THE ORAL CIGARETTES|新章に突入したTHE ORAL CIGARETTESが向かう未来は? バイオグラフィ&アーティスト7組の証言で探る

THE ORAL CIGARETTESがデビュー5周年を記念して、初のベストアルバム「Before It's Too Late」を8月28日にリリースした。

2枚組仕様の本作にはメンバーセレクトによる全39曲を収録。シングル表題曲を中心としたDISC 1と、THE ORAL CIGARETTESのディープな一面を凝縮したDISC 2という構成だ。

バンドの節目に発表されるベスト盤にあわせて音楽ナタリーではTHE ORAL CIGARETTESの特集を企画。黎明期から現在までのエポックメイキングな出来事をビジュアルを交えて紹介するバイオグラフィと、HYDE、TERU(GLAY)、MAH(SiM)、SKY-HI、クリープハイプ、GEN(04 Limited Sazabys)、田邊駿一(BLUE ENCOUNT)といった彼らと関わりの深いアーティスト7組によるコメントを通してTHE ORAL CIGARETTESというバンドの魅力を紐解いていく。

文 / 秦理絵(P1)

BIOGRAPHY of THE ORAL CIGARETTES

2012年~2013「MASH FIGHT! vol.1」グランプリ受賞~メジャーデビュー前夜

ミニアルバム「オレンジの抜け殻、私が生きたアイの証」ジャケット

ロックシーンでTHE ORAL CIGARETTES(以下、オーラル)が初めて注目を集めるきっかけになったのは、2012年に新人オーディション「MASH FIGHT!」で初代グランプリを獲得したことだった。音楽雑誌「MUSICA」、ONE OK ROCKなどが在籍するA-Sketch、音楽専門チャンネル・スペースシャワーTV、サカナクションなどが在籍するHIP LAND MUSICが4社共同で立ち上げたこのオーディションは、のちにフレデリックをはじめ、LAMP IN TERREN、パノラマパナマタウン、Saucy Dogなど多くの人気バンドを輩出していくが、当時の注目度は今ほど高くはなかった。そんな中、山中が体を壊し、入院した事を切っ掛けに、いくつかの新人オーディションに応募していた彼らは、MASH A&Rオーディションにも応募。そのオーディションでグランプリを獲得したことが、バンドの未来を大きく変えることになる。

「MASH FIGHT! vol.1」出演時のTHE ORAL CIGARETTES。

「MASH FIGHT!」でグランプリを獲得したとき、山中、鈴木重伸(G)、あきらかにあきら(B)は現役大学生で21歳。中西雅哉(Dr)は正式にはバンドに加入しておらず、サポートメンバーとして出場していた。当時のオーラルは、すでに積極的に全国ツアーを行ない、関西のサーキットイベント「MINAMI WHEEL」に出演するなど、地元のインディーシーンでは名前が広がり始めた存在だった。そして、グランプリ獲得後、中西が正式加入すると、地元関西で基盤を固めたいという思いから、1年間は地元で活動しつつ、初の全国流通盤となるミニアルバム「オレンジの抜け殻、私が生きたアイの証」をリリースした(参照:THE ORAL CIGARETTES初全国盤詳細明らかに&特番配信)。以降、オーラルは初ワンマンを奈良NEVER LANDで開催するほか、2016年の初のホールワンマンをなら100年会館で開催。さらに2018年の大阪城ホールでワンマンライブを行うなど、バンドにとって大切な節目には必ず地元関西に凱旋している。

2014年~2015メジャーデビュー期の葛藤とBKW精神

2014年に全員で上京し、同居生活をスタートさせたオーラルは7月16日にメジャーデビューシングル「起死回生ストーリー」をリリースした。ロックバンドとしての衝動に満ちた勢いのあるサウンドとトリッキーな楽曲の展開、さらにキャッチーなサビが突き抜けるオーラルの真骨頂とも言える楽曲は「革命と逆襲」がテーマだった。当時、KANA-BOONやキュウソネコカミなど、関西出身の同世代バンドが次々に全国区へと躍進していた状況もあり、バンドの中に溜まっていたフラストレーションが色濃くにじんでいる。11月には1stアルバム「The BKW Show!!」を発表。ライブで爆発的なパワーを発揮する「大魔王参上」や、負の感情を叩き付けた「嫌い」など、毒と色気を湛えた変幻自在のギターロックはすでに圧倒的なオリジナリティが確立されていた。アルバムのタイトルに掲げられた「BKW」とは「番狂わせ」の略語で、下克上を宣言しながらシーンを登り詰めてゆくオーラルのテーマ、コンセプトである。

「The BKW Show!!」に続く作品として翌年シングルとして発表されたバラード曲「エイミー」は、山中が初めて書いたラブソングだったが、いわゆる四つ打ちの“踊れるロック”が席巻していたシーンの状況もあり、当時のインタビューで山中は時折、ちゃんと音楽や歌詞を聴いてもらえていないのではという苛立ちを明かしていた。だが、そんなバンドの葛藤とは裏腹に、この時期のワンマンや対バンツアーは軒並みソールドアウト。“キラーチューン祭り”と称して、アッパーなライブアンセムを連発するという独特の演出も相まって、ライブバンドとしての人気を着実に獲得しつつあった。

20157月~20161山中拓也の喉の不調からの復活とリベンジ

2015年はオーラルの歴史を語るうえで大きなターニングポイントを迎えた年である。6月から開催していた「唇ワンマン JAPAN TOUR 2015~おまたせBKW!!9カ所行脚でエリア拡大、改めまして『ジ』オーラルシガレッツです!の巻~」のセミファイナルとなったZepp DiverCity TOKYO公演の途中で、山中の声が出なくなり30分にわたりライブが中断。彼らは当初予定していたセットリストを大幅に短縮して辛うじてライブを終えた(参照:THE ORAL CIGARETTES、ファンに支えられ完走したDiverCity公演)。3日後のなんばHatchでのツアーファイナルと、すでに出演が決まっていた夏フェスは喉の好不調の波はありながら「今の喉の声」を届けるためにキャンセルせず出演。8月下旬に出演した「SWEET LOVE SHOWER」で喉のポリープ摘出手術のため夏フェス以降のライブ活動を一時休止することを発表した。もともと山中は2014年末頃から喉に違和感を抱えていたが、「リスナーが自分たちのことを待ってくれているという自信がなかったから、発表するのが怖かった」と当時の心境を振り返っている。そして、年明けに復活リベンジライブ「唇リベンジワンマン ~復活・返上・BKW!! の巻~」を開催。この一連の出来事は予期せぬ事態ではあったが、その悔しさを包み隠さずに語るメンバーの姿と、バンドが逆境から立ち上がるドキュメンタリーが、リスナーとの絆を深める1つの契機になった(参照:THE ORAL CIGARETTES、DiverCityリベンジ達成で“攻めの2016年”幕開け)。

リベンジライブの翌日、会場限定シングル「カンタンナコト」や「狂乱 Hey Kids!!」を収録した2ndアルバム「FIXION」が2016年1月に発表された。貪欲に新たなチャレンジに取り組みながらも、今作は「エイミー」での葛藤を払拭するように、ロックバンドとしての強靭さを突き詰めた骨太でソリッドな1枚になった。これまで以上にライブを意識した楽曲が収録曲に多く、フェスシーンに勝つバンドとしての意思があるように思う。なお、今作は初めてオリコン週間ランキングTOP10入りを果たす。

2016年~2017アルバム「UNOFFICIAL」~初の日本武道館ワンマン

ライブハウスシーンで頭1つ飛びぬけた存在になったオーラルは、ホール、アリーナへと視野を広げ始めた。2016年にその足がかりとして、地元・奈良のなら100年会館にて初のホールワンマン「THE ORAL CIGARETTES 唇ワンマンライブ~故郷に錦を飾りまSHOW!!~」を開催。当時の手応えを、山中は「ライブハウスとは違う温かい色が見えて、オーラルでこんな空間が作れるのは発見だった」というような趣旨で語っている。

音楽的には、2016年に発表した「DIP-BAP」で90年代ヒップホップのエッセンスが大胆に導入された。正攻法のギターロックだけではなく、ブラックミュージックも取り入れたサウンドが新たな武器に加わると同時に、歌詞にも変化が現れる。「自分の心で好きなものを見極めてほしい」というメッセージを込めた「DIP-BAP」や、初めて山中が自分の弱さと音楽や活動に対する表明を歌詞に落とし込んだ「5150」など、山中がソングライターとして剥き出しの言葉をつづり始めたことで、オーラルは強いメッセージを放つバンドへと進化した。かつて「リスナーへの信頼関係が築けていなかった」と語った彼らだったが、言葉を尽くし、伝えることをあきらめないことでバンドの支持者を増やしていった。

アルバム「UNOFFICIAL」通常盤ジャケット

同年2月、3rdアルバム「UNOFFICIAL」をリリース。前述の「DIP-BAP」や「5150」、ピースフルな景色が広がる「LOVE」など1曲1曲がまったく異なる世界観を持つアルバムは、6月に控えた初の日本武道館でのワンマンライブを見据えた1枚でもあった(参照:THE ORAL CIGARETTES、新たな一歩踏み出した初の武道館ライブ)。その武道館公演を即日ソールドアウトして大成功させると、初の両A面シングル「トナリアウ / ONE'S AGAIN」を発表。バンドの決意が込められたナンバーは、武道館という1つの到達点に立った時期だからこそ生まれたものだった。なお、この年、オーラルは「ミュージックステーション」に初出演。韓国のフェス「仁川ペンタポート・ロック・フェスティバル」にも招聘されるなど活躍の場を広げていく。

2017年後半「ReI project」と初の大阪城ホールワンマン

2017年、初めて映画主題歌(「亜人」)に書き下ろした8thシングル「BLACK MEMORY」がオリコン週間シングルランキングで初の週間TOP3入りを果たした。異形主人公モノのダークファンタジー「亜人」や「東京喰種」の映画化が続いたこともあり、ダークな世界観を好む山中は当時のインタビューなどで「俺らが信じてたものは間違ってなかったっていう答え合わせが、音楽以外のジャンルでもできた感覚があった」と幸福なコラボが実現した喜びを語っている。

その流れを汲んで開催された全国ツアー「Diver In the BLACK Tour」は、誰の心の中にもある闇を肯定することがテーマに掲げられた。そして、オーラルはそのツアー中に「ReI」を初披露。この曲は、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県の南相馬を訪れたことがきっかけで制作され、人々は避けられない“天変地異”にどう向き合うべきか、というメッセージが込められている。2018年、初の大阪城ホールのワンマンライブでこの曲を披露すると、専用サイトにて無償リリースすることを発表。賛否が起こることも覚悟のうえで、ミュージシャンとしてオーラルがビジネスを超えた音楽の存在意義を提示した意味は大きかった。

2018「Kisses and Kills」を機に始まったトータルで表現を追求するスタンス

名実共にアリーナバンドへと成長を遂げながらも、オーラルのBKW精神が満たされることはなかった。2018年に発表された「Kisses and Kills」では、オーラルの野心はクリエイティブな欲求を追求する方向へとシフトしていく。「容姿端麗な嘘」「What you want」「Ladies and Gentlemen」といったエレクトロやヒップホップ、R&Bなど現行の海外ポップシーンのトレンドも取り入れた今作は、遂にオリコン初登場1位を獲得した。人間の感情に向き合った作品のテーマに沿う形で、アルバムを携えた全国ツアー「Kisses and Kills」では愛と憎しみに分けた2部構成のセットリストを展開。初めて東名阪福アリーナ会場を回ったファイナルシリーズでは、会場に人工知能をモチーフにした「KK CUBE」を演出に用い、アルバムのコンセプトをライブで、より問いかける形の世界観を作り上げた(参照:THE ORAL CIGARETTES、観客と感情ぶつけ合った初の横浜アリーナ公演)。1枚のアルバムを基軸にして、オーラルが多面的なアプローチを展開できるのは、その作品に幾層もの思想とアイデアを練り込み、さまざまなカルチャーへのオマージュを内包しているからだ。

2019年前半「ワガママで誤魔化さないで」以降のビジュアル変遷

華やかなホーンアレンジを取り入れた2019年の最新シングル「ワガママで誤魔化さないで」では、ミュージックビデオで山中がダンスに挑戦(参照:THE ORAL CIGARETTES、アニメ「revisions リヴィジョンズ」OP曲MVにダンスシーンも)。カップリングの「Color Tokyo」では気鋭の若手クリエイター・神崎峰人(BUDDHA.INC)とコラボするなど、次々に新たなチャレンジを展開した。同時にアーティスト写真もスタイリッシュな路線へと舵を切り、この頃から「新しいカルチャーを作りたい」というメンバーの発言が目立つようになる。

一方、9月に大阪・泉大津フェニックスで開催する初の野外主催イベントでは、単独公演の「DAY1 ONE MAN SHOW」、これまでのオーラルを語るには外すことのできない、SiM、04 Limited Sazabys、BLUE ENCOUNT、Age Factory、SKY-HI、アルカラ、クリープハイプの7組を招く「DAY2 OMNIBUS SHOW」を開催。両日共にこれからのオーラルを提示する様なライブイベントになることは間違いなさそうだ。

今のオーラルは、これまで掲げてきたポリシーを守りつつ、チャレンジ精神に満ちた実験を行い、新しいフェーズへと突き進んでいる。トレンドを敏感に感じながらも、時代の一歩先を読み、ロックバンドの既成概念を塗り替えてゆくTHE ORAL CIGARETTES。この先、彼らは今まで誰も見たことのない、新しいロックバンド像を生み出しいくだろう。