音楽ナタリー Power Push - the pillows 山中さわお×上田健司 対談

バンドの歴史が交差する20thアルバムとそのドラマ

The Stone Rosesからいろんなものをもらった

──山中さんと出会った当時、上田さんはどんなところに魅力を感じていたんですか?

上田 とにかく伝えたいメッセージが身体から出てるというか、「やらずにはいられない」という感じだったんだよね。最初に会ったのって、高校2年生のとき?

山中 3年ですね。

左から山中さわお、上田健司。

上田 そうか。初めて見たのはTHE COINLOCKER BABYS(山中の札幌時代のバンド)だったんだけど、「パントマイム」「RAZORLIKE BLUE」「STAND UP AND GO」(すべてthe pillowsの1stミニアルバム「パントマイム」に収録)もすでにやっていて。すごいなって思ったよ。

──それから四半世紀が経過しているわけですが、当時と現在の山中さんを比べてみて、変わったところはあると思いますか?

上田 ほとんど変わらないんじゃないかな。

山中 本人はね、ほとんど変わったと思ってるんだけど。

上田 the pillowsは時期によって音楽性の変化があるけど、今は初期の方向性に近いような気がするな。歌詞の内容とかではなくて、ムードが。今回のアルバムもすごくシンプルだし。

──そうですね。「エリオットの悲劇」もそうですが、1980年代後半のテイストを持つ楽曲をもう1度やってみたいという気持ちもあるんですか?

山中 うん、あるね。今回のアルバムにそれが色濃く出ているわけではないけど、去年、The Stone Rosesのドキュメンタリー映画(「ザ・ストーン・ローゼズ:メイド・オブ・ストーン」)のDVDを真鍋くんに借りて観て、マンチェスタームーブメントの火が付いちゃったんだよね。どっぷりそっちに寄ってみたいとも思ったんだよ。例えばアルバムのタイトルが「I Like The Stone Roses」でもいいくらいの。でも、ライブを考えると過去曲とのマッチングが難しいなと思って。CDを作るのは楽しいだろうけど、ライブで(The Stone Rosesのボーカリスト、イアン・ブラウンのように)囁くように歌うのは楽しくなさそうだしね。ライブではワーワー大きい声を出したいからさ。

左から山中さわお、上田健司。

上田 俺は去年、The Stone Rosesのコピーバンドを結成したんだよ。俺と弥吉淳二(G)と元PEALOUTの高橋浩司(Dr)と。で、ボーカルは高畠俊太郎。

山中 え、マジですか。

上田 ガンガン練習してたんだけど、あまりにも難しくて心が折れてるんだよ(笑)。あのグルーヴを出すのがものすごく難しくて。でも、改めて全曲聴き直してみて「このバンドから本当にいろんなものをもらったな」って思ったな。

山中 the pillowsを結成したとき、唯一4人とも大好きだったバンドがThe Stone Rosesなんだよね。

みんなが思うほどドラマチックじゃない

──こうやって話していても、興味深いエピソードがどんどん出てきますね。このタイミングで上田さんがthe pillowsのレコーディングに参加したことは、とても意義深いと思います。

山中 うん、いろいろよかったよ。感傷的すぎないというか、レコーディングが終わったときも「上田さん、飲みに行きますか?」って言ったら「車だから帰る」って(笑)。みんなが思うほどドラマチックじゃないんだよね。

──「第1期the pillowsのメンバーだった上田健司が24年ぶりにレコーディングに参加」となると、ファンはどうしてもドラマを感じてしまいますけどね。

上田 それを感じてもらうのは全然いいんだけどね。ナタリーの記事を見たときも、それは思ったかな(参照:the pillows新アルバムに上田健司、JIROら5人の強力ベーシスト)。JIROくんよりも、俺の名前が先になってるっていう。Yahoo!のトップニュースにも出てたんだけど、ちょうどゆずのツアー中(上田はゆずの全国ツアー「YUZU ARENA TOUR -episode zero-」にベーシストとして参加した)で、北川悠仁くんが「上田さん、名前が出てます!」ってめちゃくちゃアガってた(笑)。まあ、珍しいからね。オリジナルメンバーがこういう形で参加するのは。あとは有江(嘉典 / VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)が全部コピーして、ちゃんとライブで演ってくれれば。厳しい耳で聴きに行こうと思います。

山中 なんでネットを通じて厳しい言葉を突きつけようとするんですか(笑)。

──(笑)。さっきのシンイチロウさんの話もそうですけど、確かに上田さんは厳しいイメージがありますね。

上田 いや、俺は普通だと思うよ。努力しない人には厳しく言うし、パンを投げたりするけどね。

山中 厳しさの伝え方がちょっとワイルドですね(笑)。

上田 でも、いい音楽とかいい演奏をつかむには、ある程度必死でやらないと。ほかの人よりも必死でやったという証が1つでもないと、ミュージシャンはダメな気がしてるんだよね。それがなくなったら、俺もここにはいないと思うし。先輩のバンドをプロデュースするときも、そのことはちゃんと伝えるんですよ。あとはさっきの山中の話と同じで、いろんな音楽に影響を受けて「こんな感じでやってみたい」と思うのも原動力になってるかな。

左から山中さわお、上田健司。

──山中さんは必死でやっているというよりも、単純に音楽が好きで、まったく飽きてないんだろうなという印象なのですが。

山中 そうだね。本人の意識としては、必死で努力しているという感じではないので。言ってることは上田さんと一緒だと思うけど、自分が残したものに自分が納得したいんだよね。新しいアルバムができあがったときに「世界に大好きなアルバムが1枚増えた」と思えるのが大事だから。

the pillows ニューアルバム「STROLL AND ROLL」 / 2016年4月6日発売 / DELICIOUS LABEL
ニューアルバム「STROLL AND ROLL」
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / QECD-90001(BUMP-052)
通常盤 [CD] 3240円 / QECD-10001(BUMP-053)
CD収録曲
  1. デブリ
  2. カッコーの巣の下で
  3. I RIOT
  4. ロックンロールと太陽
  5. Subtropical Fantasy
  6. エリオットの悲劇
  7. ブラゴダルノスト
  8. レディオテレグラフィー
  9. Stroll and roll
  10. Locomotion, more! more!
初回限定盤DVD

MUSIC VIDEO

  1. カッコーの巣の下で
  2. デブリ
  3. Locomotion, more! more!
the pillows(ピロウズ)
the pillows

山中さわお(Vo, G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)の3人からなるロックバンド。1989年に結成され、当初は上田健司(B)を含む4人編成で活動していた。1991年にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビュー。結成20周年を迎えた2009年9月には初の東京・日本武道館公演を行い、大成功に収めた。2012年にはバンドを一時休止し、山中と真鍋はそれぞれソロアルバムを発表。2013年の再始動後は再び精力的な活動を展開し、2014年2月には結成25周年を記念したトリビュートアルバム「ROCK AND SYMPATHY -tribute to the pillows-」、同年10月にはオリジナルアルバム「ムーンダスト」が発売された。2016年4月には、オリジナルメンバーの上田をはじめ、JIRO(GLAY)、宮川トモユキ(髭)、鹿島達也、有江嘉典(VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)という5人のベーシストをゲストプレイヤーに迎えた通算20枚目のオリジナルアルバム「STROLL AND ROLL」をリリース。5月からは全国26会場を回るライブツアー「STROLL AND ROLL TOUR」を行う。

上田健司(ウエダケンジ)

1965年8月30日生まれ、北海道札幌市出身の音楽プロデューサー。1987年にKENZI & THE TRIPSのベーシストとしてシングル「DIANA」およびアルバム「FROM RABBIT HOUSE」でメジャーデビューを果たす。1989年にバンドが解散すると、同郷の札幌で活動していた山中さわお(Vo)、真鍋吉明(G)、KENZI & THE TRIPSでともに活動していた佐藤シンイチロウ(Dr)とともにthe pillowsを結成。1991年5月にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビューした。この頃からプロデュース活動も並行して行い、1993年にthe pillowsを脱退したあとはサポートベーシストとして活動しながら、加藤いづみ、カーネーション、GOING UNDER GROUND、堂本剛(KinKi Kids)、長渕剛、PUFFY、渡瀬マキ(LINDBERG)、小泉今日子、Drop's、爆弾ジョニーほかさまざまなアーティストの編曲やプロデュースを手がける。2008年には故郷札幌にスタジオ「john st!」(現Musik Studio)を開設。2010年にはアーティストマネジメントや新人発掘、音楽出版、コンサート企画制作などを広く行う株式会社カムイレコードを設立した。