ちなんじゃないかと。
──モンシロチョウをモチーフにしたのは?
谷中 モンシロチョウって、成虫になってから2週間しか生きないんですって。で、成虫の間はずっと恋愛期間なんです(笑)。オスはその間ずっとメスを追っかけてて、メスに気に入られたオスだけが子供を作れる。そんなふうに男の子が恋愛に向かっていく姿勢はとてもいいし、そういう気持ちを持つことが今の世の中を生き抜く術でもあるのかなって。そんな希望を歌詞に込めてみました。
──石原さんがこの歌詞をもらったときの印象は?
石原 谷中さんワールド全開やなって。
谷中 わはは(笑)。
加藤 それはそうなるよね。
谷中 どこらへんが谷中っぽいんだろう?(笑)
石原 特にそう思ったフレーズが2つあるんですけど、まず1つは「ぼくのとこからじゃないと / この虹は見えないよ / もっとそばにきて 一緒に見ようよ」というところ。
──確かに谷中さんっぽいです。
石原 あと「たった一度のキスで揺らいだ / きみのこころは柔らかいね」も谷中さんだなって。
谷中 残念ながらその通りだね(笑)。
石原 歌うときめっちゃ照れました。
谷中 歌詞の内容も今回2人でいろいろ相談したよね。石原くんに「僕だったらこういうふうに言います」とか「この言葉のほうが自分は気持ち込められます」とか言ってもらって。すごく勉強になったし楽しかったです。
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ブルーハーツになりたかった