多ジャンルな音楽一家と「Mステ」伝説の場面が音楽ルーツ
──話をさかのぼると、そもそも豊崎さんはなぜパブロックなど、いい意味で泥臭い音楽に興味を持ったんでしょう。好きな音楽のルーツはどのあたりにあるのでしょうか?
両親がどっちも音楽好きだったんです。母親は保育士で、家には小さな頃からピアノがあって。しかもなぜか私の部屋にピアノが置いてあったんです。朝からお母さんが保育園に行く前にピアノを練習していて……お母さんは保育園の先生だけどピアノが上手じゃなくて(笑)、毎朝すごく練習してたんですよ。童謡とか「みんなのうた」(NHK)の曲とか。お母さんのピアノが目覚まし代わりみたいになっていて、そこで谷山浩子さんの曲に触れていたんですよね。
──なるほど。お父さんはどういう音楽を?
父親は昔ブレイクダンスをやっていて、マイケル・ジャクソンとかダンスミュージックが大好きで。Earth, Wind & Fireとかそういう“ザ・ダンスミュージック”みたいなものもあれば、Run-DMCみたいなヒップホップも車で爆音で流れてたり(笑)。ノリのいい洋楽が好きなうえに、昔バンドもやってたらしくて、フォークソングも好きなんです。あと2つ上の姉がいるんですけど、お姉ちゃんはめっちゃJ-POP好きで、そのとき流行ってるJ-POPなら聞けば全部知ってるみたいな。ゆずさんとかスピッツさんとかミスチル(Mr.Children)さんとかを聴いていて、もう部屋ごとに全然違う音楽が鳴ってる家で育ったんです。じゃあ私はどんな音楽が好きなんだろうと思ったら、ブリティッシュ系のオールドロックで。
──その環境でなぜそこに行き着いたんでしょう。
お父さんとCD屋さんに行ったときにThe Beatlesとかが流れていて、「これカッコいいな」と思ったのがそういう系統だったんです。あとは仲のいい友達にモータウンを教えてもらったり、マーヴィン・ゲイとかを聴いているうちにいろんな音楽が好きになっていって。でも最初に自分から「これ好きかも」と思ったのは、ビンテージ系のロックだったんですよね。それである日、テレビを観ていたらTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが出ていて、タモリさんが「t.A.T.u.さんが出てきません」って……。
──「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)の伝説回ですね。
そうです。そしたらTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが「じゃあ僕たちがもう1曲やります」って言って、突如バンドセットを組んで「ミッドナイト・クラクション・ベイビー」を歌ったんですよ。それを観て「バンドってすごい!」って衝撃を受けて。そこからチバ(ユウスケ / The Birthday)さんが聴いてるという音楽を探ってたら、トム・ウェイツやDr.Feelgoodが(笑)。CD屋さんにそういう音楽を探しに行ったら、ポップで「これを聴いてる人にはこれもオススメ」と書いてあったりしたので、そこから芋づる式に。
──それだけ前のめりで音楽が好きだったのなら、声優という職業に就きながらも音楽活動ができることはうれしかった?
はい。本当にうれしいですし、いまだに自分が歌う側でいられることが夢のようで。
CDとアナログで異なる選曲
──ルーツがわかったところで、改めて「love your Best」について聞かせてください。選曲はスタッフを交えての話し合いとのことでしたが、最終的なセレクトには悩みましたか?
めっちゃ迷いました。“ベスト”って言葉は捉えようだなと思っていて、何がベストかは見方によって変わってくると思うんですよ。自分のベストアルバムとして打ち出すために、どういう基準で選曲すればいいのかを考えるのはすごく難しかったです。シングル曲ばかりじゃないのは、単純に私のお気に入りというところもあるんですけど、やっぱりこのアルバムで初めて私の音楽を知ってくださる方も多いだろうなと考えたときに、振り幅を大きくしておきたかったんです。
──アナログ盤の選曲が、CDからさらに絞ったものではなく、アナログ独自のセレクトになっていて、アナログにしか選曲されていない曲もあるというのは本当に珍しい判断だと思います。
単純に選びきれなかったところもあるんですけど(笑)。もともとはやっぱりCDから抽出して選ぶつもりだったんです。でもアナログは収録曲数が違うということで、そうなると聴いてほしい順番とかも変わってくるし、物語として1から聴いて最後に完結する流れも私の中では変わってくるので、だったら別の考え方で組んでみようって。なのでアナログのほうは、曲順の流れも考えつつ、私がアナログで聴きたい曲を選びました。
──シングルコレクション的な意味合いで言うと、アナログのみでしか聴けないシングル曲が4つもあるというのは商売的にどうなんだろうと余計な心配をしてしまいましたけど(笑)。
自分で言うのもなんですけど、ハチャメチャですよね(笑)。いや、私には一生語れるぐらいの理由があってこの選曲と順番にしたんですけど、お客さんはちょっと不思議に思うんじゃないかって最近じわじわわかってきて(笑)。
──選曲も含めて自分が出ているという意味では、個性がはっきりしていていいと思います。
そうですね。ジャケもめっちゃ自分ですし(笑)。
自分の中で何かが変わった、ターニングポイントになった曲を
──ベストアルバムだとリリース順に時系列という並べ方も1つの手段ですけど、今作がそうなっていないのは、今お話いただいたように流れを意識した曲順にしているからなんですね。
最初にリリースした「love your life」から始めるというのも1つの手だと思ったんですけど、結局リスナーの方はどこから聴くのも自由ですから、「こういう曲順で聴いてもらえると、私をより深く知ってもらえるんじゃないかな」という1つの提案として考えてみたんです。なので「絶対にこの順番で聴いてほしい」というわけでもないんですけど……1曲目に選んだ「一千年の散歩中」は一番新しいアルバム(2016年3月発売の3rdアルバム「all time Lovin'」)の最後に入っていた曲で、去年のツアーでも最後に歌っていた曲なんです。ラジオ(文化放送 超!A&G+「豊崎愛生のおかえりらじお」)でもエンディングテーマに使っていたり、1年を通じて締めの曲みたいなイメージを作ってきたので、お客さんも「『一千年の散歩中』が来たらエンディング」というイメージになっているかなと思うんですよ。
──なぜそれを冒頭に?
エンディングをイメージする曲だけど、「ここからまだまだ続いていくよ」というメッセージを込めたくて、あえて1曲目に持ってきました。
──確かに、歌詞も「これからもなんでも出来る」「あなたに会いに行こう」と続いていく内容ですもんね。
1曲目にあっても、優しくアルバムを聴き始めてもらえる曲かなと思ったんです。そこから優しくふんわりと聴いてもらえるような流れにしつつ、気付いたらどんどんマニアックなことになっていき(笑)、ちょっとアッパーになり、完結し、そしてまた原点に帰り、最後に新曲、みたいな。大まかに言うとそんな流れです。
──「一千年の散歩中」もそうですけど、最新のオリジナルアルバムである「all time Lovin'」からの楽曲が多くセレクトされてますよね。裏を返せば、自分自身の伝えたいことを並べたときに、最新のものが多く含まれるというのは作り手として健全なことだなと思ったのですが。
そうですね。ちょっと歳を取ったのかなとも思いますけど(笑)。昔の曲を聴くと、自分で言うのもあれですけど、ちょっとかわいすぎるというか(笑)。「片想いのテーマ」(2011年6月発売の1stアルバム「love your life, love my life」収録曲)は曲もかわいくて、声も初々しいんですけど、そういう曲も入れておきたいなと思って。でも、音楽的な振り幅ということで考えると最近のほうが、「表題曲はこうだからカップリングはこう」とか自分の中でも意思を持って展開できているので、自然と新しめの曲が多くなったんだと思います。
──自分なりの遊び方、こだわり方がだんだんつかめてきたんですかね。
かもしれないですね。そうやって自分の中で何かが変わった、ターニングポイントになった曲を多く選んでいて。「オリオンとスパンコール」(2012年12月発売の7thシングル表題曲)は歌以外の部分で「もっとこうしてほしい」とか「こういう音質で」とか、音についてもそれまで以上にリクエストを出した曲なんです。ジャケットも「こういう衣装にしたい」と自分からどんどん意見を出したり、クリエイティブ度がこのあたりからグッと深くなった、もう1歩踏み込んだ思い出の曲で。そういう関わり方で言うと、「パタパ」(2013年9月発売の2ndアルバム「Love letters」収録曲)もアルバムにしか入っていない曲ですけど、楽器を録っているときにスタジオに見学に行って、「こうやって音を重ねていくんだ」「こんな作り方もあるんだ」とたくさん発見がありました。
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今だからこそ歌えた「猫になる」
- 豊崎愛生「love your Best」
- 2017年7月19日発売 / ミュージックレイン
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初回限定盤 [CD+DVD]
3500円 / SMCL-489~90 -
通常盤 [CD]
3000円 / SMCL-491
- CD収録曲
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- 一千年の散歩中
[作詞・作曲:安藤裕子 / 編曲:森俊之] - 春風 SHUN PU
[作詞・作曲:つじあやの / 編曲:関淳二郎] - シャムロック
[作詞:古屋真 / 作曲・編曲:関淳二郎] - 片想いのテーマ
[作詞・作曲:つじあやの / 編曲:関淳二郎] - クローバー
[作詞・作曲・編曲:aokado] - オリオンとスパンコール
[作詞:古屋真 / 作曲:大沢圭一 / 編曲:関淳二郎、大沢圭一] - シロツメクサ
[作詞:千葉はな / 作曲:市川和則 / 編曲:塚本亮] - ほおずき
[作詞・作曲・編曲:蔡忠浩] - Dill
[作詞:原田郁子 / 作曲:mito / 編曲:クラムボン] - パタパ
[作詞・作曲・編曲:田村歩美] - 叶えたまえ
[作詞・作曲:佐藤泰司 / 編曲:シアターブルック] - letter writer
[作詞・作曲:田淵智也 / 編曲:関淳二郎] - 君にありがとう
[作詞・作曲・編曲:奥華子] - music
[作詞:つじあやの / 作曲:mito / 編曲:よだれ虫オールスターズのみなさん] - love your life
[作詞・作曲:Rie fu / 編曲:馬場一嘉] - 猫になる
[作詞・作曲:安藤裕子 / 編曲:関淳二郎]
- 一千年の散歩中
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「猫になる」Music Clip
- Best Album TV SPOT 15sec+30sec
- 豊崎愛生「love your Best Analog Selection」
- 2017年7月19日発売 / ミュージックレイン
-
アナログ盤
3500円 / SMJL-101
- 収録曲
-
SIDE A
- love your life
[作詞・作曲:Rie fu / 編曲:馬場一嘉] - オリオンとスパンコール
[作詞:古屋真 / 作曲:大沢圭一 / 編曲:関淳二郎、大沢圭一] - ぼくを探して
[作詞:Chara+加藤哉子 / 作曲:Chara / 編曲:SWING-O a.k.a.45] - 春風 SHUN PU
[作詞・作曲:つじあやの / 編曲:関淳二郎] - letter writer
[作詞・作曲:田淵智也 / 編曲:関淳二郎]
SIDE B
- CHEEKY
[作詞・作曲:安藤裕子 / 編曲:山本隆二] - Uh-LaLa
[作詞・作曲:つじあやの / 編曲:関淳二郎] - music
[作詞:つじあやの / 作曲:mito / 編曲:よだれ虫オールスターズのみなさん] - ディライト
[作詞・作曲・編曲:田村歩美]
- love your life
イベント情報
- 豊崎愛生ベストアルバム「love your Best」発売記念インストアイベント
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2017年8月27日(日)東京都 AKIHABARAゲーマーズ本店
OPEN 13:00 / START 13:30
内容:握手会
イベント応募券配布店舗:ゲーマーズ全店(オンラインショップを含む)2017年8月27日(日)東京都 アニメイト新宿
OPEN 15:15 / START 16:00
内容:握手会
イベント応募券配布店舗:アニメイト全店
- 豊崎愛生(トヨサキアキ)
- 1986年10月28日、徳島県生まれの声優 / アーティスト。2009年放送のテレビアニメ「けいおん!」で主要キャラクターの1人、平沢唯を演じて注目を集めた。同年2月には同じミュージックレインに所属する寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥と共にユニット・スフィアの活動を始め、10月にシングル「love your life」でソロデビュー。以降は、ソロ、スフィア、さらには数々のアニメのキャラクターソングなど幅広く音楽活動を行っている。2017年5月にはソロ15作目となるシングル「ハニーアンドループス」を発表。7月には初のベストアルバム「love your Best」をリリースする。