THE YELLOW MONKEYメジャーデビュー30周年記念特集|音楽ライター15人がつづる「私が聴いた『30Years 30Hits』」

THE YELLOW MONKEYのメジャーデビュー30周年に向けたベストソング集「30Years 30Hits」が、各ストリーミングサービスにて配信されている。

「30Years 30Hits」はTHE YELLOW MONKEYがこれまでリリースしてきた数多くの楽曲から「JAM」「SPARK」「LOVE LOVE SHOW」「球根」といったバンドを代表するヒット曲、ライブで人気の高い楽曲など30曲を厳選しまとめた作品。2016年の再集結以降に発表した楽曲も多数収録されており、色褪せないデビュー当時の楽曲からバンドの最新のモードを反映した楽曲まで幅広い年代のサウンドが楽しめる。

このベストソング集を通じて改めてTHE YELLOW MONKEYの音楽の魅力を分析すべく、音楽ナタリーではさまざまな世代の音楽ライター15人に「私が聴いた『30Years 30Hits』」というテーマでのレビューを依頼。また収録曲から特にオススメしたい楽曲も挙げてもらった。それぞれの目線からつづられたレビューとともに、「30Years 30Hits」をじっくりと楽しんでほしい。

阿刀“DA”大志

おすすめの1曲:「Changes Far Away」

いくら音楽ライターと名乗ってはいても、学生時代によく聴いていたバンドの音楽について評論めいたことを書くというのは自分にとってとても難しい。イエモンもそういうバンドの1つ。なので、これは46歳男性の思い出話として読んでほしい。

自分はイエモンの熱心なファンというわけではなかったけど、中高大と過ごした90年代の中頃以降を振り返るときに彼らの音楽は欠かせない。特にシングル「太陽が燃えている」から「離れるな」あたりまでの約3年間はまさに神、である。自分だけでなく、周りの友達はみんな彼らの曲が好きだった。カラオケに行けば誰かしら歌っていた。自分の周辺に限らず、全国的にそうだっただろう。仲間内で特に人気があったのは「LOVE LOVE SHOW」。でも、どの曲にもパワーがあった。スッと歌詞が頭に入ってきた。歌謡曲っぽいメロディながら、ほかのポップスからは感じられない怪しさと危うさがあった。今、当時のことを思い出しながらキーボードを叩いているだけでも胸がグッとなる。

「30Years 30Hits」を聴くにあたっても、やっぱりその時代の楽曲に耳、というよりも心が敏感に反応する。だが、失礼ながら今作はベストとはいえ知ってる曲と知らない曲の割合は半々ぐらい。ひとまず曲タイトルを見ずに聴きながら気付いたのは、どうやらリリース順に並んでいるわけではないということ。だって、「悲しきASIAN BOY」が中盤に出てきたから。30年も活動しながら、リリース順に並べなくても違和感なく成立するベスト作品ということにまず軽く衝撃を受けた。2周目は各曲のリリース日を確認しながら聴いていく。驚くことに、1周目に聴いていい曲だと思ったものはことごとく再結成後の曲だった。「I don't know」「ロザーナ」「Changes Far Away」……。

再結成したバンドというものは、離れていた時間の分だけの変化(主に渋さ)が音に現れると思っているし、厳密には彼らもそうなのかもしれない。だけど自分の耳は、どんなに結成から時間が経ったとしても、どんなに長い時が彼らを隔てていたとしても、自分たちの出したい音、歌いたい歌に変わりはなかったんだとこの作品から受け取った。それはちょっと感動的だったりもする。信じていたバンドがずっとカッコよくあり続けるというのはファンにとって本当に幸せなことだし、なんなら誇らしさすらある。自分も「9999」を聴くところから改めてイエモンを始めたいと思った。あの頃の連中にも聴かせないと。

天野史彬

おすすめの1曲:「花吹雪」

この記事の趣旨としては、THE YELLOW MONKEYというバンドについて「詳しい書き手」にも「そうでない書き手」にも声をかけているとのことなので、まず私自身の立場を表明しておくと、私は「そうでない書き手」である。今年で35歳になる自分にとって、イエモンは、まだ音楽に夢中になる前の子供時代にテレビから流れてきた音楽であり、こちらから追いかけずとも自然に耳に入ってくるものだった。

どちらかと言えば、「YOSHII LOVINSON」との出会いが大きかった。10代半ば、音楽に熱中し始めた頃によくラジオで流れていたYOSHII LOVINSONの音楽にはとても魅了された。「TALI」、「CALL ME」……。それらは当時の自分にとってはまったく聴いたことがないタイプの、飄々とした、不思議で魅惑的な日本語の音楽だった。そこには、「翳り」に徹底的に向き合うからこそ見出される光が表現されているように感じたし、「どう生きればいい?」という根源的な問いに触れながら、音楽と無邪気に戯れる洒脱さも併せ持つ、絶妙なバランス感覚も感じた。彼が、あの「イエモン」のボーカリストであると、最初の頃はほとんど認識せずに聴いていたような気がする。

そんな出会いや世代感が前提としてあるので、イエモン自体に関しては、どこかで「YOSHII LOVINSON」もとい「吉井和哉」という存在越しに見てきたフシがあるのだが、それでもこうして代表曲30曲を集めたベストアルバムを聴けば、大半の曲が肌に沁み付いた音楽のように感じるのだから、彼らの楽曲が時代を超えて持ち得てきた浸透力に改めて驚かされる。この30年間、不在のときであっても、THE YELLOW MONKEYという時空には変わらぬ艶やかな風が吹き続けていたことを感じる。

このベストアルバムは「百花繚乱の生命賛歌集」といった趣のアルバムである。ビジュアルの華やかさを見るにつけても、イエモンとは「夢」が具現化したようなロックバンドだと思うが、しかし、その音楽が向き合ってきたのは何も解決されないこの擦り切れた「現実」であり、その現実を懸命に生きる人々である。この、激しく明るく、激しく悲しく、激しくポップで、激しく欲望に満ちた音楽は、「あなたの人生は、あなただけのものなんだ」と強烈に訴えかけているように感じる。どの時代の曲も、今この瞬間に、そういうふうに響いている。少なくとも、私にはそう聞こえる。

このベストアルバムから1曲選ぶということで、私は「花吹雪」を選んだ。もっともらしい理由があるわけではないのだが、吉井和哉が歌う「君と死にたい」というフレーズが聞こえてきたときに、心臓をグッとつかまれるような痛ましくも幸福な感覚があったので、この曲を選択した。

黒田隆憲

おすすめの1曲:「JAM」

筆者は世代的にはメンバーとほぼ同年代だが、4人がデヴィッド・ボウイをはじめとする海外の音楽(主にUKロック)を聴いて音楽を始めたように、「THE YELLOW MONKEY」としてメジャーデビューを果たした1992年頃は、自分もどちらかといえば洋楽を中心に音楽を聴いていた。その後、ブレイクした彼らの「JAM」や「楽園」「球根」といったヒット曲を街中で耳にするようにはなったが、出会いのタイミングを失してしまったのもあってか、これまで熱心にTHE YELLOW MONKEYを聴いてこなかった。今回、こうしてまとまった形で彼らの楽曲をじっくり聴き込み、「なぜ今までちゃんと聴いてこなかったのだろう……」と後悔の念にさいなまれている。ボウイはもちろん、Led ZeppelinやDeep Purpleといったクラシックから、OasisやRadioheadなど当時最先端の音楽までくまなく聴き漁り、そのエッセンスを抽出したうえで、昭和歌謡や演歌にも通じるようなケレン味を加えてオリジナル曲に仕立て上げる吉井のコンポーザーとしての手腕(ちなみに吉井はソロ時代、藤圭子の「夢は夜ひらく」をライブでカバーしたこともある)、それを過剰なギミックで飾り立てることなく、どこかローファイともいえるような荒削りなアンサンブルで引き立てるバンドメンバーたちの確かな演奏力。古今東西の音楽を知れば知るほど楽しめるのが、THE YELLOW MONKEYの楽曲であることを今さらながら思い知らされた。

「30Years 30Hits」に収録されたどの曲も一度は聴いたことがあり、そのポップでキャッチーな楽曲に驚きつつ、元ネタ探しなどしながら楽しめること請け合いだが、個人的に好きなのは、1996年にリリースされた彼らにとって9枚目のシングルとなった「JAM」だ。言わずと知れた大ヒット曲だし、Mott the Hoopleの代表曲「すべての若き野郎ども(All the Young Dudes)」(作曲はデヴィッド・ボウイ)にインスパイアされたというエピソードも知ってはいたが、そうした洋楽のエッセンスのみならず、例えば沢田研二「おまえがパラダイス」など歌謡曲からの影響も伺え、そうしたコラージュ感覚、エディットセンスに改めて唸らされる。

そういえば筆者は一度だけTHE YELLOW MONKEYのライブを観たことがある。彼らにとって、実に19年ぶりとなるオリジナル・アルバム「9999」を引っさげて行われた全国ツアー「THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019 -GRATEFUL SPOONFUL-」のさいたまスーパーアリーナ公演だった。サポートメンバー鶴谷崇(Key)を加えた5人編成で、ほとんど同期の類いも使わずシンプルなセットでオーガニックなバンドアンサンブルを聴かせる彼らの姿に、ロックバンドとしての矜持を感じた。近いうちにまた彼らのライブを体験したい。

佐野郷子

おすすめの1曲:「球根」

2022年の今、「THE YELLOW MONKEYとはどういうバンドか?」と問われたら、まずは「30Years 30Hits」を聴いてもらうしかない。1992年にデビューし、90年代を圧倒的な熱量で疾走した彼らの代表曲をストリーミングで聴くという行為に隔世の感を抱きつつ、豪華フルコースの満足感に浸ることができるのだから。90年代は日本でCDが最も売れた10年だったが、その中でTHE YELLOW MONKEYがロックバンドとして異例の成功を収めることができた訳はこの30曲に確実にある。

日本のロックが70~80年代に地ならしされ、力を蓄えてきた時期にロック少年として育った世代である彼らが、機は熟したと言わんばかりに放った数々の曲は今なおロックの核となる魅力を伝えてくれる。ブリティッシュグラムロックをルーツとしながら、ともすればステレオタイプに陥りがちな表現を卓越した歌唱力と演奏力でエネルギッシュに更新。今振り返れば混沌としたシーンに、強力な爆弾をぶち込んだ破壊力さえ持ちあわせていたように思う。グラマラスで怪しい雰囲気を孕んだバンドはそれまでにも存在したが、THE YELLOW MONKEYが違ったのは、楽曲のロック的完成度の高さ。特に入念に細心につくられたシングル曲の強度は他の追随を許さぬものがある。1995年の「Love Communication」以降は、次々とチャートを席巻。当時は、「JAM」のようなメッセージ色の強いロックバラードをアンセムとして聴かせてしまう力技に驚いたが、初のチャート首位をマークしたのが「球根」というのも実に彼ららしい。ダークでヘビーなサウンドで生と死が交差する深い奥行きのある曲を歌い上げた「球根」を、シングルとして発表した英断も天晴れだが、そこに押しも押されもせぬ存在になってもブレない、日和らない、ロックスピリットを見たような気がした。ロックスピリットなんて、1998年でも十分古びていたと思うが、バンドの芯、根っこの部分にそれがあるかどうかは時間に淘汰されることなく響く曲の肝ではないかと私は思う。

「30Years 30Hits」のラストを飾るのは、19年ぶりのアルバム「9999」に収録された「Changes Far Away」。「過ぎてしまえば黄金時代はいつだったんだろう 今がそれだったりね」が、30周年を迎える今、誇らしく、頼もしく聞こえてくる。

真貝聡

おすすめの1曲:「悲しきASIAN BOY」

70年代のグラムロックバンドを彷彿とさせる出立ちで、ハードロック、昭和歌謡、サイケデリックを内包したサウンドを鳴らす彼らは、デビュー当時から異端な存在だった。現に吉井和哉も1998年の「ROCKIN'ON JAPAN 148号」で「デビューした頃とか、『掴みどころのないバンドだ』ってよく言われてたじゃないですか。だから『何て形容していいかわかんないでしょ』っていう」と話している。「単純明快でカッコいい」というロックバンドの定石とは違う感じはバンド名からも表れているし、「30Years 30Hits」を聴いて、やはり簡単には形容できないバンドだと再確認した。

イエモンが全国的に知られるようになったのは1995年。オリコンチャートで初めて1位を獲得した5thアルバム「FOUR SEASONS」に収録されている「太陽が燃えている」と「追憶のマーメイド」は歌謡ロック感が際立っており、楽曲全体に漂う哀愁とメロディアスさが抜群。その後1996年に発表した「JAM」は彼らの評価と人気を不動のものとし、いまだに多くのアーティストに影響を与えている。

「楽園」「花吹雪」を含む中期の最高到達点と言われた6thアルバム「SICKS」。「球根」「BURN」「LOVE LOVE SHOW」などが収録された7thアルバム「PUNCH DRUNKARD」は歌謡的な要素を抑え、純度の高いロックを表現している。1999年に発表した「バラ色の日々」「聖なる海とサンシャイン」は朝本浩文がプロデュースに参加したことで、タイトでポップネスのある楽曲へ昇華された。それから2004年に解散、2016年の再集結から3年ぶりに放たれた「ALRIGHT」は、あの頃の自分たちを追いかけるのではなく、現行にして最高のイエモンを表現した。……と、ここまで彼らの歴史を紹介したのは、今作がバンドの進化と成長を味わえるアルバムだからだ。

最後にオススメの1曲を挙げるのなら、1994年に発表した「悲しきASIAN BOY」を取り上げたい。言うならば “This is イエモン”と呼ぶべき重要なナンバー。吉井は言う。「イエロー・モンキーっていうのは、洋楽コンプレックスでこの名前を付けたっていうのもあったんですよね」。90年代中頃はまだ世間で「邦楽よりも洋楽の方が上」という認識があった。そんな中、生まれた「悲しきASIAN BOY」は洋楽に対する反逆の狼煙であり、「血のにじむような遊びはこれから」の一節は彼らがどんな覚悟を持ってロックを鳴らしていくかを示した開戦宣言。いわばイエローモンキー(黄色人種)のロックを変えるために作られた革命歌だ。

そんな音楽の歴史を塗り替えた、伝説のバンドの軌跡を味わってほしい。

高橋美穂

おすすめの1曲:「SUCK OF LIFE」

THE YELLOW MONKEYがデビュー30周年を迎えるということは、私が彼らを知ってからも30年が経つということだ。中学生の頃に、ラジオから流れてきた1stシングル「Romantist Taste」を聴いて、イントロのワクワクするビートに一瞬で引き込まれた。「夜は全てこの手の中」の無敵感。「君の好きな赤い花の / 雄蕊と雌蕊もキスを交し」のロマンティック感。どこもかしこも、13歳の感性を刺激した。

とは言え、その後の2ndシングル「アバンギャルドで行こうよ」では、早くも戸惑いが生まれた。表題曲の突き抜け感が、思春期真っただ中の自分には、どうにも馴染めなかったのだ。さらに、カップリングの「SUCK OF LIFE」には、禁断の扉を開ける感覚があった。それでも、泣き笑いのようなメロディには、訳もわからず惹き付けられた。扉の奥に、人間の滑稽さや愛おしさが秘められている楽曲だと思えたのは、年齢を重ねてからだ。

それから1、2年後、どちらの楽曲もライブで聴くことによって、しっくりくるようになった。「アバンギャルドで行こうよ」は、心身に解放をもたらしてくれたし、「SUCK OF LIFE」は、禁断の扉を開けることもロックの醍醐味であると教えてくれた。目の前でLOVINとEMMAが絡み合う場面には、なかなか慣れずに度肝を抜かれていたけれど。

そんな場面も含めて、彼らのライブは、振り返ってみると多様性のるつぼだったように思える。メイクばっちりのイケイケなお姉さんたちに、グラムロックとヴィジュアル系がごっちゃだった時代ならではのダークな女の子たち、そしてヘヴィメタが好きそうなお兄さんたち。そんな中で私は、まだ自分が定まらない14歳だった。いや、もしかしたら、私だけではなく、あそこにいた誰もが自分が定まっていなかったのかもしれない。それは、バンドも含めて。大袈裟な言い方かもしれないけれど、彼らのライブや音楽は、カテゴライズが当たり前だった時代に所在なさを感じていた人たちの居場所だったのではないだろうか。

彼らの表現そのものも、当初から多様性があった。だからこそ毎作ごとに激しい変化を伴ったし、早すぎたと言われた時期もあったのだと思う。私は、解散前の後期の楽曲なら「パール」が大好きだ。表現を模索し、さまざまな洋服を着こんできた彼らが、素っ裸になったように感じられたから。「30Years 30Hits」の30曲を聴いて、改めてそんな軌跡を思った。そして、復活後は素っ裸に感じられる楽曲が多いな、きっと解き放たれたのだな、ということも。

こうしてみると、彼らが運命を握っているのか、彼らが鏡なのか、世の中や音楽シーンと重なる動きが多かった30年だと思う。本物のロックスターは、そういう力を持っているのかもしれないな。彼らの音楽とともに歩めた奇跡に、心から感謝したい。

廿楽玲子

おすすめの1曲:「プライマル。」

「プライマル。」は好きじゃなかった。だってTHE YELLOW MONKEYは私の一番好きなバンドだったから。

この曲がリリースされたのは2001年1月31日。彼らが初のドーム公演を開催したあとだった。活動休止前最後のライブとなるドーム公演は行く前も行ったあとも胸がザワザワした。本当はこれが最後なんじゃないかと不安でいっぱいだった。「プライマル。」のあっけらかんと明るいサウンドは、終演のテーマみたいに聞こえて好きじゃなかった。

でも曲としては大好きだった。トニー・ヴィスコンティをプロデュースに迎えて原点に立ち返ったサウンドは彼ららしく華やかで、深刻な状況を「卒業おめでとう ブラブラブラ…」とユーモアでかわす歌詞も彼ららしかった。休止前最後のアルバム「8」が重々しいムードに満ちていたから、本来なら「やっと、らしさを取り戻したね!」と喜べるはずだった。でも終わりの空気をひしひしと感じる中で聴く「プライマル。」はあまりに切なかったし、2004年7月7日によそよそしい文章で解散が告げられたときには自分の中でそっと封印をした。一番好きなバンドがこんな終わり方をするなんて、心に蓋をしなきゃやってられなかった。

そして時は過ぎて2016年、突然の再結成。それを知った時の胸のうちを言葉にすると、混乱80、怒り20。こっちはさ、10年以上かけてどうにか気持ちを整理してきたんだよ。それを今さら揺り動かす気?……と思った。こんがらがった気持ちのままで迎えた再結成ライブの日、一発目に演奏されたのが「プライマル。」。ガチガチの緊張の中、バキバキにかたい演奏で鳴らされた「プライマル。」が、そうだよ、揺り動かしにきたんだよと言っていた。ちくしょう、と思って悔しくて悔しくて、やっぱり結局感動して泣いた。何より、すっかり大人になった自分が昔のまんま胸を焦がすような気持ちを持っていることに驚いた。

今「プライマル。」を聴くと、悲しい目で心に蓋をしようとする自分と、封印を解かれて面食らっている自分を同時に思い出す。十数年かけて一生懸命封印したものを数秒で解かれるなんて、ほんと笑っちゃう。でもバンドの音楽を心から好きになるってこういうこと。それを教えてくれたのがTHE YELLOW MONKEYだった。

西廣智一

おすすめの1曲:「天道虫」

1992年のメジャーデビューから30年にわたるTHE YELLOW MONKEYの歴史を、たった30曲で語るのは非常に難しい。特に初期から彼らを応援してきた筆者のような人間にとっては、なおさらだ。そんな無理難題に果敢に挑んだ今回の“サブスクリプションベストアルバム”、2000年代以降に発表されたベストアルバムとは大きな違いが生じている。それは、再集結後の楽曲たちの存在だ。今回の30曲には「ALRIGHT」を筆頭に、2016年以降に発表された楽曲群から8曲と、比較的多く選出されており、そのどれもが2016年以降のライブを鮮やかに、艶やかに彩り、THE YELLOW MONKEYに対する印象を「1990年代に頂点を極めた伝説のバンド」という括りから「現在進行形で成長し続ける現役ロックバンド」へと変えてくれた重要なポジションを担うものなのだ。

復活の狼煙を高らかに上げる「ALRIGHT」や、往年の歌謡曲からの影響を現代的に昇華させた「砂の塔」、1970年代のクラシックロックをTHE YELLOW MONKEY流に解釈し21世紀によみがえらせた「Changes Far Away」や「DANDAN」など、そのどれもが過去の名曲群を踏襲しつつ、メンバー全員が50代に突入した今だからこそ表現できる手法が施されている。かつ海外のロックトレンドも絶妙に反映されており、改めてこの再集結が単なるノスタルジーの下に実現したものではないことが窺える。

そんな中、個人的にイチオシしたいのが、「ALRIGHT」同様に現在の彼らのライブに欠かせない1曲「天道虫」。この曲もオールドスクールなクラシックロックを、THE YELLOW MONKEY流にモダンな質感で再構築したものだが、菊地英昭が繰り出すギターリフと廣瀬洋一&菊地英二が叩き出すタイトなリズムでグイグイ引っ張る演奏と、エロさと危うさが入り混じった吉井和哉のボーカルが織りなす奇跡のアンサンブルは、20~30代の彼らには表現できなかったものではないだろうか。キラーチューンとはまさにこの曲のために存在する言葉ではないだろうか。

そういった点を踏まえても、本作は単なる30年の総決算ではない。今を生きる現在進行形のロックバンドによる、次のステップへ進むためのマイルストーンにほかならないのだから。次のアクションを待つ間、この30曲をじっくり、たっぷりと体内に取り込んでもらいたい。

2022年4月9日更新