ナタリー PowerPush - TOWA TEI
平熱の日常に最高の喜びを。自然体グッドミュージック誕生
TOWA TEIがニューアルバム「BIG FUN」を完成させた。前作「FLASH」から4年ぶり、自身にとって5枚目のオリジナルフルアルバムとなるこの作品には、愛すべきグッドミュージックをたっぷり収録。
太田莉菜、小山田圭吾、Miho Hatori、VERBAL、細野晴臣、MEGらセンスあふれるゲスト陣を多数迎え、TOWA TEIにしか作れない心地よいサウンドが織り上げられている。ポップで洗練された音のマジックは、あなたの日常に最高の「BIG FUN」をもたらしてくれるはずだ。
取材・文/大山卓也
1年間でアルバム制作
——「BIG FUN」は前作「FLASH」から4年ぶりのアルバムになりますね。
そうですね。
——その間にコンピレーションやサントラはあったわけですが、やっぱりソロアルバムとなると意識は違いますか?
ぜんぜん違いますね、僕の中でも。
——ファンとしては4年間待ったなあ、という感覚が強いんですが。
あ、説教だ(笑)。
——(笑)いえいえ、ただその間、何をしてたんですか?っていうのは知りたいところで。
そうですよね。「大日本人」っていう映画の音楽をやって、松ちゃんにダメ出しされたり、とか。「ダメ出し、初めてされたなあ」みたいな(笑)。
——(笑)。
けっこうそれで1年近くかかったり、「FLASH」が出てからすごくDJのオファーが増えたり。だからサントラやってDJやって、あとはAYUSE KOZUEちゃんのブランディングっていうか立ち上げもやって。
——新レーベル「hug columbia」も作られて。
うん、アルバムは2007年の夏くらいからやりたいと思ってたんですけど、なんやかんやで「さあやるぞ」ってなったのはもう、ホントに2008年に入ってから。
——じゃあ1年くらいで集中して作ったという感じですね。
そうですね。
「BIG FUN」というキーワード
——じっくり聴かせていただいたんですが、「BIG FUN」というタイトルはこのアルバムにぴったりだと感じました。テイさんの音楽はガツガツしていないし、人生をちゃんと楽しんでいる人がちゃんと作っている音楽だという印象がすごくあって。
それ書いて書いて。
——はい(笑)。
今言ったのその通り書いてください。
——(笑)でも本当に、ガツガツした上昇志向ではなく、もっとふわっと、テイさんのブログに近いテンションで、日常の延長から出てきているものだという感想を持ったんですよね。
そう言ってもらえると嬉しいですね。いや、ホントに「頂上に登りつめたるで!」的な感覚 はなくて。
——(笑)。
オラッとしていないというか、やっぱり自分はそういう欲ないですからね。
——確かにこのアルバムにはオラッと感はないですよね。
ないですねえ。昔はね、ソロデビューした頃とかDeee-Liteの頃もそうだけど、なんかすごく策士的に見られたり、編集能力……自分で言っちゃうけど、まあ長けてるとは思うんですよ。そこばっかフォーカスされたりとかしてたんです。でも今は真逆で、まあちょっと大げさだけど「みんなのために俺は温泉に入るぜ!」みたいなとこはありますよね。
——温泉?
美味しいもの食べたり、温泉行ったりしながら、いい音楽を作る。牛にビール飲ませて育てるような。
——(笑)。
そういう感じですね。いい湯に浸かるのもCDを買ってくれる人のため。ビールを飲んでる牛の言い分と同じですけどね。
——「俺が飲みたくて飲んでるんじゃないんだ」っていう(笑)。
そうそう。「おまえに美味しい肉食わせる、霜降りの肉を食わせるための仕事なんだよ」と。だから、かわいい子と話したり、きれいなものを見たり、いい音楽を聴いたり、美味しいもの食べたり。なんかね、そういう日常の次元から僕をもっと高次元に連れて行ってくれる唯一のファクターが音楽なので。それが「BIG FUN」っていうキーワードにつながってるんですよ。作ることも聴くことも含めて。
上品な音楽
——テイさんはDJも数多くやっていますし、例えば世の中にはもっとフロアライクな音楽もたくさんあると思うんですが、このアルバムはそこを狙ったものではないですよね。
そうだねえ。そういうのはもういいですね。
——踊らせるための音楽とか、チルアウトのための音楽とかそういうものではなく、ただ音楽自体が目的になっている。今流行っているエレクトロみたいなものと比べると、このアルバムはすごく「上品」な感じがします。
ああ、それはよく言われる。僕はたぶん、もともと音楽をやろうと思ってたわけじゃないし。Deee-Liteでデビューしたときもいきなり15万人の前でステージから落っこっちゃったりとかして。精神的にも肉体的にもつらい思いを経験したので。そこからけっこうヘルスコンシャスというか、やっぱりまず健康じゃないと音楽どころじゃないなって思ったんですよね。で、それでこう、整体とか針とか気功とか、うさんくさいとこもいっぱいあったけどいろいろやって、そうやって40歳を超えて、今ようやくそう言ってくれる、音を聴いてそう思ってくれる人もまあいるのかなって。昔はなんか「テイさんって怖い人だと思ってた」とかね。「マネキンみたいな人だと思ってた」とか言われていたので、これから、次の10年は成熟した大人であることを売りにして行こうかなと。
——確かに、90年代のテイ・トウワというアイコンはやっぱりちょっと得体の知れないところがありましたからね。
うんうん、ですよね。
——それが今はテイさんの音楽を聴くとほっとするんですよね。リラックスして聴けるようになったというか。
立ち位置的にはあれですね、阿藤快みたいな。
——(笑)。
でもホント、さっきの牛の話に戻っちゃいますけど、そうなんですよ。みんなのためにね。上品な音出すためにビール飲んでますって感じかなあ。
——逆に言うとこういう音楽は、朝から晩まで音楽を作り続けているような慌ただしい生活の中からは出てこないもののような気がします。
だと思うんですよ。はい。それに歳をとると集中できる時間が減るんで、だから何だろうな、若いときみたいにダラダラ無駄打ちできない。昔はやっぱり起きてすぐレコードをかけて、せわしなくとっかえひっかえ、そんなことを毎日のようにやってましたからね。それがなんか最近は2週間くらいまったく人の音楽聴かなくても平気で過ぎていったりしますから。そこは大きく変わったところですよね。
CD収録曲
- Y.O.R. feat. MADEMOISELLE YULIA & VERBAL
- Taste of You feat. Taprikk Sweezee
- Out of My Addiction of Love feat. Miho Hatori & Peggy Honeywell
- Lyricist feat. MEG
- Twinkle Twinkle Little Star feat. Mitsuko Koike
- A.O.R. feat. Lina Ohta
- Ch. Galaxy
- Mind Wall feat.Miho Hatori
- Siesta
- All
初回限定盤DVD収録内容
ビデオクリップ3曲収録
TOWA TEI(DJ/音楽プロデューサー)
1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム「ワールド・クリーク」で全米デビュー。世界各国で大絶賛される。1994年から活動の拠点を日本に置き、アルバム「Future Listening!」でソロデビュー。2007年には自身の音楽プロダクションを設立し、レーベル立ち上げにも参加。自身が主催するイベント「MOTIVATION」での定期的なDJ活動のほか、アーティストや製品に対するサウンドプロデュースなど、ますます磨きをかけた豊かなセンスで、DJやトラックメイカー、プロデューサーとして多彩な活動を行っている。2009年2月には5枚目のオリジナルアルバム「BIG FUN」を発表。