“やれやれ枠”の若手アーティストが大先輩KERAに人生相談「今、すごい“苦”です」|「Tiki-Taka Jamboree! 2022」開催記念特集

1stアルバム「MAZE」のリリースを12月28日に控えたTiki-Taka Technicsの主催ライブイベント、「Tiki-Taka Jamboree! 2022」が12月29、30日に東京・WWW Xで開催される。

2021年にTiki-Taka Technicsの活動3周年を機に初めて開催されたこのイベント。2回目となる今回は、29日公演にKERA(有頂天、KERA & Broken Flowers)、サイプレス上野とロベルト吉野、D.W.ニコルズ、ホフディラン、B.O.L.T、30日公演に水中、それは苦しい、femme fatale、FINLANDS、PIGGS、ハザマリツシといった、新人アーティストの主催イベントとしては異例なほどにバラエティあふれる豪華な面々が出演する。

音楽ナタリーでは、このイベントを1人で仕切っているTiki-Taka Technicsの中心人物・とつかうまれと、イベントの出演者であるKERAの対談を企画した。とつかにとってKERAは「自分がやろうとしているようなことを、40年近くも前にすでにやっていた」という憧れの大先輩。緊張しながらもとつかはKERAに、自身の音楽活動やイベント制作などについての悩みを打ち明け始めた──。

また後編では、とつかうまれへの単独インタビューも実施。どのようにしてTiki-Taka Technicsが生まれたのかや、アルバム「MAZE」を作るに至った音楽的なルーツなどを聞きながら、彼が目指しているのはなんなのかをじっくりと紐解いていく。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 臼杵成晃

とつかうまれ×KERA対談

「LANDSCAPE」に自分と近いものを感じた

とつかうまれ(Tiki-Taka Technics) KERAさん、今日は対談を受けてくださってありがとうございます。よろしくお願いします。

KERA こちらこそ。若い世代の人から声がかかるというのはうれしいです。あなたがどういう人なのか、ほとんど知りませんけど、よろしくお願いします。

とつか 僕はもともと高校生のときから電気グルーヴが好きで、そこから人生とかナゴムレコードのバンドとかを聴くようになっていって。その中でKERAさんのお名前にも自然とたどり着いたんです。そんなあるとき、YouTubeでKERAさんがBOØWYの「B・BLUE」をカバーされている映像を観たんですよ。「あのKERAさんが『B・BLUE』をやってるんだ?」と驚いて。僕はBOØWYもすごく好きなので。

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

KERA なんか、布袋(寅泰)さんのコンテストに出たんでしょ?

とつか あ、そうです! オフィシャルなものではなく楽器店が主催していたイベントなんですけど、「BAD FEELING」のリフ演奏を競うコンテストで優勝したことがあって。

KERA ジョニー(大蔵大臣 / 水中、それは苦しい)に聞いた。

とつか そうなんですね! ジョニーさん、すごくその話に食い付いてくれて(笑)。そんなコンテストに出るくらいBOØWYがすごく好きなんですけど、あのKERAさんの「B・BLUE」はBOØWYファンの間でも話題になっていたので。

KERA え、ホントに?

とつか なってますなってます。その後、KERAさんの最初のジャズ盤(2016年リリースのアルバム「Brown, White & Black」)を聴いて、すごくいいなと思って。その次に出た「LANDSCAPE」(2019年)で完全にハマりました。

KERA そうやって言ってもらえるのはありがたいですね。いや、本当にありがたい。

とつか 当時は大学を卒業してフラフラしてた時期で……うまく言えないんですが、何か自分に近いものを感じたんですよね。内省的なカッコよさというか、いわゆる氷室京介的な“外から見たカッコよさ”とは別種の価値観というか。それが自分の、20歳を過ぎて大人になるにつれて獲得してきたマインドをすごく刺激してくれる感覚があったんです。それで、KERAさんにハマるというよりは「LANDSCAPE」にハマるみたいな感じで、インストアライブとかBillboard Live公演とかも観に行きました。

KERA ああ、ビッグバンドでやったときの(参照:KERAのビルボードライブ再び!ビッグバンド編成で「LANDSCAPE」レコ発公演)。

とつか そうです。それで今回「Tiki-Taka Jamboree! 2022」を開催するにあたって、前回(2021年に東京・下北沢シャングリラで開催されたTiki-Taka Technics活動3周年記念イベント「Tiki-Taka Jamboree!」)よりも大きくステップアップしたい気持ちがありまして。できるだけ自分が尊敬しているアーティストさんにお声がけしたいなということで、KERAさんにオファーさせていただきました。

とつかうまれ(Tiki-Taka Technics)

とつかうまれ(Tiki-Taka Technics)

KERA 率直にうれしいですね。

とつか 今回、なぜオファーを受けていただけたんですか?

KERA まずは僕もバックをやってくれるメンバーもスケジュールが調整できたからですね。ソロでイベントに出たことはないから、一度やってみるのも楽しいかなと思って。僕は若い人には疎いので、Tiki-Taka Technicsという名前も今回初めて聞いたんだけど、知ってる人がメンツにいたというのが大きいですね。ホフディランとか。あと、アイドルの子たち……B.O.L.Tかな? が、違うグループ名だったときにウチのギターの伏見(蛍)くんがレコーディングに参加したことがあると言ってて。

とつか B.O.L.Tさんの前身、ロッカジャポニカのときですね。

KERA 僕はわりと、ナゴムの頃からずっとつながっている人たちや、その血脈にある人たちとばかり対バンしてきて、自分の届けられる範囲に届けることしかやってきてなかったから、たまには外に出ていくのもいいかなと思ったんです。

楽しかったから続けてこられた

KERA たださ、こんなイベントを主催するのって、割に合わないでしょ?

とつか 合わないです。

KERA ねえ(笑)。

とつか 爆死です。一応WWW Xのキャパが、今の状況的に考えて500前後かなというところなんですけど、それが埋まったとて……っていう。

KERA もう10年前になるけど、俺もいろんな人を呼んで新宿LOFTで4日間イベントやったりしたことがあって。そういうのをやると、もう自分のパフォーマンス以前の裏方仕事というか、そっちで気疲れしちゃうんだよね。だから、同情しますよ。大変だろうなって。

とつか 本当にそこは大変でして……でも、KERAさんはそういう“割に合わないこと”を各方面で長年にわたってやり続けてきた方というふうにお見受けしています。

KERA そうね、それは自信ある(笑)。基本的に、よくも悪くもお金のこと最優先では物事を考えられないんですよ。ナゴムのときも、最初の頃はコンビニでレジ打ちのバイトをしながらやっていて。バイトで稼いだお金が全部レコードを作る費用に持っていかれて、全然赤字だったし。ただ不思議と、続けていると黒字になるものが偶然出るんですよ。それで回収するみたいなサイクルだった。

とつか はあー。そういう、割に合わないことをずっと続けてこられたのはなぜなんですか?

KERA いやあ、やっぱりやりたかったから。楽しかったからですよね。それがすべて。

とつか あああー。

KERA もちろんつらいことはたくさんあるんだけど、結局それより楽しいことのほうが上回るんですよ。今でもそうだもん。演劇をやっていて、「こんなにつらいなら辞めればいいのに」と思うこともあるんだけど(笑)、落ち着いて考えてみると「これを辞めて別の仕事で生活していくことと天秤にかけたら、今の仕事を続けるほうがずっといい」という結論にたどり着く。そう思えるぐらいには、やっぱり楽しいんだよね。きっとね。

とつか 楽しくなかったら続けていない?

KERA うん。だって、それがすべてだもん。すごく楽しんだよ。そりゃ煩わしいこともいっぱいあるんだけどさ。年齢を重ねて体力的なこともあるしね。でもやっぱりそれよりも人間関係とか、あとは忙しすぎて凡ミスが増えたりとか。

KERA

KERA

とつか 今の僕がまさにそれです。

KERA あと昔は自ら選んだキャラに縛られて疲れてたな。人と違うポジションに就いちゃったもんだから。というのは、たまたまその椅子が空いていたからなんだけど。それまでパンクとかニューウェイブとかの世界では、ほとんどがしかめっ面か怖い顔してストレートなメッセージを発することしかしていなくて、ユーモアで笑い飛ばすような姿勢の人たちなんて、点々としかいなかった。ヒカシューとかコンクリーツ、ほぶらきんとか、ちょっとはいたんだけど、主流は怖い顔の人たちだった(笑)。それで「あ、この椅子なら空いてる」と思ってスッと空いてた椅子に座っちゃったもんだから……俺だってたまにはしかめっ面したいのに、できなかった(笑)。まあ、だからこそ同じ血脈の人が続々とそこに集まってきてくれたというのもあるんだけど。それで続けてこられたというのはあるかな。

夏の魔物ですか?

とつか 僕、そんなふうにシンパシーを抱き合える同世代の仲間というのがほとんどいなくて……。

KERA まあ、無理に仲よくする必要もないと思うけどね。

とつか もちろんそうなんですけど、同世代からは「やれやれ、あいつまたヤバいことやってんな」と思われていそうな空気を感じていて。

KERA その「ヤバい」っていうのは、どういう意味で?

とつか 最初にKERAさんも僕らの名前を知らないとおっしゃいましたけど、別にKERAさん世代に限らず、全然そのレベルなんですよ。若い世代にも別に知られてはいなくて、下北沢のライブハウスとかで活動しているだけの……。

KERA 「そんな分際で、こんな規模のフェスやっていやがる」とか、そういう意味のヤバさ?

とつか そうです。「調子乗ってんな」というふうに、「やれやれ」と思われてるのかなって。まあ、誰かに直接言われたとかではないんですけど。

KERA あれか、夏の魔物的な意味の「やれやれ」ってことね。

とつか それです! よく言われるんですよ、「夏の魔物ですか?」って。僕はそんなに夏の魔物さんのことは存じ上げないんですけど、みんながそう言ってくる気持ちはわかるなと思って。

KERA 確かに彼らは……彼らっていうか、成田(大致)くんだけだけど(笑)。見え方として「やれやれ」と思わせる人ではあるからね。内情がどうあれ、どうしたってハタからはいろいろ言われるよね、極端だからさ、よくも悪くも。

とつか 僕はその“やれやれ枠”の後釜を担うべき立場なのかなと。進んでそうなりたいわけじゃないんですけど(笑)、そうなったらなったで全然構わない気持ちはあるんです。ただ、それによって何が得られるのかは、ちょっとまだ見えていなくて。

KERA 彼には彼なりに、あれをやった意義はあったんだろうと思うけどね。でも、世論というか一般の人たちに「こう思ってもらいたい」みたいな印象をコントロールするのは難しいよ。演劇をやり始めた頃は「ミュージシャンのKERAが片手間に芝居をやっている」というふうにどうしても思われてたし、今はそれが逆転している感がある。少しずつどちらにも来てくれる人が増えてきてると信じたいけどね。結局、好き勝手にやっていることに付いてきてもらうしかないのかなという感じがする。

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

左からとつかうまれ(Tiki-Taka Technics)、KERA。

とつか 僕ら、バンドの成り立ちからして“やれやれ”なんですよ。もともとはお笑い志望の友人がいて、そこに誘われて集まったものの、コント集団として活動していく形が見えないから苦肉の策でコミックバンドとして始まったんです。そしたら、1回コンテストに出た段階でメンバーがみんないなくなっちゃって。お笑いをやりたかったやつに誘われただけの僕と、そいつの友達だった一応ボーカルの2人だけが残されて、こんな感じになったんです。

KERA 今はその2人体制なの?

とつか 今は1人です。

KERA え、1人なの? あれ、写真では2人いなかったっけ?

とつか 正式に脱退はしてないんですけど、ボーカルのやつにまったくやる気がないんで。結果的に、消去法みたいな感じで僕が1人でやるしかない状況になっています。

KERA なんだそれ。その状態が、聞いててものすごく面白いんだけど(笑)。

とつか そうなんですよ。それも武器にできたらいいんですけど、今のところまったく武器になっていなくて。

KERA 今度の2日間(「Tiki-Taka Jamboree! 2022」)は?

とつか 1人でやるつもりです。

KERA 俺がYouTubeで観た、歌ってた人はいないんだ?

とつか えーと、いるかもしれないです。

KERA わからないの?(笑)

とつか 体調次第では物販とかをやっている可能性もありますね。

KERA もう1カ月後(取材時点)なのに、いるかいないかわからないんだ(笑)。

とつか わからないです。

KERA なんなんだよ。面白いなあ。

2022年12月28日更新