tofubeats「REFLECTION」インタビュー|突発性難聴、上京、コロナ禍、結婚……さまざまな変化と向き合い、自分自身を観察した日々の記録 (3/4)

やっぱり未来に興味がある

──“時間の流れ”は、歌詞の中でも随所に感じられました。例えば「PEAK TIME」もそうですし、あるいは「REFLECTION feat. 中村佳穂」の「まだ止まっている時は 動き始めようとする」といったラインにも顕著に表れています。

そこも「こういうことを書こう」と思って書いているわけではないんです。これまではアルバムを作るときにそんなこと考えていなかったんですけど、今は誰しもがアルバムを作ったりCDを作ったりするわけではないからこそ、CDを出すことに意味付けが欲しいと思った。それが“時間”というワードに関係していたような気はします。自分が思っている音楽の面白さって、時間を制御できることでもあるので。

──個人的には、冒頭の「Mirror」のサウンドに耳を惹きつけられました。この曲にもフィールドレコーディングされた音が採用されていますね。

駐車場の音を使っています。この曲こそまさに「不可逆性」という感じがします。打ち込みで作った曲をサンプリングしては潰して、サンプリングしては潰してを繰り返していたんですけど、メインボーカルに関しては、普通に歌っているようで、実は使っているのはまるまるピッチを下げたボーカルなんです。普通に録った歌を、オケも含めて全部半音下げて、そこに改めて普通のコーラスを乗せたりして作っていて。最初はただの弾き語りの曲だったんですけど、全然違うアレンジになりましたね。今作はライブでやることを想定していないので、こういう加工もいっぱいやっています。

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──「トーフビーツの難聴日記」の中でアルバムの後半の流れに悩まれている様子もつづられていましたが、具体的にどういったポイントで悩まれていたのですか?

アルバムが進むに従って未来に向かっていくような流れにしたかったんですけど、抜け感がなかなか出なかったんですよ。自分が欲している抜け感を出すために、ラスト16曲目の「Mirai」の最後のラップパートの歌詞だけは、アルバムの作詞作業の中で最後に書いたりしました。さっきも言ったように、A地点から始まったものをまたA地点に戻すのではなくて、ちゃんと遠くに投げて終わらせるためにどうしたらいいかということはけっこう悩みましたね。特に「REFLECTION feat. 中村佳穂」はアルバムが完成する1年半くらい前にはあったので、その前後をどうやって肉付けするかが問題で。

──結果として、「Mirai」の「背負っているのは 誰だってそうだ」という最後の歌詞が、このアルバムを遠くて広い場所に導いている感覚がありました。

なんか、こういう感じの終わり方になったんですよね。自分でもこんな終わり方になるとは思っていなくて。とりあえず「Mirai」の最後の部分のオケだけを残しておいて、その部分の歌詞をアルバム完成の1、2週間前くらいに書くぞと決めて、実際に書いたらこうなったんです。「tofubeatsらしからぬ言葉だな」と自分でも思いました。でも、それが面白さだなと思います。こう歌った意味が自分でわかるのは、もうちょっとあとになると思うんですけど。

──これまでも“未来”という言葉はトーフさんの歌詞の中で重要なポイントで出てきている気がするのですが、なぜ自分の歌詞には“未来”というモチーフが重要なものとして出てくるのだと思いますか?

どこで触れたのか忘れたんですけど、昔、「音楽を聴くことは、ちょっと先の未来を予測すること」というのを読んだことがあって。「次こう来るか」みたいなことを予測しているからこそ、音楽を聴くのは面白いんだなと。そのことについて制作中によく考えるんですよ。自分で音楽を作ることって、まさにそういうことなんですよね。さっきの「Mirai」の歌詞の話もそうですけど、思いがけない言葉が自分から出てくるのは今よりも先の話なんだけど、それが面白いからやっている。それはやっぱり未来に興味があるというか、未来を面白いと思っているということだと思うんです。

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バットを振らなきゃいけないときにはしっかりと振る

──「トーフビーツの難聴日記」の中で、濱口監督の「偶然と想像」や庵野秀明監督の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を観て、それらの作品の「ストレートさ」に感銘を受けている様子がつづられていましたよね。そのストレートさというのは、このアルバムにもすごく感じました。ある意味、清々しいというか。

明るいアルバムにしたいとは思っていましたね。僕は後輩にアドバイスするときに「バットを振らなあかんときにはちゃんと振りなよ」とよく言うんですよ。それにはきっかけがあって、DJを始めた直後に「水星」がブレイクしたり、「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」が風営法関連の動きに使われたりして、そういう曲をDJでかけるのを渋々やっていた時期があったんです。そのときに「トーフビーツの難聴日記」にも出てくるマツモト(ヒサターカー)さんという方に、「スチャダラパーは『今夜はブギー・バック』をいつも100%の力でやっている。あれがカッコいいんや」と言われて、めっちゃ目が覚めたんですよ。そういうことを、自分は最初の頃はわかっていなかったなと思って。バットを振らなきゃいけないときにはしっかりと振る。そういう意味で、今回のアルバムも一大アンセム狙いの曲が入っているわけではないんですけど、明るいものにすることは意識していたかもしれないです。

──「REFLECTION feat. 中村佳穂」のドラムンベース的なビート感というのは、近年のトレンドとも言えると思うんです。今、どれだけ音楽的なトレンドがあるのかと言うと難しいんですけど、音楽的な流行という面で世の中の潮流に合わせていくべきかどうかという点はどのように考えられていましたか?

そういう部分は、コロナ禍になってから距離を置くようになったというか、クラブでDJをしなくなったので、がんばって追う必要もなくなったんですよね。それこそ「REFLECTION feat. 中村佳穂」は「PinkPantheressや」とよく言われるんですけど、そう言われるまで僕はPinkPantheressを聴いたことがなかったんですよ。2年前くらいにマシーンドラムを聴いて「ドラムンいいな」となっていたところに、YouTubeでジャングルのシーケンスをS950とかS1000とかのAKAIの昔のサンプラーで組んでいる動画を発見して、「これやりたいな」と思って作ったんです。なのでジャングルのビートメイクの動画を見て1年半くらい前に作ったのが「REFLECTION」で、裏を返すと「この曲を出すのが1年半後くらいになってもいいや」というメンタリティだったんですよね。そのときにドラムンがブームでも終わっていても、どっちでもいいやっていう。「自分が世の中のトレンドに合っているかどうかで評価されることはないだろう」という、よくも悪くも、立ち位置が固まってきたっていうことだと思うんですよね。マネージャーともそういう話をしたんです。そういう評価は気にせずに、今回は自分たちが「いい」と思ったか「悪い」と思ったかだけで判断しようって。

──なるほど。

コロナのこともあってアルバムが出る時期もずっと前後していたので、変に狙い澄まして考えたって無駄だというのもありましたね。特に今回のアルバムはドキュメンタリーにしたかったので、狙いすぎるとドキュメンタリーではなくなってしまう。なのでやりたいことをやろうと思ったし、「ポップにできるかどうか」って、みんなが好きだと思うものを出せるかどうかとは違う話だと思うんですよ。結果的にポップスとして受領されるものと、「お前ら、こんなの好きやろ?」と下手に出て作品を出すことの間には、似ているようで大きな溝があると思う。そういう意味で今回のアルバムは無駄にへりくだらない状態で作りたかったんです。それこそが誠意だと僕は思うので。

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──アルバムのリリース後には記念の配信イベントも行われるそうですね。

tofubeatsチームのハードなコロナ対策の結果、このインタビューにお応えしている時点(取材は4月後半に実施)では、室内での有観客イベントはすべてお断りしていて。なので無観客の配信イベントをやらせていただくことになりました。ラッキーなことにゲストも全員ブッキングできたので、今回のアルバムで客演してくれた闇の瀬戸内軍団も大集合して(笑)、楽しいリリースパーティになると思います。それに無料で観れますから。今日日、配信ライブもだいたい有料になっていますけど、tofubeatsチームは“配信と言えば無料”という古のインターネット感を引き継いでいるので(笑)。皆さまぜひ、予算を持ち出してくださったワーナー・ミュージックさんに感謝しつつ、ご覧になっていただければと思います。