ナタリー PowerPush - RECORDZとまり木
リリー・フランキーが本気で挑む新レーベルの構想とは?
懐古主義ではなく今の時代の音楽を作りたかった
──「シジミの女」はさゆきさんの声がいいですよね。クセになる声というか。
リリー 子供の頃に歌謡曲歌ってる女の人を見てなんかザワザワする感じってあったじゃないですか。なんかいやらしいこと歌ってるのがわかって、ザワザワして親には言えない感じ。そういうのをやりたかった。それはセクシーな声じゃないとできないから。
──藤圭子のセクシャリティもそういう種類のものですよね。
リリー うん、あのセクシャリティって三上寛のセクシャリティと近いんだけどね。「夢は夜ひらく」でつながってるように。怨念みたいな。
──あはは(笑)。でも怨念がこもっているとはいえ、この「シジミの女」ってオシャレですよね。もっとコテコテのムード歌謡みたいなもののほうがわかりやすく大衆受けするんじゃないか、という気もするんですが。
リリー そうなっちゃうと結局懐古主義になっちゃうんだよね。懐古主義の歌謡曲っていっぱいあるけど、そこは一番避けたくて。やっぱ今の時代の何かにならないと。それが歌謡曲だから。
──なるほど。
リリー 要は俺らの時代の歌謡曲を考えようってことなんですよ。俺らが子供の頃、「ききわけのない女の頬を / ひとつふたつはりたおして / 背中を向けて煙草をすえば / それで何もいうことはない」(沢田研二「カサブランカ・ダンディ」)って、そんな曲が流行って、それを子供もカッコいいって思ってたわけじゃない? 阿久悠が書いた男のダンディズムに触れて、映画を観ているようだった。だから歌を歌う人が聴いてる人に近すぎるっていうのは、良いこともあるし悪いこともあるんだと思う。遠いから想像できる風景もあるっていうか。
──じゃあRECORDZとまり木では、そういう歌詞の世界も追求していく?
リリー 次々に出してく曲の歌詞を見たら「リリーはこれがやりたかったんだ」ってわかってもらえると思うんだけど。俺は何かを作るときには1人に対して書きたいって思ってる。世界中に翼広げて、結局何言ってんだかわかんないっていうロックもあるけど、歌なんて1対1で完結してればいいんですよ。特に歌謡曲ってロックと違ってすごく漠然としたものだから「あのときあの歌が鳴ってたよね」くらいの感覚でいい。そういうもののほうが結局は残るんですよね。1人に向けてるから。
ロックンロールよりスウィンドルに興味がある
──リリーさんって音楽をやるときは意外なほどに真面目ですよね。普段はえげつない下ネタばっかり言ってるのに(笑)。
リリー うん、音楽はすごくリスペクトしてる。てか、いつも真面目ですけど(笑)。
──リリメグやTOKYO MOOD PUNKSもそうですけど、聴いてると本当に音楽が好きなんだっていうのが伝わってきます。
リリー やっぱり焼肉屋にしても、バーテンダーにしても、本当に肉が好きとか本当に酒が好きっていう人のほうが信用できるじゃないですか。俺は音楽に関してはアマチュアだから、プロの人たち以上にリスペクトの気持ちを持ってやらないと信用されないって思う。まあ、何を持ってしてプロか?って話だけど。
──そのスタンスはジミ・シジミにもちゃんと現れてると思います。
リリー 自分が裏方のときはちゃんとしたいんだよね。俺はピストルズよりもマルコム・マクラーレンに憧れてた子供だから。ロックンロールスウィンドルを見たいんですよ。ロックンロールじゃなくて、スウィンドルに興味がある。
──自分自身のことはどうでもいいから、とにかくものすごいことを世の中に見せつけたい、ということですよね。
ナタリーのコメントを見て新人募集を始めた
──RECORDZとまり木の構想はどのあたりまで見えてるんですか?
リリー この先4枚くらいは考えてます。
──そんなに?
リリー バカバカ出ると思っててください。誰も知らない男の子とか、ロックミュージシャンとか、次は女優かもしれないし。それで何やってるのかわからないように見えて、「あ、こういうことがやりたいんだ」ってわかるときが来ると思う。
──そのラインナップの第1弾がジミ・シジミっていうのは面白いですね。
リリー うん、最初はジミ・シジミっていうよくわからない人から始まったほうが、このレーベルの可能性が見えるなって思ったの。最初にすごく有名な人が歌って「あ、そういう感じか」っていうのじゃなくて。
──間口の広いレーベルですよね。
リリー ナタリーの記事についてたコメントで「ここからレコード出したい。わたし歌手じゃないけど」っていう書き込みがあって、それがすごくいいなと思ったの。それを見てすぐスタッフに言って新人募集の告知を始めたんだよね。
──あ、そうなんですか。
リリー 誰でもいいのよ。誰でもうちのレーベルで歌っていい。それがスナックってことだし、飲み屋とかレーベルの一番いいところだから。例えばラフ・トレードが元々レコード屋だったのに、どんどん音楽出していくみたいなことと同じで。
──意識はラフ・トレードと一緒なんですね。
リリー スナックも昔はいろんな人がそこから出てきたし。そういう気持ちをナタリー見てる子にも感じてもらいたいんですよね。「だったらうちに来な」って。
──じゃあRECORDZとまり木に憧れて、その門を叩く人がこれから現れそうですね。
リリー うん、多分それはナタリーの読者だと思う。だって呼びかけてないのに歌いたいって言ってくれたりするんですよ(笑)。
──素人さんも歓迎ということで。
リリー 本当に、そのナタリーの書き込みがすごく参考になったんですよね。音楽に対して真摯な態度で向き合っててリスペクトがある、そういう人たちも「ここで出したいなー」みたいに思える、その雑な感じが大事だなって。
──普通の人も「ここで歌いたい」と思えてしまうような?
リリー 人が雑誌とかネットからはみ出してくる瞬間が見たいんですよ。メディアからはみ出して生身になる瞬間が見たい。それがインターネットや場末のスナックみたいなものが共通して持ってる部分だと思うんです。それがないと何も変わらないですからね。
CD収録曲
- シジミの女
- 私ってなんなんですか feat.寺島進
- シジミの女 (FPM EVERLUST REMIX)
- シジミの女 (川辺ヒロシ HAMMER BEAT REMIX)
- シジミの女 (オリジナル・カラオケ)
DVD収録内容
- 「シジミの女」 Music Video
- 「シジミの女」 Short Film 「朝が来ない夜」
- 「シジミの女」 Music Video 流しクネクネ バージョン
- 「シジミの女」 Short Film 「朝が来ない夜」 未公開映像
Directed by リリー・フランキー
リリー・フランキー
1963年福岡県出身。武蔵野美術大学を卒業後、イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など多彩な分野で活動。音楽分野ではElvis Woodstock名義で作詞作曲を手がけ、数多くのアーティストに楽曲を提供している。2011年、新たに立ち上げたレーベル「RECORDZとまり木」では、J-POPでも演歌でもない"NEO歌謡曲"をコンセプトに、スナック風の音楽を展開し、新人発掘も手がける。俳優としては、映画「モテキ」「僕たちは世界を変えることができない。」に出演している。