ナタリー PowerPush - TK from 凛として時雨
TK(凛として時雨)初のソロワークは写真+映像+音楽の新機軸
凛として時雨のTK(Vo, G)が「film A moment」と題したフォトブック+DVD作品を発表する。これは彼がバンド活動の合間を縫って、スコットランドやアイルランドに旅をし、写真や8mm映像を撮り、そのときどきの思いを綴り、そしてまるで映画の劇伴のように音楽をつけた作品を、初のソロ名義でリリースしたもの。時雨において透徹した視点でバンドの世界観の軸を構築する彼が1人で表現するに至った経緯、そしてそもそも写真などの映像表現に惹かれた理由についてじっくりと訊いてみた。
取材・文/石角友香
なんとなく「撮っておかなきゃ」って感じだったんです
──まずTKさんが写真を撮るようになったきっかけから教えてください。
もともと写真は学生の頃からインスタントカメラとかでは撮っていたんですけど。大学のときに姉がオックスフォードの大学に行っていたので、そこにカメラを持っていって、それまで自分が見たことのない景色や情景を撮ったっていうのが、たぶん直接のきっかけですね。
──今は一眼レフのフィルムカメラですか?
今はロモっていうメーカーの二眼レフとフジのクラッセを借りてますね。あとは小さなオモチャのカメラを。
──フィルムは扱いが大変ですよね。
はい(笑)。でももう慣れました。フィルムだと枚数が限られていて自然に集中できるのもいいですし。
──フィルムは何を使っていますか?
フィルムは、二眼レフのほうはポートラっていうコダックの……こんなの訊かれたの初めてですけど(笑)……800っていうやつです。
──感度の高い、粒子の粗いフィルムですね。
そうですね。あれとても好きです。
──確かにライティング(照明)をするわけじゃないなら、感度の高いフィルムのほうが使いやすいですよね。
ノイズの感じも好きですし、しかも僕、露出とかもあんまり変えないので、そんなにこう、全部を把握してないんです、カメラを……。なので設定も同じで、とりあえず撮るっていう感じで。
──写真は、何か手応えがあって続けてるんですか?
うーん……。
──趣味ですか。
……たぶん趣味というほどやってないんですよね。普段カメラ持ち歩いたりしないですし、ケータイで撮ったりすることも少ないんです。なんかこう、誰かに見せたいとか、自分の中で見たいもののイメージがあったときに、自然と撮ってるっていう感じで。だから撮る機会はすごく少ないんですよね。1年に何回とか、そんな感じです(笑)。
──イギリスに初めて行ったとき、景色が訴えかけてくるようなものがあったんでしょうか。
そうですね……なんだろうな……やっぱ、初めて見るものがすごく多かったし。最初イギリスってすごくつまんない国だなと思っていたんですけど(笑)、なんかもう街全体が灰色だと思ったし、でもなんとなく、それを撮っておかなきゃっていう感じだったんです。それが始まりでしたね。
イギリスにいると自分が透明になった感じがする
──そもそもイギリス行きは留学とかではなく?
全然そういうんじゃないんです(笑)。なんなんでしょうね? 勝手もわからなかったし、姉も学校行ってて常に一緒にいるわけじゃなかったので、僕は英語もしゃべれずそんなとこに放り出されて。なんかこういろんな感情があって、心にゆとりはなかったですね。
──学生だし時間もあるから海外に行ってみたものの、という?
大学の単位を取り終えて卒業は決まっていて、時間があったんです。ちょうど時雨を始める直前ぐらいで。で、結果的にそのイギリス滞在が時雨の始まりに直結することになったんですけど。イギリスではなんとなく「帰りたいなあ」なんて思ってはいたんですけど、帰国してからイギリスに行ったときに自分が感じた違和感をすごくまた欲しくなって。で、写真を見て「あそこにいたときってどうだったっけなあ」とか、戻れもしないんですけど、その感情をすごく思い出したくなって。その頃がちょうど時雨の曲作りの始まりの段階だったんです。その思い出したい気持ちが、曲作りとけっこうシンクロしていて。
──じゃあ時雨の初期ナンバーって、TKさんがイギリスで撮った写真がヒントになっていたりするんですか?
けっこうなりましたね。っていうか、ほとんどそれだったというぐらいの勢いで(笑)。
──なんなんでしょうね? ロンドンじゃなくてオックスフォードだったのもよかったんですかね。
うん。ロンドンはちょっと苦手なんです(笑)。少しだけ外れたところにいるのが好きで。誰も何も気にしてないというか、自分が透明になった感じがして……その感じがなかなかほかでは感覚として得られない。
──それは行くと気がラクだっていうことではなくて、自分が何かを作るときの感情に近いからっていうことですか?
やっぱり向こうでしか感じられない感覚というか、自分と向き合う時間っていうのはすごく多いんですよね。その、自由が利かない分、なんだろう……日本だったらたぶんずっと曲作りとか作業をしてるけど、向こうにはギターも持っていかないし、なんかふわっとした時間が多かったりして、その瞬間瞬間にやっぱりこう、自分がなんで音楽をやってるのかとか、なんでギターを弾いてるかとか、普段だったら考えなくていいようなことをやっぱりすごく考えるんです。少し前の自分を振り返ったりする感覚って、居心地のいいところではそこまでないというか。だから、なんだろう……、何かを探しにいく感覚っていうのはありますよね。
──そうですね。日本にいてバンドがフル稼働してて、レコーディングしたりツアーやってたら、基本的には「毎日しっかりやろう」っていうテンションですもんね。
うん。やっぱりCD出してツアーをやって目の前にお客さんがいてくれて、盛り上がってくれていて。でもやっぱり、その小さな世界から抜け出す時間が自分には必要で。でもその時間がすごく心地いいわけではないんです。リフレッシュをしに海外に行くとかそういうのとも違ったりして、直前まで行くかどうか悩んだりするんですよね。ここにいるほうが居心地はいいし(笑)。
──変な言い方をすると「違和感を取り戻しに行く」みたいなことですか?
たぶんそういうことでしょうね。だから、あんまりほかの場所に行ったりはしないです。
凛として時雨(りんとしてしぐれ)
TK(Vo, G)、345(B, Vo)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを魅了。2010年4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に収めている。