「どういうCDが欲しくなるか」を考えてみた
──「3」はリリース形態もユニークですよね。ミニマルパッケージ盤はブックレットなし、CDのみのシンプルな仕様で税抜き1500円。クリエイターのチョーヒカルさんとのコラボによる999枚限定デラックス盤はボックス仕様で税抜き4500円。デラックス盤にはアルバム収録の13曲を3枚のCDに分けて収録していて、DISC 1は中嶋さん、DISC 2はキダさん、DISC 3はヒロミさんがそれぞれ選曲しているっていう。
中嶋 ちょっとややこしいんですよね(笑)。「CDが売れない」ということに関しては、すべてのバンドがいろいろ考えていると思うんですけど、私自身めっちゃCDを買ってきたタイプではないので、「YouTubeだけで満足。無料やし」っていう若い子の気持ちもわかるんですよ。そのうえで「どういうCDが欲しくなるか」を考えてみたんですけど、まず、「ほかのものは何も要らないから、曲だけが聴ければいい」という仕様を作ろうと思ったんです。1500円はアルバムの配信リリースの値段とほぼ同じだから、曲だけを聴きたい人がどっちを選ぶかも気になるし。ケースにほとんど何も印刷されていないCDが入っていて「3」って書いてあるだけなんですけど、思った以上にインパクトがあるんですよ。
ヒロミ ヤバいよな(笑)。デモ音源みたいな感じで。
中嶋 そうそう(笑)。デラックス盤のほうは、tricotがめっちゃ好きな人に向けて、家に飾りたくなるようなものを作ろうと思って。ちょっと高くてもいいから、ドヤ顔できるようなCDっていうか。私もミーハーなところがあるし、好きなバンドに対してはのめり込んでしまうほうなので、そういう人の気持ちもわかるんですよね。
──その極端なリリース方法も、tricotらしいですよね。デラックス盤の3枚のCDも、3人のメンバーの個性が感じられて興味深いです。まずヒロミさんがセレクトしたDISC 3は「MUNASAWAGI」「スキマ」「DeDeDe」「エコー」の4曲。
中嶋 私の中でヒロミさん、先輩(キダ)のそれぞれのイメージがあって、それに合わせて選んでもらったんです。ヒロミさんはバンドのエモーショナルな部分を担っていると思ってるので、「3」の曲の中からエモいセットリストを考えるような感じで選曲してもらって。
ヒロミ 「エコー」「スキマ」も歌がグッとくる感じがありますからね。ベースのことよりも、楽曲全体のエモさを意識しながら選びました。
──tricotのエモーショナルな部分を担っている自覚もある?
ヒロミ もともとエモ系の音楽が好きですから、趣味が出てるのかも。
中嶋 ギターで曲を作ってるときは「楽しい感じになりそうだな」って思っていても、ベースが入るといきなりエモくなったりしますからね。一筋縄ではいかないです(笑)。
ヒロミ 簡単には楽しませないぞって(笑)。
制作中、全員がパニックになった「18,19」
──キダさんがセレクトしたDISC 2には「18,19」「WABI-SABI」「pork side」「ポークジンジャー」「南無」が収録されています。
中嶋 先輩は変態……というか天才なので(笑)、その感じが出ている曲を選んでもらいました。
キダ 一番ヤバいのは、さっきも話に出ていた「18,19」ですね。作ってるときも全員がパニックになったので。自分たちが作った曲の展開についていけなかったんですよ、最初。
ヒロミ 「ワケわからん!」って(笑)。フレーズが難しいというよりも、切り替えが大変だったんですよね。イントロとサビのノリがまったく違うので、2番でイントロに戻るときに「あれ?」って。
中嶋 サビに入る前のところもバグってたよな。
──テンポも速いし、展開もめちゃくちゃトリッキーですからね。アレンジしているときは「これが正解」というイメージは共有してるんですか?
中嶋 どうやろ? いいのか悪いのかはわからないけど、とりあえずやってみるっていう感じかな。
キダ うん。正解はあったりなかったりですけど、まずは試してみて。
中嶋 思いついたことをやってみて、いいと思ったら、演奏できるまで練習するんですよ。「18,19」もそういう感じで作っていったんですけど、ライブでやったときにすごく反応がよくて。まさか「いい曲」なんて言ってもらえるとは思ってなかったんですけど……。
ヒロミ 「何これ?」って思われるかなって。
中嶋 自主企画ライブで披露したときもめちゃくちゃ盛り上がったんですよ。初めて聴いた人がほとんどだったと思うんだけど、「キャッチーですね」って言われて。
ヒロミ お客さんも変態や(笑)。
──tricotのファンはリズムに対する理解力が高いんでしょうね。
中嶋 あ、そうかもしれないですね。初めましての人が多い邦楽フェスとかだと、お客さんが棒立ちになったりするので(笑)。
初のドラマ主題歌は大好きな園子温監督作
──そして中嶋さんが選曲したDISC 1には「TOKYO VAMPIRE HOTEL」「節約家」「よそいき」「メロンソーダ」が収録されています。メロディが際立っている楽曲が中心ですが、特に6月16日より配信される園子温監督作のAmazonオリジナルドラマ「東京ヴァンパイアホテル」の主題歌として制作された「TOKYO VAMPIRE HOTEL」はめちゃくちゃキャッチーですよね。
中嶋 もともと園子温監督の作品が大好きなので、すごくうれしかったですね。私はジブリ映画も観たことないくらい、映画というものをほとんど観てないんですけど、ヒロミさんに園子温の作品を薦めてもらって、初めて映画にハマって。
ヒロミ 最初は「愛のむきだし」だったかな。
──いきなり4時間弱の作品を(笑)。
中嶋 (笑)。それでいろんなところで好きだって言ってたら、監督と対談させてもらったんですよ。そのときに自分たちのCDを渡したら、今回「主題歌をお願いします」と声をかけてもらって。
ヒロミ ビックリしましたね。「ホンマに私たちでいいの?」って。
中嶋 ドラマの主題歌をやったことはなかったけど、最初が園監督の作品でよかったです。撮影の現場も見学させてもらって、「どんな感じがいいですか?」という話もして。監督は「『A N D』の1曲目(『Noradrenaline』)みたいな感じがいいんじゃない?」っておっしゃってたんですけど、全然違う感じの曲を送ったら「OK! カッコいい」って言ってもらって。しかもこの曲、アッという間にできたんですよ。「デモでいいから、今日送って」と言われて、その日のうちに作ったので。全然無駄がないし、おいしいところ、必要なところだけでできてる曲なんですけど、それがすごくいいなと思って。以前だったら「もっと盛り込まないとあかんのかな」と思っていろいろやったかもしれないけど、今は「このままでいい」という判断もできるようになりました。
──確かにシンプルな構成ですけど、tricotらしさは十分に感じられますからね。
中嶋 うれしいです。シンプルだから、個々のフレーズのよさもちゃんと伝えられると思うんですよ。やりすぎると、そこが見えづらくなることもあるので。
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今は「なんでもやれる」という気持ち
- tricot「3」
- 2017年5月17日発売 / BAKURETSU RECORDS
-
ミニマルパッケージ盤 [CD]
1620円 / BKRT-012 -
999枚限定デラックス盤 [CD3枚組+グッズ]
4860円 / BKRT-009~11
- ミニマルパッケージ盤 収録曲
-
- TOKYO VAMPIRE HOTEL
- WABI-SABI
- よそいき
- DeDeDe
- スキマ
- pork side
- ポークジンジャー
- エコー
- 18,19
- 南無
- MUNASAWAGI
- 節約家
- メロンソーダ
- 999枚限定デラックス盤 収録曲
-
DISC 1
- TOKYO VAMPIRE HOTEL
- 節約家
- よそいき
- メロンソーダ
DISC 2
- 18,19
- WABI-SABI
- pork side
- ポークジンジャー
- 南無
DISC 3
- MUNASAWAGI
- スキマ
- DeDeDe
- エコー
- tricot(トリコ)
- 中嶋イッキュウ(Vo, G)、キダモティフォ(G, Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho)により2010年9月に結成される。2011年8月にライブ会場および通販限定で1stミニアルバム「爆裂トリコさん」をリリースし、11月には自主企画イベント「爆祭-BAKUSAI-」を初開催した。2012年5月には初の全国流通作品となる2ndミニアルバム「小学生と宇宙」を発売。継続的なリリースや、大型フェスなどへの出演、海外ツアーの開催など精力的に活動する中で、2011年より在籍していたkomaki♂(Dr)がバンドを脱退する。その後も活動を止めることなく、サポートメンバーを迎えて2015年2月に4thシングル「E」、3月に2ndアルバム「A N D」を発売した。9月にバンド結成5周年を迎え、10月から翌2016年3月まで北米、日本国内、ヨーロッパツアーを実施。同年4月には2015年夏に実施したドラマーオーディションの応募者から選ばれた4名とともに制作した新作CD「KABUKU EP」を、2017年5月には3rdアルバム「3」を発売した。