ナタリー PowerPush - 特撮
大槻ケンヂ「パナギアの恩恵」で明るい希望と新たな心境を歌う!?
恋愛アプローチの新機軸
──「くちびるはUFO」も登場人物の年齢構成がジャン・レノ&ナタリー・ポートマン的ですよね。
あれはまたレオンとちょっと違って、もっとヒネてるかな。「パパと同い歳」の「バンドマン」のおじさんは、今一緒に「お茶してる」若い女の子に対してジャン・レノ気分、「レオン」気分でいるんだけど、女の子から「ナメんな」「逆に口説くぞ」って言われてしまう。しかもこの子は同世代の男の子も女の子もイケるんだよね。この詞は自分で書いててビックリした!「オレおもしろーい」って(笑)。作詞家新機軸ですね。しかもタイトルが80年代の化粧品メーカーのCMソングっぽい、という遊びも入っている。
──岡田有希子「くちびるNetwork」的な?
懐かしい感じね。あるいはコピーライターが花形商売だった当時のノリ。「パルコ感」みたいなものも狙ってるんですよ。今そういうのないから。
──だけどこのパルコ、最後にSMをやってますよね(笑)。
うーん、プレイと言えばプレイ。まあ “ヘン”なことをいろいろ盛り込むことのできた詞ってことなんですよね。でね、そのSMの相手っていうのは同世代のちょっと悪魔的な男の子で、しかもその男の子はSなんだけど、実は童貞でちょっと気弱なところもあるイメージかな。これね、甘詰留太さんの「ナナとカオル」っていうマンガがあってこれが結構ショッキングで。SMマンガなんだけど純愛。3巻くらいまで読んだとき「こんな恋愛の描き方があるのか!」ってビックリしてね、あのマンガっぽいアプローチをロックの詞で試してみたかったんです。
ここまで強烈なジャケットになるとは
──「GO GO!マリア」や「ミルクと毛布」「桜の雨」などで、命の尊さについて直接的に歌っているのも新しいアプローチですよね。
前向きの話と一緒なんだけど、新しい命が生まれるほうが楽しいに決まってるじゃないですか! 僕、筋少時代も含め、歌詞の中でかなりの数の人を殺してきてるんですけど。
──ええ。かなりのシリアルキラーですよね(笑)。
シリアルキラーどころじゃない。あれだよ、SF超大作くらい! 「アルマゲドン」みたいな、ああいうディザスタームービー級の大量殺人作詞者ですからね。オレはホンットに人を殺してきた! それも大量に! あの手この手で! 神のように!!
──あはははは(笑)。
そんだけ殺すと逆にね、生んでみたくなったんですよ、今度は。あとね、新しいといえばジャケットも新しいんですよ。打ち合わせのとき、確かに「パナギアっていうのは聖母マリアのことだからちょっと宗教的に」「メンバーの後ろから光が当たっている感じで」っていうイメージは伝えたけど、ここまで強烈なものができあがるとは思わなかった。これは新しいよね! 気に入ってます。
──確かにアーティスト写真の周りに花があしらってあって、しかも後光が差しているデザインは、まったくもってこれまでの特撮らしくないです(笑)。
しかも僕の写真、お肌ツルツルですからね! たぶん36歳の僕だったらボツにしてたはずなんだけど、46歳の今となっては、デザインが上がってきた瞬間こそ「ウヒャヒャヒャ! ピチピチかよ、俺」とは笑ったものの「でも、まっ、こういうのも面白いんじゃない」と(笑)。メンバーはカッコよく撮れてるし。
特撮は神出鬼没な感じがいい
──なぜ「面白いからOK」という判断を?
この写真の僕はね、きっと20年くらいファンでいてくれている女性の脳内にいる僕なのよ(笑)。20年前の僕のいいところだけを集めた姿なんですよ。で、今ってネットがあるから、20年前の僕の映像にも簡単にアクセスできるじゃないですか。しかもネットでは、ベテランバンドも若手バンドも同一線上にいるように見える。
──撮影された年代に関係なく、どちらも「ロックバンドの映像」という同じ「情報」として扱われますよね。
あれと同じなんですよ。宮崎あおいちゃんが、(田口)トモロヲさんのバンドの映像をネットで観てメンバーに会いに行ったら、実はそれは25年前に撮影されたものだから、今はただのおじさんになってたっていう映画。
──「少年メリケンサック」でしたっけ。
それですそれです。だから、このジャケットをきっかけに大槻ケンヂっていう人のことが気になって、しかもYouTubeで過去の僕の映像を観た若い女の子が「あっ、このバンドのボーカルの人、ツルツルお肌でチョー好み!」ってなってくれるかもしれない。そして、ライブに足を運んでくれて、46歳になったこのおっちゃんを観て、アレエッ!ってなってくれるかもしれない。そういうショックって、ロックだと思うよね!
──だから、なぜCDジャケットにそんな自虐的な罠を仕掛けました?(笑)
自虐的じゃないよ。あ、あのね、男性の場合、そういうお店、まあそういうお店としか言いようのないお店に行くと、まずパネルを見ることになるそうですよね。
──ええ。そして、そのパネルにはまった女の子の写真を見ながら「今日はどの子がいいかな?」なんてことを考えます。
らしいですよね。で、「じゃあ、この子で」って言って待ってると、全然似ても似つかない人が出てくることがままあるらしいんですよね。それこそアレエッ!っていう感じの女性が。でも、男たちはそこで決してギョエーッ!とは言わない。「そういうことを言ったら失礼だな」と思って、パネルを見たときと同じ気持ち、表情で接しようとしますよね。これ、優しさですよ。男たちっていうのは若いうちからそういう優しさをそういうお店で育んでるんですよ。
──でも女性にはその学びの機会が足りていない、と。
まあ新宿あたりにある、なんとかクラブみたいなところに通っている女性は別ですけど(笑)、男に比べたら確実にエエッ!を経験していない。だからそういう勉強をしていただく意味でもこの美肌オーケンは重要よ。って、これってなんの話だ、オイ! あ、僕の写真に関してだけのバカ話ですからね。
──そんな教育的な配慮があったとは(笑)。ところでアルバムをリリースして、年明けに多くの若い女性がギョエー!を経験するかもしれないライブをやったあとのご予定ってあるんですか?
内緒です! ただ特撮はそこが面白いとも思っています。アルバムなりを作って、ちょっと活動をしたら、その後は未定。その神出鬼没な感じがいいんですよね。みんながいろいろなことをやっていて音楽的な基盤がしっかりあるから、安心して神出鬼没ができる。まあ、メンバー間の仲がホントにいいんでなんかあるかもしれませんけどね。メンバーがいろんな現場で活躍してるから特撮以外のみんなのワークスとリンクしてみても楽しいかな、なんて思ってもいますし。
収録曲
- 薔薇園 オブ ザ デッド
- くちびるはUFO
- タイムトランスポーター2「最終回 ジャンヌダルク護送司令・・放棄」
- GO GO!マリア
- 桜の雨
- Arion~Hommage a Claude Debussy
- 鬼墓村の手毬歌(Short Edit Ver.)
- 13歳の刺客 エピソード1
- じゃあな
- ミルクと毛布
特撮 (とくさつ)
2000年、筋肉少女帯を脱退した大槻ケンヂ(Vo)がNARASAKI(G / COALTAR OF THE DEEPERS)、三柴理(Piano, Key)、ARIMATSU(Dr)、内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)とともに結成したロックバンド。同年2月に1stアルバム「爆誕」をリリースしツアーを行うが、ツアー終了後に内田が脱退。以後はサポートベーシストを迎えて活動を継続する。2006年に大槻の筋肉少女帯再加入を機に活動を休止。2011年4月にライブツアー開催を突然発表し、同年6月にはアルバム「5年後の世界」をリリース。2012年12月に7年ぶりのオリジナルフルアルバム「パナギアの恩恵」を発表した。