ナタリー PowerPush - TK from 凛として時雨
TK(凛として時雨)初のソロワークは写真+映像+音楽の新機軸
東京で20キロ歩くのは絶対に嫌です(笑)
──実際、ハードな旅だったんですか? 事前にロケハンしたわけでもなく、ひたすら歩いていた?
そうですね。気付いたら20何キロ歩いてて、行くときはいいですけど、戻るときは怖いですね。でもなんか1人になるとこんなに人って強くなるんだな、とか思いましたけどね。
──無謀な感じなんですか?(笑)
無謀もいいところですね、森の中で真っ暗になったりして。でもなんとかなると思ってるんでしょうね。どっからその自信がくるのかわかんないですけど。
──逆に東京で知らない場所とかに行くほうが嫌かも。
うん。たぶんそうなんだと思います。東京で20キロ歩くの、絶対嫌ですもん(笑)。
──(笑)。でもそうして撮られた写真や映像は、森でも海でも、そして町並みなんかでも共通したトーンがあるなと思いまして。
うん。
──割と打ち捨てられた場所というか。
なんか不思議なんですけどね、「moment A rhythm」のジャケットになってる場所がイギリスにあって、そこを実際に見た人が、(僕の)写真の感じとは全然違ったっていうんですね。で、それはすごくわかるというか。
──写真には、音楽以上にTKさんのものの見方がよく出ているということですよね。
普通なつもりなんですけどね。
CDだけでは伝わらない今回しかできない手法だった
──曲の尺なんかは、映像が完成してから決めたんですか?
いや、それができなくて。ホントは曲が先にできてて、それに対して映像を撮るのが普通っていうか、やりやすいやり方だと思うんですけど、今回は曲作りも手探りな感じで、ひとまずラフでつなげた映像を見ながらピアノを弾いたりして……。で、ピアノが長くなったら、今度は映像に戻って編集し直してっていう同時進行で作ってたんですよね。だから映像編集をほかの人に丸投げすることもできなくて。「曲にあわせてこういうニュアンスで編集お願いします」って渡してたら、僕が欲しがってる偶然みたいなものは手に入れることはできなくなるだろうなと思っていたので。
──確かに「あんなカットもあったな」なんて自分しか思い出せないし、それがなかったら偶然も起こらないでしょうし。
そうなんですよ。だから映像の編集は今回ゼロから勉強しました。時間的にも相当大変なことにはなるだろうって予想はつきましたけど、それでも今回は自分がやるべきかな、と思って。
──では今回そうした作業を通して、音楽的な新しい発見はありましたか?
曲の中のまったく同じ音を別の曲に登場させるのは初めてでしたね。1曲目のある部分が3曲目に一瞬出てきていたりして。それは映像で1曲目2曲目3曲目……って見ていったときに、観てる人の意識を一瞬少しだけ後ろに戻したいなと思って。まったく同じ音が違う曲に貼り付けられていて、そこに映像があることによって意味不明にフィードバックさせられるというか。あれはCDだけでは伝わらない、今回しかできない手法だったと思います。曲と映像が密接にくっついていて。
──やってみて良かったですか?
そうですね。けっこう新鮮な気持ちで、デザイナーさんを始め、普段かかわらないような人たちと一緒にできて、やっぱり自分にはない視点でものを見られたりとか。時雨も100%、純度の高いものだと思ってますけど、今回は違うベクトルで自分の純度を高められた気がしますね。
──なんだか「still a Sigure virgin?」のインタビューの頃より、TKさん元気そうに見えるんですけど(笑)。
そうですか?(笑) あれじゃないですかね……自分だけと向き合って、自分の中のものを吐き出したから。作品を作るためにイギリスに行っているわけだし、日記を書いてもいましたし、そのあたりがはっきり見えてる分、今回は作品についての説明がしやすいんですよね。だからいつもより気持ちがラクなんです、インタビューのとき(笑)。
凛として時雨(りんとしてしぐれ)
TK(Vo, G)、345(B, Vo)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを魅了。2010年4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に収めている。