“飲み屋で聴きたい音楽”をリリースするレーベル

──まずは「RECORDZとまり木ってなんなんですか？」というところから伺いたいんですけど。

リリー・フランキー　基本的には“自分が飲んでるときに聴きたい音楽をやるレーベル”ってことですね。なんか家で1人でシラフで聴いてる音楽と、飲み屋で聴きたい音楽が違うな、って思いがあって。

──言われてみれば違いますね。

リリー　飲んでるときやカラオケで歌ってるときに自分の根っこの部分が出てくるんだよね。例えば昔の歌謡曲だとジュリー（沢田研二）の曲みたいな、男はカッコよくて女は色っぽくてみたいの。そういう、自分の原体験になった音楽を出すレーベルがあったらいいなって思ってEMIの方々と話したら、じゃあやろうかってことに。

──その、飲んでるときに聴きたい曲っていうのは、どういう音楽なんですか？

リリー　まあ大まかに言えば歌謡曲なんだろうけど、それをまんまやっても面白くないじゃん。いわゆるレトロ感満載みたいなやつはちょっとね。でも意外と昔の歌謡曲ってダンスビートだったりするし、それで思ったのが「藤圭子が踊れたら」ってことなんだよね。あんなに歌がうまくて表現力が高い人が、ダンスもできて、肉体であの歌を表現できたらって思ってたの。

──それは興味ありますね。

リリー　それで、シジミみたいな雰囲気の子が踊りまくってる暗い曲を聴きたいと思ったんだよね。

松本さゆきはサブカルのミューズ

──さゆきさんの才能っていうのは、具体的にどのあたりに感じましたか？

リリー　その造形的な才能もそうだけど、サブカルな奴らにとってのミューズ（女神）的な感じっていうの？ みんなが思ってるフィギュア感って言うんですかね。存在してるギリギリの現実と空想の境目の人っていう。

──そう言われてますが、さゆきさんはいかがですか？

松本さゆき　ありがたい（笑）。

リリー　その時代ごとにいろんなミューズみたいのがいるでしょ。この人と仕事したら面白くなるだろうなって、みんなが思うような人っていうのが。

──それはさゆきさんが素材として優れてるということなんですかね。

リリー　本人には全く欲がないから。自分がこうなりたいとかっていう自意識みたいなのがないから、他人が勝手に「こうなればいいのに」って思える余地があるんだよね。だから杉作（J太郎）さんやパンク映画の監督も指名したんじゃない？

──なるほど。それに作品自体はすごく緻密に作られているんだけど、さゆきさんの存在があるから……。

リリー　風通しがよくなってるんですよね。

──そう感じます。あのクネクネ踊るビデオクリップも最高ですしね。

リリー　自分で言うのもなんだけど、俺は繊細にモノを作りたいタイプなんです、案外（笑）。でもシジミの表現力とか肉体とか見てると「カメラここ置いておくから、勝手に動け」って言ってほっとけばいいんだって思えるんだよね。あのPVはそうやってワンテイクで撮ってるから。

──カメラが回って、いきなりあの堂々とした動きができるっていうのはすごいですね。

さゆき　楽しいけど、やってるときは不安でしたね。ちょっと。

リリー　こんなこと言いながらいけしゃあしゃあと踊りますからね。すごい才能を感じますよ。「まだなんか隠してるな」って。

──確かにそうですね（笑）。

リリー　あのクネクネは「やれ」って言われてできるもんじゃないですから。それはやっぱりグラビアのキャリアがあるからですよ。撮られることと見られることを知ってる。自分の中の“女”を衒いなく出せる。そこがちゃんとプロなんですよ。

さゆき　グラビアのおかげですね。