tricot「真っ黒」 PR

tricot|優しさも強さも全部“真っ黒”に溶け込ませて

tricotが1月29日にメジャー1stアルバム「真っ黒」をリリースした。

今年、バンド結成10周年イヤーという記念すべきタイミングで発表される「真っ黒」。その名の通り真っ黒に塗りつぶされたジャケットが目を引く本作には、昨年avex / cutting edge内に設立したプライベートレーベル・8902 RECORDSよりリリースしたメジャーデビューシングル「あふれる」や表題曲の「真っ黒」、そしてそれと相反するタイトルの「真っ白」に加え、ボーナストラックとしてインディーズ時代の人気曲「ブームに乗って」「potage」も収められた。

音楽ナタリーでは、tricotの4人にインタビューを実施。「自分は飽き性だ」と語る中嶋イッキュウ(Vo, G)を筆頭に、常に変化を求めながら作品を作りライブを行ってきたメンバー4人に「真っ黒」の制作秘話を聞いたほか、tricotというバンドに向き合って、自分たちが思う魅力について語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 伊藤元気

tricot像をずっと探してる

──tricotは去年、結成9年目にしてメジャーデビューしましたけど、やはりタイミング的に「今なんだ」と、驚いた人も多いと思うんですよね。

中嶋イッキュウ(Vo, G) 傍から見たら、おっしゃる通り「今か?」という感じだと思うんですけど、私たちの内部事情でいうと、2017年にドラマー(吉田雄介)が正式加入してメンバーがそろったのが一番大きかったんですよね。そもそも私たち自身が「一生インディーズでやっていこう!」とは思っていなくて、「メジャーに行ってもいいんじゃないか?」ということを考えるタイミングはこれまでにも何回かあったんです。ただ前のドラマーの頃は自分たちが未熟だったのもあるし、自主でやっているほうが楽しかった。3人体制の頃は、自分たち自身の地盤がしっかりしていない以上、メジャーに行っても自分たちの力を最大限に出せる感じではないだろうなと思っていたんですよね。

──なるほど。

中嶋 それから吉田と一緒に前作の「3」を作って、47都道府県ツアーをやって、海外もアジアとアメリカとヨーロッパを一緒に回って、音楽的にも人間的にも最後のピースがばっちりハマった感覚があったんです。今の状態だったら、メジャーに行って例えどんな飾り付けをされようとも、変わらずtricotであり続けられると思えた。それで、このタイミングでのメジャーデビューになりました。

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──avex / cutting edge内にプライベートレーベル8902 RECORDSを設立する、という形でのメジャーデビューになりますけど、このような形を選んだ理由は?

中嶋 「所属させてもらう」というよりは、「一緒にやりましょう」という感じが強いので、そっちのほうが私たちには合ってたんですよね。

吉田雄介(Dr) 仲間でありつつ、ちゃんと牽制し合えるというか。1対1でお互いに意見を言い合える関係がよかったんです。だからこの先はもっと言い合える関係になっていけたらいいなと思っています。

──そもそも、tricotにはバンドとして野心、到達したい場所などはあるんですか?

中嶋 私には“tricot像”みたいなものがないんです。「この人みたいになりたい」とか「あのステージに立ちたい」みたいなものもいまだにない。それに「そういうものは一生見つからへんのかな」と思いながらやっている部分もあって。例えば「tricotっぽいバンドってどんなバンド?」と聞かれても、それがどんなバンドなのか思いつかへんし、自分たちがこの先どんなところに行きつけるのかもわかっていないんです。私たちはtricot像をずっと探して、試行錯誤の繰り返しを続けていくのかなという気がするんですよね。私たち自身がそういう感じなので、もちろん周りの皆さんもtricotがどんなバンドで、どこに向かっているのかなんて、わかっていないと思いますし(笑)。

──それは、そうかもしれない(笑)。

中嶋 だからこそいろんなところに飛び込めるし、呼んでもらえたりするんですよね。ジャンルレスであり続けられる理由だと思います。

いろんな人の懐にスッと入っていきたい

──ヒロミさんとキダさんはどうですか?

ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho) 私もイッキュウと一緒で、「tricotでは絶対にこうしたい」みたいなものはなくて。曲を作ってライブをして……という今までやってきたことをこの先もずっとやりたいし、それを突き詰めていきたいと思っています。大きなハコで満員のライブができたらもちろんうれしいんですけど、そこを目指していく感じではないんですよね。自分たちで、自分たちを突き詰めたい。明確な目的地に向かうというよりは、tricotはどこまで変わっていけるんやろう、どこまで進んでいけるんやろうということを、ずっと突き詰めている感じがします。

──穴を掘っているような感覚ですかね。

ヒロミ そうですね。4人でひたすら掘り進めている。でも暗いわけではなくて、ずっとそうしていることが楽しい、みたいな。

──キダさんはどうですか?

キダモティフォ(G, Cho)

キダモティフォ(G, Cho) 私は単純に幅広く聴いてもらいたいなと思っています。それはメジャーのフィールドで活動し始めたからではなくて、音楽を始めた頃から思っていることなんですけど。でも世間的にはtricotがそういうふうに考えていると思われていない現状があって。私たちに周りを寄せ付けへん空気みたいなものがあるのか、勝手に周りが感じているのか……わからないんですけど、突き詰めようとするあまり周りを突っぱねてしまっているのかもしれない。でも私はもっといろんな人の懐にスッと入っていきたいと思っています。

──それだけtricotのやっていることは多くの人に伝わるものだという確信がキダさんの中にはあるわけですよね。リスナーの生活の中で、tricotの音楽はどんなものであってほしいと思いますか?

キダ あんまり難しく考えて聴いてほしくないです。作っている時点でかなり感覚的に作っているので、聴いたら勝手に体が動く、みたいなものであってほしい。でもきっと「tricotの音楽は難しそう」みたいなイメージがあると思う。私たち自身としては自然に出てきた音楽なので、皆さんにも難しく考えずに聴いてほしいなと思っています。

──今、キダさんがおっしゃったパブリックイメージと自分たち自身の感覚のズレというものは、中嶋さんの中にもありますか?

中嶋 うーん……どうですかね。「自分たちがどう思われたい」とか「自分たちはこうである」みたいなものが、私の中にはホンマにないんですよね。自分はどんどんやっていくしかないと思っているし、変化も進化もめちゃくちゃやりまくった果てに、最後に残ったものがアイデンティティなのかなって。そこにたどり着いたときに初めて“tricotらしさ”みたいなものが出てくるんだと思うので、私自身は今の段階でどう思われてもいいです。「怖そうなバンドだな」と思われてもいい。

──吉田さんはどうですか?

吉田 らしさって、勝手に出るものですからね。だからどんどん流動的にやりたいことをやっていけばいいと思うんですけど。それこそ僕が初めてtricotを聴いたときの印象と、自分がメンバーとしてバンドに参加したときでのtricotの印象も全然違うものでしたし。ただ、僕はほかの誰がどう思おうが、tricotはダンスミュージックだと勝手に思っているんです(笑)。ダンスミュージックというのはジャンルではなくて、変拍子だろうが4分の4だろうが、形式はなんだろうがダンスチューンとして聴いた人を踊らせられる音楽だということ。そういうところは、キダの言っていたことと、通じるものがあるかもしれない。“自然に踊れる”というのは自分がtricotで演奏するうえでのテーマですね。

歌いたくなるメロディがあるのは大事なこと

──去年のミニアルバム「リピート」は作品全体を通して魅せるもののあるコンセプチュアルな作品だったと思うのですが、新作「真っ黒」に関しては作るうえでの青写真はありましたか?

中嶋 今回はなかったですね。「とにかく曲をいっぱい書こう」というスタンスで、どんどんと曲を作っていきました。たくさん曲を作って選び取る中でコンセプトが見えてくるのかなと思っていたんですけど、結局そこまで曲がたくさんはできなくて、完成させた曲がほとんど入っている感じになりました。なので、今回はコンセプト的なものはないです。

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──今回の作品は、これまでのどのtricotの作品に比べても、中嶋さんの歌がはっきりとした輪郭を持って響いてくる印象がありました。ご自分たちとしては、歌を聴かせるという点で意識されたことはありますか?

中嶋 そこはもう、皆さんのお手柄だと思います。

キダ 今までだったら、1曲分始めから終わりまでインストのオケを作ったうえで、歌を最後に乗せるスタイルだったんですけど、今回はワンコーラスだけオケを作って、そこに一旦イッキュウの歌を乗せて、さらにアレンジを進めていくという作り方をしたんです。なので、みんなが自然と歌を意識していたのかもしれない。

中嶋 前はオケが全部できてから歌を乗せていたから、完成したものをみんなで聴いてビックリ!みたいな感じだったんですけど、途中で歌を入れるようになってからは、みんなで同じ方向を向いて曲を作っていくので、曲全体のまとまりがよくなったんですよね。メンバーそれぞれの中でゴールがそこまでバラバラではなくなった感じがします。

吉田 tricotって、自分が入る前から「歌がいいバンドだな」と思っていたんですけど、たまに歌とアレンジがぶつかっているときがあったんですよね。そこがカッコよさでもあったんですけど、どこかで歌にフォーカスを合わせるタイミングがあってもいいなとずっと思っていて。なので作り方を変えてみてよかったなと思っています。

──実際、今作は音と言葉のハマり具合が素晴らしいですよね。改めてなんですけど、キダさん、ヒロミさん、吉田さんにとって、中嶋さんの作る曲や歌詞には、どんな魅力があると思いますか?

吉田 J-POPだと思います(笑)。

ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho)

ヒロミ J-POP要素はあるよね。アイドルも含めJ-POPを幅広く聴いて育ってきた要素がよく出ていると思う。歌いたくなるメロディがあるのは、歌があるバンドにとってはすごく大事なことだと思うので。気付くと口ずさんでいるくらい耳に残るメロディが多いので、そういう部分がtricotの曲をよりポップにしてくれている気がします。それがどんなジャンルにも入っていけるものにしてくれているんだろうなとも思いますし。

吉田 イッキュウの作るメロディにはポップソングとして大衆に向けた音楽になり得る力があるんですよね。楽器のアレンジはいろんなことをやっているバンドだし、そこはJ-POPという言葉には当てはまらないかもしれないんですけど、メロディに関してはみんなが安心できるもの……ポップスと呼ばれるジャンルのものだと思う。それがこのバンドのアレンジに乗っていることが魅力だと思います。

キダ 歌詞の面では言葉のチョイスが面白いんですよね。それはtricotを組む前……mixiの日記とかでも思っていました(笑)。

中嶋 mixi、懐かしい(笑)。