ナタリー PowerPush - the pillows
理想の先に抱える矛盾 山中さわおの憂鬱
流行りの歌 流行の行動 流行の信念
──ではアルバム楽曲について少し細かくお訊きしたいのですが、先程もお話に出た「Minority Whisper」は……。
……したくねえなあ、その話(笑)。
──あはは(笑)。最近はやっぱりどのアーティストと話をしても、こっちも「もう聞くのはつらいなあ」と思うぐらい、シリアスな話が入ってきちゃうんですよ。こちらからシリアス寄りに話を振るのは避けているんですが、この曲の「Trendy song, trendy action, and trendy faith.(流行りの歌 流行の行動 流行の信念)」というフレーズがどうしても気になって。ちなみに、山中さんはあまりインターネットに興味がないとは思うのですが……。
うん、持ってないからね俺。コンピュータを(笑)。
──コンピュータ(笑)。何か大きい出来事があったとき、Twitterなどを通して「これが正解である」みたいな意見が広がって、疑う余地もなくみんなの共通認識としてできあがっていくことがあるんですよ。それがちょっと冷静さを欠いたような意見だったりもして。まさに「流行りの信念」と呼べるものができあがっていくときに、どこか気持ち悪さを感じてしまうんです。そういった風潮についての曲なのかなと僕は勝手に解釈しました。山中さんは自分のメッセージを言葉としてではなく、曲として提示しているわけだから、ここであえて具体的に話してもらうのは違うのかなと思いつつ。
まあ恐ろしいからね。すごく慎重に時間をかけてしゃべらないと真意が伝わらないなっていう恐怖があって、それはなぜかと言うと、理解力が低すぎる人間が多いから。理解力の低い人間に合わせて話をするのは難しいし、どこまでさかのぼって話していいかわからないし。
──きっと取材を受けると、嫌でもしゃべらなきゃいけないから大変ですよね。
だってほら、10曲のうち1曲だけなんだよ? そんなこと歌ったのは。ちゃんとこの曲の話をすると長いんだよ本当に。だから諦めてるんだろうね。ほとんどの人にはわからないよってもう諦めてるから、説明をするのが面倒くさいんだと思う。そして、伝わる人には聴いてすぐ伝わる話だから、伝わらない人に説明をするのは難しくて。
──この曲に限らず、伝わる / 伝わらないという問題は、きっと作品を発表する上で常にありますよね。
しかもややこしいのは、全部を否定してる気は全くないってこと。発言する人とか行動する人、それを受け止める人のそれまでの人間性を知ってたりするとさ、違和感も矛盾もない人もいれば、すごく違う目的を感じてしまう人もいて。被災地でやるイベントでも、有意義なものもあれば、本当に何目的でやってるんだという恐ろしい話もいくつか聞いたし。
──それを同一線上で語ることはできないですよね。でも「別の話だ」って説明から必要になるという。
Twitterとかをどのくらいの年齢の人がやってるのかわからないけど、対等な立場で議論をしてる人に直接会ったら「おい中学生かよ!」みたいなさ(笑)、そういうこともあり得るわけでしょ。だからそこに労力を使う必要はないと思うけど、歌詞に関しては意識してコントロールするようになったらおしまいだなと思ってるんで、スッと思ったことはスッと歌うしかないっていう。ただ昔と違って、嫌われるのは怖いなとは思いますけどね。作ってる最中はそんなこと考えなくて、あとから「知らないところで知らない人に嫌われるのはめんどくさいな」って思うけど、まあそれはしょうがないよね。
「トライアル」ができたときに「タイトル曲ができた」と直感的に思った
──ほかの曲でも、例えば「Flashback Story」では、スラップスティック映画のようなコミカルな表現ながら、輪廻転生したところで結局は堂々巡りというか、具体的なゴールのない、ある意味絶望的な話が描かれているように聴こえて。それが山中さんの今の気分なのかなと。
うん、そうですね。完全に。
──全体にそういったマイナスのエネルギーがあふれたアルバムだなと思ったんですが、クライマックスと言える8曲目の「持ち主のないギター」のあと、最終的に表題曲でもある「トライアル」と、ラストの「Ready Steady Go!」でスカッとした気持ちになるんです。ちなみに、この「トライアル」をアルバムのタイトル曲にしたのはなぜですか?
僕はそういうの全然迷わないから、よくわからないんですよ。「トライアル」という曲ができたときに「タイトル曲ができた」と直感的に思っただけ。
──アルバム全体のイメージを考えて、ということではなく?
全然ないです。前作は珍しくめっちゃ悩んだんですよ。いろんなの考えたけどどれもピンとこなくて、すごく時間をかけてようやく「HORN AGAIN」っていう言葉を思いついた。タイトルってその言葉の持つエネルギーだけではなく、ある意味広告的なことも含めてキャッチーにスッと届くかどうか、もしくはものすごくアンキャッチーという意味でインパクトがあるかとか、そういう面も重要で。タイトル曲がある場合はその楽曲自体が代表曲にするに値するクオリティなのかっていう問題もある。そこはかなり第三者的な目線で見ているかもしれないです。Tシャツがずらーっと並んでる中から、迷わず一番気に入ったの見つけるような感じというか。パッと手に取って、これが一番カッコいいしサイズもジャスト、ってすぐわかるみたいな。
酔っぱらってブツブツ言ってるおっさんみたいなもんですよ
──「トライアル」ができたのは、曲作り期間のうちどのあたりのタイミングですか?
後半ですね。「持ち主のないギター」は結構前半にあったんだけど、「トライアル」はメロディができた後もしばらく歌詞が浮かばなくて。「最果ての星に紛れた」まではすぐスッと出たんです。僕はメロディとリズムに気持ちいい言葉をすごく信用していて、「最果ての星に紛れた」は絶対採用したいんだけど、何が紛れたのか全く思いつかなかった。いろんな言葉をはめていったけどピンと来なくて、全く進まなかったんですね。あるとき「持ち主のないギター」の絶望的な世界で誰かが捨てたであろうギターと、主人公の「僕」が道端で出会った。その道端にギターを捨てたのは「僕」で、それはギターの形をした音楽への情熱みたいなもの。その「最果ての星に紛れた」ものをもう一度取り戻すんだ、というストーリーが見えたら、すぐに物語が進んで歌詞が一気に書けた。
──なるほど。元から先を見据えて作られたわけではなかったんですね。
歌詞には自分の気持ちを反映させながら作ってるから、これで絶望的に終わらず、また少し元気になれて良かったなと。この曲で終わろう、と思っていたらその後に「Ready Steady Go!」ができて、いや、こっちが最後のほうがいいわっていう。バカみたいな曲だけど、歌詞にはバカみたいな中に今の本音とシリアスな面も混ぜて。「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」という映画が僕は大好きで、それは架空のロックバンドの物語なんだけど、「もし架空のB級ロックバンドが芝居じみたパンクロックをやるとこんな感じだろうな」っていうイメージをして作ったのが「Ready Steady Go!」。
──「持ち主のないギター」はこれまでのピロウズの楽曲の中でも格段にヘビーな曲だと思うんですけど、シリアスな物事と向き合いながらも、最後にこの2曲で締めくくるのがこのバンドの力強さだよなと感じました。
僕らは特に難しいことは考えていないし、音楽のやり方としては限りなく無邪気なバンドだと思う。好きな音楽が世の中にいっぱいあって、聴けばすぐに影響を受けて「この曲カッコいいな」「自分もこういうビートの曲作ってみたいな」と思うし、それで自分を納得させるクオリティの曲ができたら歌詞が乗る、っていうシンプルなもので。あとの2人はただそれを受け入れるだけなので、バンドとしての意見なんて考えてないんじゃない? 僕らとしては「このアルバム大好きなんだけど、君は好きかい?」っていう、それだけかな。
──メンバー同士で「バンドをこういうふうにしていこう」という話もしないんですね。
ないない。メンバーとは極力口をきかないようにしてるから(笑)。オーディオ的なことなんかはしなきゃならないから言うけど。
──その関係性も面白いですね。
バンドについて哲学的なことを言われると「こんなのただの音楽だよ、ただのロックだよ」って思うし、「ただの音楽だろ」って入り口で来られると「ナメんなよこの野郎!」って思う(笑)。要するに僕は自分を喜ばすことしか興味がないので、世の中的にどうのこうのっていうのはあるようでないというか。要するに、酔っぱらってブツブツ言ってるおっさんみたいなもんですよ。酔っぱらってブツブツ言ってるおっさんが何を言ってるか聴きたい人が意外といるなっていう(笑)。
──心がいい状態じゃなかったというアルバム制作前と比べて、今はどうですか?
アルバムの完成図が想像できた時点で、メキメキ元気になってきたんですよ。結局自分の気分を変えるのは自分の音楽しかないというか、それによって気分を正しいほうに導いて生きていくしかないんだなとは再確認したかな。アルバムが発売される前にこんなこと言うのもあれだけど、また次も作んなきゃなって思ってるよ(笑)。とにかく今夢中になれるものを。
CD収録曲
- Revival
- Rescue
- Comic Sonic
- Flashback Story
- エネルギヤ
- ポラリスの輝き 拾わなかった夢現
- Minority Whisper
- 持ち主のないギター
- トライアル
- Ready Steady Go!
DVD収録内容
- トライアル [Music Video]
the pillows(ぴろうず)
山中さわお(Vo, G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)の3人からなるロックバンド。1989年に結成され、当初は上田ケンジ(B)を含む4人編成で活動していた。1991年にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビュー。初期はポップでソウルフルなサウンドで好評を博すが、上田脱退後の1994年以降は徐々にオルタナ色を取り入れたサウンドへと変化していく。一時は低迷するが、精力的なライブ活動を続ける中で固定ファンを獲得。2005年には結成15周年を記念して、ELLEGARDEN、BUMP OF CHICKEN、ストレイテナー、Mr.Childrenなどが参加したトリビュート盤を制作。the pillowsの存在を知らなかった若年層にもアピールすることに成功する。また、2005年にはアメリカ、2006年にはアメリカ/メキシコでツアーを敢行。海外での人気と知名度も獲得する。結成20周年を迎えた2009年9月には初の日本武道館公演を行い、大成功を収めた。キャリアを重ねるごとに勢いと力強さを増し、今や日本のロックシーンには欠かせないバンドとしてリスペクトされている。2012年1月18日に通算18枚目のオリジナルアルバム「トライアル」をリリース。