ナタリー PowerPush - TK from 凛として時雨
TK(凛として時雨)初のソロワークは写真+映像+音楽の新機軸
撮影した素材は自分のフィルターを通して出てきたもの
──今回、まずスコットランドに行く段階で、映像と音楽を連動させた作品を作ろうというコンセプトはあったんですよね。
ありましたね。フィルムカメラと8mmカメラで、何に使うかはわからなくてもとりあえず撮っておこうと思って。あとは何かを思ったらその都度文章を書くっていうのだけは決めてました。で、毎日ずーっと旅をしていたんですけど、何か具体的に動いたか?っていうと別に全然そうでもなくて。でも、まだどういうプロダクトになるかわからないまま、スコットランドで撮った素材を現像してみたら、それが自分のフィルターを通して出てきたものだっていうのがわかったんですよね。
──そこで初めて作品のイメージが見えたと。
それでやっぱりもうちょっと素材が欲しくなって、「アイルランドもいいかな」と思って調べてもらったら飛行機が1席だけ空いてたんで、もう運命的なものだと信じて行きました(笑)。
──では、この作品を「TK from 凛として時雨」名義でリリースしようと思ったのはいつ頃なんですか?
最近ですね。それこそ2年ぐらい前から素材を撮りためていたんですけど、そもそもソロ名義で作品を出すという発想は頭の中になかったので、最初は時雨でその素材をどう使うかを考えていたんです。まあ、結果的にはそれで動けなくなってたんですけど。やっぱり自分が撮った写真があって、自分が書いた日記があって、撮った映像があって、パーソナルなものに寄りすぎていて。メンバーが誰も映っていないのに「凛として時雨の写真集」っていうのも変だし(笑)。時雨も自分が作り出したものを3人でアウトプットしてるんですけど、今回やっていることとは似ているようで明らかに違っているんですよね。それで、12月とか1月とかそのぐらいに、名義をもうソロにして、一度枠を取っ払っちゃったほうがいいんじゃないかって話になって。それからプロジェクトがちゃんと進み始めたっていう感じですね。
──メンバーは何か言ってましたか?
メンバーは……いや、特に何も(笑)。
──言わなそうですね(笑)。
「俺、ソロデビューするから!」って言った感じでもなかったので(笑)。でもメンバーも、僕が作った写真集を「時雨のもの」として出すのはたぶん難しいとは思ってたでしょうし。それに普段の時雨の作品でも、そもそもプロダクトの根底から話し合って作るとかって、そんなになかったりするので。だから今回も「そういえばソロ名義で出すことになったんだよね」ぐらいの感じですよ。で、「それは楽しみ!」みたいな(笑)。
「こんなところまで何を探しに来てるんだろうな」って
──それにしても1人でさまようために外国に行ってるTKさんって、言い方は悪いですけど客観的に見ると面白いですね。
さまよいに行ってましたねえ。嵐とかに遭いながら。
──でも、旅ってそういうものですよね。
そうですね。だから「こういうものを作ります」っていう具体的なビジョンがあって行ってたわけではなかったので、例えばカメラを持ちながら雨に打たれて、雨宿りするところもなくてっていうときに「何しに来てんだろ?」って思う瞬間は、まあけっこう多かったですよね。「こんなところまで何を探しに来てるんだろうな」って(笑)。そこにいる時間の中で、自分があとで作品のためにきっと欲しくなるような素材を撮っていかなきゃならないっていう、妙な焦りを感じながらカメラを回してました。寝ている間もホントは自分が見たかったものがどこかにあるかもしれないとか想像しながら過ごしてましたね、10日間ぐらい。
──ホントに手探りですよね。「これが撮れるまで帰らない」とかじゃないですし。
うん。例えばオーロラとかを撮りにいってたなら、もっといろいろわかりやすかったと思うんですけど、たぶんそういうものが作りたかったわけでもないんでしょうね。スコットランドでこれを撮ってアイルランドでこれを撮って、それをつなげてこういうものを作りたいっていうのがなかったから、こういう形になったんだろうと思います。ただ、コンセプトっていうのは時雨においてもあるようでないというか。時雨の曲を作るときも探し物をしながら自分が欲しかったものをたまたまそこで見つけるっていう作業の連続なので、まさに今回の僕の作品は、その映像版だったっていう感じですね。
──曲作りも、探し物をしていてたまたま見つけるということでしょうか?
うん。「ラテン調の曲が作りたい」とかっていうのがわかっててラテン調を作るのと、探してて「もしかしてこれかな?」って、たまたま結果的にラテン調になるっていうのの違いというか。たぶん僕は後者なんでしょうね。
凛として時雨(りんとしてしぐれ)
TK(Vo, G)、345(B, Vo)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを魅了。2010年4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に収めている。