東京事変|2020年、職人集団の最新型

2012年2月29日閏日の解散から約8年を経て、今年の元日に“再生”を電撃発表した東京事変が、4月8日に新作「ニュース」をリリースした。

本作では作曲を椎名林檎(Vo)、伊澤一葉(Key)、浮雲(G)、亀田誠治(B)、刄田綴色(Dr)が1曲ずつ担当。作詞はすべて椎名によるものだ。作詞作曲をメンバー全員で手がけた解散前最後のオリジナル作品「color bars」でのアプローチの延長線上にあるとも言える本作には、8年前の“続き”であり、“最新型”の東京事変のサウンドが詰め込まれている。音楽ナタリーでは椎名に、再生の動機や制作の模様について話を聞いた。

取材・文 / 内田正樹

ああ、やっぱり事変だなあ

──まずは今回の再生の動機からお話しいただけますか?

“閏年がやってきた”。これに尽きます。ミスター&ミセス閏年としてしばしのキャンペーンへお付き合いいただけますと幸いです。

──近年も椎名さんのソロ曲「ジユーダム」「マ・シェリ」のレコーディングでメンバーの皆さんと顔は合わせていたものの、ひさびさに事変としてスタジオに入った感想は?

「ああ、やっぱり事変だなあ」と。おそらくメンバーもスタッフも全員、「これこれ!」と感じていたんじゃないでしょうか。しかも、それぞれの出汁がより強まって、水分も飛んで煮詰まっちゃったルーのような。より特徴が強調されています。草木の剪定も思い浮かべました。解散という鋏を一度入れたことで、一気に原種の記憶を取り戻し、四方八方へ伸びる幹や茎の野放図なさまですとか。

──スタジオのムードについては?

楽しいですよ。仕事としての重みを覚える時間が少なくて、作詞の段階で1人慌てるという工程も、かつてのそれと同じです。

──そういえば椎名さんは以前のインタビューで、自分が仕切る以上、時折、4対1の構図になってしまい、「『旦那が来たよ!』とか言われてしまう」と語っていたときもありましたね。

そういう場面はもうありませんね。解散が決まってからは、「今まですいませんでした」みたいなのがあって……。

──(笑)。

それ以降は、ずっと“思いやり”とか“労り合い”。今回の作業時間もとにかくお互いへの優しさにあふれています。些細な言動も行動もお互い必ず拾う。「決して逃さない」「すべて笑いにいく」という気迫に満ちています。そういった意味ではむしろ緊張感があると言えるかもしれません。迂闊に独り言などこぼせませんもの。ひと度ボケるのなら息の長いシリーズものとして発展させる覚悟で挑まねばならない。あの強迫観念はなんなんでしょうか。

──椎名さんとしては、楽しくもあり、尊くも感じられますか?

まあ、そうですね。各々が解散から今日までの時間を目一杯生きてきたからこそ、今こうして再会している5人の関係が密なんだろうなと感じます。「お互い、大きくなっとこうね」という暗黙の了解があったはずで、その通り、みんな各々がんばってきたんだなと実感する場面もたまにあります。ただ単に赤ちゃん返りしているだけのようにも思える場面もよくあります。

東京事変

博多弁で書いてほしい

──事変の作品はこれまでもチャンネル縛りのコンセプトワークとネーミングで統一されてきましたが、今回、「ニュース」に決定した経緯は?

いろいろな理由がありましたが、それは今回の5曲に描かれたものをお聴きいただけたら、自ずと感じ取っていただけるのではないでしょうか。正に、この時代に起こっている事件を5つの切り口から報道するかのように制作するのが、今我々のやるべきことだと思えました。

──解散前、最後のオリジナル楽曲が収録された「color bars」は、メンバー個々の作詞曲が入った5曲入りの作品でした。今回の「ニュース」も、作詞はすべて椎名さんですが、作曲は5人それぞれが1曲ずつ手がけています。

この5曲のほかにも複数の曲に着手していました。確か児玉(裕一)監督(東京事変のツアーにおいてビジュアルディレクションで参加)を含めたミーティングで、「ニュースフラッシュ」というツアータイトルが持ち上がった際に、「じゃあ『color bars』にならい1人1曲縛りは?」と、満場一致の流れでこの5曲になりました。作詞については特に確かめ合うこともなく私が書かせてもらうことになっていて、「この曲にはどういう語り口がふさわしいのかな?」と次の段階の議題に進んでいました。

──作詞にあたって、作曲者にヒアリングなどは行いましたか?

メロディが生まれたときの心情とか、私やメンバーのプレイなど、最初から想定していたイメージがあるかどうかは以前から聞いています。今回もある程度ヒアリングしたうえで、1つしかない正解をつかみにいこうと努めました。ちょっと無茶を言われても、まずはやってみて……。

──無茶というと?

伊澤が「博多弁で書いてほしい」と言うので、最初は「あまおういちご」という曲名で作詞し始めました(※椎名は福岡市育ち)。

──それ、どんな歌詞だったんですか?(笑)

サビは「畑に砂糖ば蒔いとうっちゃん」というものでした。その前は「甘い王様…を略しとうと思ったんやろ 存外洒落とんしゃあ あまおういちご」です。

──え、違うんですか?

あかい・まるい・おおきい・うまい、なんですよ。

──ああ、SMAPみたいな頭文字モノなんですね。

そう。しかも公募で。ワンコーラス目ではそれも述べています。などなど博多弁でひと通り書いてはみたんですが……あるとき、私の中の品質管理長からNGが出て、めでたく「うるうるうるう」ができあがりました。伊澤はどちらも褒めてくれて、うれしかったです。

──制作にあたっては、5人で相当数のデモを持ち寄ったのでしょうか?

伊澤はかなりいろんな曲を出してくれました。それを刄田が自分のプレイでさらにブラッシュアップしてくれたりして。

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