2006年に「第1回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、2009年からはスフィアのメンバーとして15年にわたってともに歩んできた高垣彩陽と豊崎愛生。そんな2人が4月28日に東京・立川ステージガーデンで初のツーマンライブ「LAWSON presents 高垣彩陽&豊崎愛生 2マンライブ2024 “twinklux”」を行った。ライブではそれぞれのソロ曲に加え、アンコールでデュエット歌唱も披露。さらに2人のコラボレーションソングとして作られた新曲「トゥインクルクス」も届けた。
「トゥインクルクス」はライブに向けて4月17日に配信リリースされたが、6月12日にCDとしてもリリースされる。楽曲の作詞は高垣と縁の深いriya(eufonius)、作編曲は豊崎の作品に携わってきたミト(クラムボン)が担当。きらめくようなメロディと弾むようなリズム、2人の絆を感じさせる歌詞が印象的なナンバーに仕上がっている。CDのカップリングには、それぞれのソロ楽曲をセレクトしてコラボ歌唱した音源を収録。高垣は自身の楽曲から「私の時計」、豊崎は「See You Tomorrow」をそれぞれ選んだ。
インタビュー中も終始話が止まらず、笑顔が絶えない高垣と豊崎。「考え方が180度違う」という2人だからこその関係性と絆、お互いへのリスペクトをテキストから感じ取ってほしい。
取材・文 / 須藤輝
ライブの打ち合わせだと思ったら、新曲の打ち合わせだった
──高垣さんと豊崎さんでコラボ曲をリリースするという今回の企画は、どのように立ち上がったんですか? お二人の発案なのか、それともミュージックレインの意向なのか。
高垣彩陽 私たちの発案じゃなくて、天の声というか……。
豊崎愛生 総合プロデューサーの声ね(笑)。
高垣 まず、プロデューサーさんが「2人でライブをやらない?」と言ってくださって、今年の4月28日に立川ステージガーデンでツーマンライブをやったんです。その打ち合わせが1月にあったので、まさに今お話ししているこの会議室に来たら「2人でライブに向けて新曲を作りましょう」と発表されて、私たちとしては「ええー!?」みたいな。すっごい大きな声が出ていたと思います。
豊崎 「いいんですか!? やったー!」ってね。私たちは、その日はライブの打ち合わせだと聞いていたので、ざっくりしたセトリを持ち寄って、それを詰めつつコンセプトを決める会だと思っていたんですよ。
高垣 だからサプライズというか、思いがけず新曲の打ち合わせをすることになったんですが、そこで「作曲はどなたにお願いしましょうか?」とか、どんどん話が進んで。
豊崎 「せっかくライブをやるなら新曲を作ろう」という話から始まって、その日のうちに「じゃあ、その新曲をライブのコンセプトにしてしまおう」と。まだ見ぬ新曲だったんですが(笑)。
高垣 ライブのタイトルも新曲の曲名にしちゃうぐらいの勢いでね。
豊崎 初めて2人で作る渾身の1曲をライブの中心に据えることが決まった会でした。
高垣 私にとってツーマンライブは初めての機会だし、スフィアのメンバー2人で楽曲をリリースするのは弊社として初の試みだったんですけど、打ち合わせで「新曲を作りましょう」と言われた瞬間に「じゃあ、クラムボンのミトさんに作ってほしい」というアイデアが浮かんだんです。というのも、ミトさんはずっと愛生の楽曲に携わっていて、愛生の音楽性もパーソナルな部分も熟知しているし、愛生が歌うミトさんの曲も素敵だし。あと個人的に、私もミトさんが作る楽曲を歌ってみたくて。
──「トゥインクルクス」の作編曲はミトさんで、おっしゃる通り豊崎さんと縁の深い方ですが、高垣さんのリクエストだったんですね。
高垣 はい。ミトさんは愛生だけじゃなくて、スフィアや私のソロのライブも観に来てくださるので、私のことも知ってくださっているんですよ。2人のことをわかっている方に曲を作ってほしくて、それが叶って本当によかったです。
豊崎 私としても「ぜひミトさんに!」という感じでした。時間がない中で引き受けていただけるのか、そこだけがちょっと心配だったんですが、ミトさんが作る楽曲に対しては絶大な信頼を置いているし、言ってしまえば私もファンの1人なので。今、本人も話していましたけど、彩陽ちゃんが「好き」と言ってくれる私の曲って、だいたいミトさんが携わってくださっているんですよ。
高垣 そうそう。私が「この曲いいね」って言うと……。
豊崎 「それミトさんだよ」「それもミトさん」「あ、それはミトさんがベース弾いてる」みたいな。だから、彩陽ちゃんとミトさんは一緒に曲を作る機会がなかっただけで、音楽的嗜好は共通する部分が多いはずなんです。で、ミトさんには「高垣と豊崎のツーマンライブがあります。そのライブのコンセプトになる曲を作ってほしいです」と、まさかの丸投げでオファーをしまして。
──ライブのコンセプトを、ミトさんがこれから作る「まだ見ぬ新曲」にしたいわけですから、そうなりますよね。
豊崎 「ミトさんが作ってくださった楽曲に沿ったライブをやるので」と(笑)。そんな大喜利みたいなムチャぶりに応えてくださった、あるいはムチャぶりを楽しんでくださったことに、本当に感謝しています。あんまりないんですけどね、こういう発注の仕方は。
高垣 私も「ミトさんに作ってほしい」というのはパッと思いついたけれど、「どんな曲を?」と聞かれたら答えられないというか、逆にこっちが聞きたくて。私たち2人のことを知ってくださっているミトさんが、2人に対してどういう曲を書いてくださるのか。そこにすごく興味があったので、こちらから「こういう方向性で」と枠を決めてしまうのではなく、あえて丸投げ、ムチャぶりをさせてもらいました。
2人の“つながり”を大切にしたい
──「トゥインクルクス」の作詞はeufoniusのriyaさんで、こちらは高垣さんと縁の深い方ですね。
高垣 そうなんです。でも、実はその縁はミトさんがつないでくださったんですよ。ミトさんには作詞も含めてすべてお任せしていたんですけど、今回の新曲は愛生と私の歴史、“つながり”を大切にしたいと考えてくださって。いろんなつながりを考えた末に、ミトさんからriyaさんにオファーしてくださったんです。クラムボンとeufoniusが同じライブイベントに出演したり、eufoniusの「プリズム・サイン」という曲でミトさんがベースを弾いたりしたことはあっても、ミトさんとriyaさんで曲を作ったのは今回が初めてだそうで。
──普通だったら組まなさそうなお二人だと思いました。
高垣 だから「トゥインクルクス」は私と愛生のコラボレーションであり、ミトさんとriyaさんのコラボレーションでもある。しかもこの4人は、私たちのソロやスフィアへの楽曲提供だったり、私たちが出演したアニメ作品だったりを介して個別にはつながりがあって、それが今回、4人が集うことで新しいものを生み出せたという。だからもともと特別だった機会がさらに特別なものになりましたし、縁を大切にしてくださったミトさんには感謝しかないです。
豊崎 スフィアに「パルタージュ」という曲がありまして。この曲は「10s」(2019年5月発売の10周年記念アルバム)というアルバムで4人それぞれのソロをイメージして作っていただいた楽曲の中の1つで、彩陽ちゃんをイメージしたものだったんです(参照:スフィア「10s」インタビュー)。その作詞をriyaさんが担当してくださったんですが、私の勝手なイメージでは、彩陽ちゃんのソロ楽曲における“彩陽ちゃんらしさ”って、eufoniusの楽曲と重なるんですよ。なので今回、ミトさんが作曲と編曲を、riyaさんが作詞をなさった時点で私たち2人でやる意味も、2人のつながりもまたひと回り大きくなった感覚がありました。
高垣 実はriyaさんが作詞をしてくださるというのを、私はriyaさんご本人から直接伺ったんですよ。たまたま2人でごはんを食べる約束をしていて、とあるチーズドリア屋さんに行ったときにriyaさんが「ご報告があります」と。「え? なんですか?」と聞いたら「豊崎さんと新曲出すでしょ?」と言われて「まさか……!?」みたいな。私、そのチーズドリア屋さんでうれしくて泣いちゃって。
豊崎 「チーズドリア屋」って言うけど、ドリアってだいたいチーズ入ってるよね?
高垣 チーズ専門店だったかも(笑)。そこでランチしているときにriyaさんが「ミトさんの曲を聴いたとき、2人が笑顔で向かい合って楽しく歌っている姿が浮かんだので、それをもとに書き上げました」と言ってくださったんです。そのうえで完成した歌詞を見て「私と愛生がここにいる!」と感激して。愛生と過ごしてきた年月とか、個々の声優、アーティストとして、スフィアとしていろんなことを一緒に乗り越えてきた私たちの関係性って、うまく言葉にできなかったんですよ。それを「背中合わせも 向き合う気持ちもまんなか」「一緒だから気が付けたね」というふうに、歌詞化してもらった……“歌詞化”って、かかっているのわかります?
──歌詞化と可視化でかかっていますね。
高垣 ダブルミーニングですね。サラッと出たけど。
豊崎 (笑)。
高垣 私と愛生の関係って、こういうふうに言い表すことができるんだと気付かせてもらったというか、歌詞の隅々まで「そう! そういうことなんです!」みたいな。だから「ああ、2人の曲だ」という気持ちになりましたし、2人の曲だけど、歌詞の中に何度も出てくる「君」という言葉は聴いてくださるお客さんにも届くので、これからみんなのものになっていく1曲でもあると、レコーディングする前に確信しました。
目に見えないけど確かにある、大切なもの
──豊崎さんは、riyaさんの歌詞をどのように受け取りました?
豊崎 私は、幼稚園のときにすっごい好きだったお菓子があって。明治の「ツインクル」というんですけど……。
高垣 ああー! ウズラの卵みたいな形の?
豊崎 そう!
高垣 私も大好きだった。中にいろいろ入ってるやつだ。
豊崎 5個入りの卵型のチョコボールで、その中にラムネだったり金平糖だったり、5つとも違う種類の中身が入っているんですよ。riyaさんの歌詞をいただいて「twinkle twinkle」と書いてあるのを見たときに、最初に「ツインクル」のことを思い出しました(笑)。
高垣 それは初耳だわ(笑)。
豊崎 「ツインクル」は私が幼稚園のとき、お母さんに毎日買ってもらいたくて仕方がなかったお菓子だったけど、大人になっても好きなものは変わっていなくて。この年齢で自分の好きなものを作ったら、この曲になるんだなと、すごく腑に落ちたんです。「私、ずっとこれをやりたかったんだ。ちっちゃいときからこれが好きだし、これを形にしたかったんだ」と思って、お菓子屋さんに行って「ツインクル」を買ったら、昔と変わらず心がときめいたんですよ。そういうときめきとか感動って、大人になるにつれて薄れていくものじゃないですか。経験を重ねて「それは知ってる」と思ってしまうから。それって当たり前で、別に悪いことでもないんですけど、いくつになってもときめくものもあるんだなって。
高垣 うんうん。
豊崎 私にとってはクラムボンの楽曲もそうで。今でも車を運転するときに最初にかけるのはクラムボンの曲なんです。そういう、今の私たちの歳で抱くキラキラ感やキュンキュン感、ワクワク感といったものを表現してくれるのが、この歌詞なんだと思いましたね。
──今の“歌詞”はダブルミーニングではない?
高垣 歌詞と菓子でかかってる!
豊崎 じゃあ、そういうことで(笑)。今言ったときめく気持ちって、目に見えないですよね。同じように、彩陽ちゃんと私が歩んできた時間とか、その間に築いてきた信頼とか絆とか関係値も、目に見えない。だけど、どちらも絶対にあるんですよ。そういう、目に見えないけど確かにある大切なものみたいな、ふわっとした概念に「トゥインクルクス」という名前を付けてもらったようにも思えて。
高垣 「今の私たち、トゥインクルクスしてるわ」みたいな。
豊崎 そうそう。4月のツーマンライブのステージで覚えた言葉にできない感動だったり、このあと予定されているリリイベとかで生まれるであろう素敵な思い出だったり、「ありがとう」だけじゃ言い表せない感謝の気持ちだったり、そういったものも全部「トゥインクルクス」という言葉で表現できるんじゃないか。そして、ありったけの目に見えないキラキラとした感情やつながりを詰め込んでこの曲を歌えれば、勝ちだと思いました。
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「歌いたいように歌ってください」