ナタリー PowerPush - THE BACK HORN
「この4人だから作れた」新たな地平を開く名盤誕生
THE BACK HORNの9枚目のアルバム「リヴスコール」がリリースされた。今作には、先行シングル「シリウス」を始め、震災直後に発表したチャリティシングル「世界中に花束を」の新録バージョンなど全13曲を収録。前作「アサイラム」で到達した高みから、さらなる新境地へと進んだ意欲作だ。THE BACK HORN史上初のダンスナンバーとも言える「星降る夜のビート」などバラエティに富んだ曲調と、ポジティブで開かれた歌詞で、彼らの世界は大きく広がっている。
取材・文 / 小野島大 インタビュー撮影 / 平沼久奈
「アサイラム」を超えたかった
──前回のナタリーのインタビューを2月にやったときはちょうど今作の制作真っ最中だったわけですが、あの時点でアルバムの全体像は見えていたんですか?
菅波栄純(G) レコーディングの前にある程度見えてたと思います。あとは録るだけ、みたいな感じでレコーディングに突入したんで。曲順もほぼ決まってたし。
──ああ、プリプロでかなり詰めて。
菅波 はい。で、今回は1曲目から順番に録っていきましたね。そういう作り方をしたのは初めてです。
松田晋二(Dr) 事前に固めてからレコーディングに入ろうって話はしてたんです。
──やりたいことがはっきりしてるから?
松田 うん。曲作りの期間も長かったし、曲の断片とかきっかけみたいなものが膨大に生まれてて。それを1回まとめて、必要な曲を見定める意味でも、仮曲順を作ってみようと。それを更新していくうちに、アルバムの全体像が見えてきた感じです。
──じゃあレコーディングはかなりスムーズに。
菅波 はい。迷いなく。伝えたいこと……メッセージ性の部分は「シリウス」のときに語ったこととかなり重なってて、その上でやりたいことが4人の中で固まってましたからね。あと演奏面に関しては、今回のアルバムを作る前にみんなで飲んだときに、4人でせーので演奏してそれをそのまま録ろうって話をしたんです。今まではオケだけ録って歌はあとで入れてたんですけど、今回はライブっぽく一発録りでいこうじゃないかということになって。演奏や音のクオリティも気合を込めるというか魂を込めたい。レコーディングも今まで以上にアップグレードしたい。レコーディングのときの演奏のテンションもピークに持っていきたいよね、と話してたんです。だから早めに曲のアレンジも詰めて、曲順も決めて。曲順が決まってると、演奏やサウンドのイメージが湧きやすくなって、迷いがなくなるんです。
──前からライブでやってた曲はあるんですか。
山田将司(Vo) 録る前にやってたのは「シリウス」だけですね。
菅波 今までライブで揉むことで初めて演奏が納得いく水準に達することが多かったんですよ。ああ、こういう音で、こういう演奏で録りたかったなって思いも出てきて。もちろんライブでやって初めてわかることもあるんだけど、それでも今回はスタジオでできるだけのことをやって、納得いく高いクオリティで録りたいと思ったんです。
山田 作業を始めるのが早かったんですよ。もう1年ぐらい前から始まってたから。
──その分、自分たちが次に何をやるべきか考える時間があった。
菅波 そうですね。震災のあとに出すものは絶対良いものにしようって考えはあったし。「アサイラム」はその時点での自分たちが思うTHE BACK HORNらしさっていうのが凝縮されたようなアルバムだったから、それを超える作品にしたかった。だから早め早めに準備もしたし。THE BACK HORNが震災後にどんな音を鳴らすべきかっていう思いもあったけど、単純にバンドマンとして、前より良いものを作りたい、進化したいって思いもすごく強かったかもしれないですね。
スタジオの“音楽濃度”を上げる
──前作がある種の到達点だったというのは私も同意します。それを超えるためには何が必要だと思いましたか?
菅波 具体的なことから言えば、スタジオの音楽濃度を上げるってことだと思ったんです。
──音楽濃度?
菅波 作曲のために使えるスタジオの時間って決まってるわけじゃないですか。その時間をいかに音楽的に過ごすか。できねえできねえって悩んでる時間とか、段取りが悪くて停滞する時間をメッチャメッチャ減らしたかったんです。
──(笑)。今まではそんなに段取りが悪かったんだ。
菅波 締め切りはあったけど、そんなの関係ねえやってとこもあって(笑)。
──やらなきゃやらなきゃって思いながら、なかなか手が着かないとか。
菅波 音楽を作ろうという意欲はあるんだけどって感じで。実際にはスタジオに行くまでに準備しなきゃいけないこともいっぱいあるし、作業の合間にもやることがいっぱいある。そこらへんがおろそかになってた気もするんですよ。本気で良いものを作ろうと思ったら、ただ気持ちがあるってだけでは足りなくて。もちろんそういう気持ちは根底にあるけど、目標とするアルバムのクオリティまで行くには、頭を使う必要もあるんだなと。
──まあ言ってみれば、プロの音楽家としての基本の見直しというか。
菅波 確かにそうかも。今回そういう方向に向かえたというのは、震災後に音楽でみんなの力になれるようなものを作りたいと全員が強く思ったから。本気で思って、本気でやろうと考えたとき、じゃあ具体的にどうすればいいか考えた。今回は制作期間が長かったし、スタジオにいないときもずっと音楽のことばかり考えてた気がする。それが無駄にならないで、全部実になったような気がしますね、今度のアルバムは。
THE BACK HORN(ばっくほーん)
1998年結成された4人組バンド。2001年にシングル「サニーをメジャーリリース。近年のロックフェスティバルでは欠かせないライブバンドとしての地位を確立し、スペインや台湾ロックフェスティバルへの参加を皮切りに10数カ国で作品をリリースし、海外でもライブ活動を行う。また黒沢清監督の映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、紀里谷和明監督の映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-の主題歌「閉ざされた世界を手がけるなど、オリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映像作品やクリエーターとのコラボレーションも多数。2012年3月に20枚目となるシングル「シリウス」を、同年6月に9作目のオリジナルアルバム「リヴスコール」を発表。9月より2度目の日本武道館単独公演を含む全国ツアー「THE BACK HORN『KYO-MEIツアー』~リヴスコール~」を開催する。