ナタリー PowerPush - The Flickers
バンドの情熱とれたてパック「Fl!ck EP」舞台裏を解説
The Flickersが4曲入りの新作「Fl!ck EP」を完成させた。この作品では、初の日本語タイトルにしてバンドのポップサイドが全開になったリード曲「永遠」を筆頭に、破壊と創造を繰り返しながら進化するダンスロックサウンドが全編にわたって表現されている。バンドの今が凝縮されたこの新作についてメンバー3人に話を訊いた。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) インタビュー撮影 / 上山陽介
制作はいつになく難航した
──5月にリリースした2ndミニアルバム「WAVEMENT」を経て、バンドはどういうモードで「Fl!ck EP」の制作に向かっていったんですか?
安島裕輔 (Vo, G, Syn) 「WAVEMENT」をリリースしてちょっと経ってからプリプロを繰り返して。いくつか曲を集めた中で最終的にこの4曲をリリースすることになったんですけど、制作期間はいつになく苦しかったです。メンバーとの話し合いの中で曲の方向性に関してケンカしたこともあったし、思うように曲作りが進まないこともあって。
──ケンカはどういう理由で?
堀内祥太郎 (B, Cho) それぞれの意見のニュアンスがうまく伝わらなかったり。
安島 そう。曲のイメージをなかなか共有できなくて。
──共有できなかった理由を今は分析できているんですか?
安島 目指している方向は常に一緒なんですけど、そこに到達するまでのアプローチが難しくて。それでみんな苛立っていたんだと思います。といっても、イメージどおりに制作が進んだら、それはそれでイヤというか。自分でも難しいバンドだなって思うんですけど(笑)。
堀内 僕も曲と自分の弾くベースが噛み合いすぎていると違和感があるし。個人的に安島のイメージを超えることにプレイヤーとしての役割を見出してるんで。
本吉“Nico”弘樹 (Dr, Cho) その一方で僕は自分の個性を出したいとは思うんですけど、最終的なアンサンブルを考えたときにそこに溶け込むことを一番に考えるんですよね。
──そのあたりの3人のバランスは前回のインタビューでも言及していましたね。3人の主張を妥協せずに融和させることが、このバンドの進化の鍵を握っているんでしょうね。
安島 そう思います。1人ひとり違う人間が集まっているので、それが面白く混ざり合わないとバンドをやっている意味がないと思うし。僕も2人にはすごくレベルの高いプレイを求めていますし、2人はそれにしっかり応えてくれる。だから僕はあらゆる意味で2人に支えられているんですよね。
自分の世界を作りながら壊したい
──今作を作るにあたって何かテーマを設けたんですか?
安島 今回は情熱をパックしたいと考えたんです。1枚目のミニアルバム「WONDERGROUND」は衝動的なもの、「WAVEMENT」では知性的なものを表現したいと思って。それを経て、今回は情熱と執念の音楽を作りたいなって。立ち向かう姿勢や諦めない気持ちを音楽にぶつけたいと思いましたね。
──情熱を押し出すというテーマは定まっていたけど、曲作りは難航したと。
安島 そうですね。もっと自分をさらけ出さなきゃとか、もっと自分に対して残酷にならなきゃと思って。自分の世界を作りながら、同時にそれを壊すことを繰り返したいので。これまでの2枚のミニアルバムを踏襲しながらも、壊していく。そこには矛盾も生じるし、とても難しいことだと思うんですけど、やっぱりこのバンドがやりたいのはそういう音楽なので。
──破壊と創造を繰り返す。それも前回のインタビューで安島さんが言っていたことですよね。「パンクでありたい」と。
安島 うん。自分という人間は自己否定の連続なんです。でもそれは今の自分が昨日の自分よりもっとよくありたいということで。曲に関して言えば、純粋にポップなものを作りたいと思えば思うほど、それを壊したいという自分が出てくる。美しい曲を書きたいと思うけど、ホントの自分やこの世界は美しいだけじゃないし。そこをしっかり表現しなきゃいけないと思うんです。僕はどんな曲でも曲が生まれることに幸福感を覚えるんですね。曲を作って、それを歌って、この3人で演奏して、それを誰かに聴いてもらえる。こんな素敵なことはないと思うので。たとえどんなに暗い内容の曲でも、それを表現することはポジティブなエネルギーを放っていると思うから。だから曲を作りたいと思うし、メンバーやお客さんとのつながりの中で、曲が生まれていくことに希望を感じています。
しょっちゅうケンカしてる
──今回のリード曲「永遠」はバンドのポップネスを際立たせながら、美しい世界を描くことに焦点が当たっています。
安島 はい。「永遠」はすごく素直に書けた曲ですね。プリプロに入るときに3、4曲作ったんですけど、「永遠」はその時点でありましたね。
──作ったときにかなり手応えがあったでしょう?
安島 そうですね。何も考えずにメロディがスッと出てきて、歌詞はツアー先のホテルとかで書いて。トラックも車の中で作ったんです。この曲を作り始めたときはちょっと落ち込んでいたんですけど。
──それはなぜ?
安島 メンバーとケンカしたりとか。
──結構ケンカしてますね(笑)。
安島 うん、多いですね(笑)。音楽のことになるとみんな真剣になるし、だからこそ譲らない部分もあるので。そのときもケンカして、暗い気持ちになっていたんですけど、そんな中でふと目の前の景色や瞬間をすごく愛おしく感じて。落ち込んでいるからこそ普通のことが愛おしく思えたというか。
──この曲は刹那的な時間や風景が永遠に続いていくことに希望を見ていますよね。そこにはマクロ的かつコズミックな広がりもあって。「永遠」はスケールの大きいラブソングでもあると思います。
安島 僕は自分の曲のほとんどがラブソングに近い形態を持っていると思うんですけど、「永遠」はその中でもホントは子供の頃から知っていた景色や感覚、そういうところに素直に向き合えた“ラブソング”だと思います。
──初の日本語タイトルというのもポイントですよね。
安島 素直に作った曲だし、自分が描きたかった“永遠”に対するイメージや思いを表現できたからこのタイトル以外は考えられなかったですね。
収録曲
- 永遠
- ルーザー
- in your bedroom
- go go monster
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The Flickers(ざふりっかーず)
安島裕輔(Vo, G, Syn)、堀内祥太郎(B, Cho)、本吉“Nico”弘樹(Dr, Cho)の3人からなるスリーピースロックバンド。ガレージロック、ニューウェイブ、エレクトロなどの要素を盛り込んだダンサブルなサウンドと、エモーショナルなパフォーマンスでライブハウスシーンを中心に注目を集める。2011年11月にタワーレコード限定で 1stミニアルバム「WONDERGROUND」を、2012年5月に初の全国流通盤となる2ndミニアルバム「WAVEMENT」を発表。2012年12月19日に初の日本語タイトルの「永遠」を含む4曲入りCD「Fl!ck EP」をリリースした。