ハチが作り上げた“ボカロっぽさ”
──お二人が好きなボカロP、注目しているボカロPを教えてもらえますか?
川谷 ずっと真夜中でいいのに。のACAねさんが起用しているボカロP(100回嘔吐、ぬゆり、煮ル果実ら)はいいなと思いますね。アレンジャーとしてもすごく優秀だなと。あとはいろんな時代の音楽を知っていて、それを組み合わせながら曲を作っている人には興味があります。今はボカロPではないですが、キタニタツヤくんもそう(キタニはもともとボカロP・こんにちは谷田として活動していた)。ポストロックだったりオルタナだったり、僕の世代の音楽もちゃんと聴いているし、アレンジ力も高くて。自分のインスタのストーリーでいろんなアーティストやボカロPを幅広く紹介しているんですよ。その情報もすごく役立ってます(笑)。
yama いろんな音楽をアップしてらっしゃいますよね。自分もいいなと思うボカロPの方はたくさんいます。ササノマリイさんが、ねこぼーろとして発表していた曲もすごく好きですね。ポストロック、オルタナ、エレクトロなど、いわゆるボカロっぽさとは違うことをやっていたのがすごく面白くて。自分もササノマリイさんの曲を歌いたくて、「ライカ」という楽曲を作っていただきました。
川谷 ササノマリイさんもボカロをやってたんですね。あとはやっぱりハチですね、僕は。米津玄師の1stアルバム(「dirorama」)を聴いたのが先だったんですけど、「なんだこれは」と衝撃を受けました。そのあとでハチの曲を聴いて、「なるほど、これボカロか」と。ハチが“ボカロっぽさ”を作り上げた側面も強いと思うんですよ。ほかのボカロ曲もいろいろ聴いてみたんですけど、やっぱりハチの影響がすごく強くて。ボカロという文化があったから彼が世に出たわけで、それも日本の音楽シーンにとってすごくいいことだったと思います。
yama もし川谷さんが自分で歌っていなかったら、ボカロを本格的に使って楽曲を発表した可能性もあると思います?
川谷 どうですかね。僕、めんどくさいのが嫌いなんですよ。ボカロって調声も大変だし、1つひとつを地道に作っていく作業が必要じゃないですか。だったらギターを持って歌ったほうが早いというか。バンドはラクなんですよね、全部は自分でやらなくていいので。ボカロ曲は緻密にアレンジしていることも多いし、それをやっているボカロPのことをリスペクトしてます。
ボカロ曲を知るきっかけとなる場所としての「ボカコレ」
──お二人は今後のボーカロイド文化にどんなことを期待していますか?
川谷 僕はそこまでアンテナを張ってないんですけど、ボカロPの中には、びっくりするほどフォロワーがいる人もいるじゃないですか。今の10代、20代はボカロをはじめとするインターネットの音楽に慣れ親しんでいるし、この先はそれがもっと進んでいくんだろうなと。ただ、純粋なボカロ曲がサブスクで1位を獲ったことはまだないと思うから、逆に言うとチャートのトップになるようなボカロ曲が出てくると、また状況が変わってくるかもしれないですね。音声合成ソフトも進化しているし、楽曲自体も変わってくるかも。花譜ちゃんの声をもとにしたソフト(「可不」)とか、かなり自然に聞こえますからね。
yama 最近のボカロ曲も人間の歌に近付いていて、自然に聴こえるものが増えてる気がします。ただ、自分は当初の初音ミクのような機械っぽさが好きなんですよね。生身の人間に近付ける方向もあっていいけど、機械っぽさを大事にして楽曲を作ってる方もたくさんいて。機械だからこそできることに期待しているし、メジャーシーンや大衆を意識するより、「ずっとサブカルでもいいんじゃない?」とも思ってます。もともとはボカロならではの面白さに興味を持っている人が集まる場所だったし、今もそうなんじゃないかなと。「多くの人には受け入れられないかもしれないけど、すごく面白い」というものが聴きたいんですよね、自分は。
川谷 なるほど。最近、“Sped Up”(ヒット曲のテンポとピッチを上げたリミックス)が流行ってるじゃないですか。曲のスピードと音程を上げると、ボカロっぽくなるんですよね。それがカッコよく聞こえて、海外ではサブスクやTikTokでヒットしているんですけど、日本はボカロの土壌があるから“Sped Up”もこれからヒットしやすくなるかもしれないなと。
──ゲスの極み乙女もスピードアップ音源を収録したEP「Gesu Sped Up」をリリースしていますね。川谷さんの声も機械的だし、確かにボカロっぽいかも。
川谷 「誰が歌ってるか」がわかると、それがノイズになることもあって。当たり前だけどボカロには人間性がないし、ラブソングにしても何にしても、歌詞のよさ、メロディのよさ、曲のよさがしっかり伝わるかもしれないですね。初音ミクにスキャンダルはないので(笑)。
yama 確かに(笑)。さっきボカロに対して「ずっとサブカルでもいいんじゃない?」と言いましたけど、「ボカコレ」みたいにいろんなボカロ曲を知るきっかけとなる場所があるのはいいですよね。こういうイベントがあることでボカロシーンがさらに盛り上がると思いますし。
川谷 キタニくんがインスタのストーリーで「ボカコレ」の参加者も紹介してて。それがきっかけで「ボカコレ」のランキングもいろいろ見たんですけど、サカダケイさんという方がすごくよかったです。曲がおしゃれでコード進行も変わってて、面白かった。
yama 「ボカコレ」のランキングを見てると、そういう新たな出会いがたくさんありそうですよね。自分は普段トップ100くらいしか聴いてないので、リスナーとしていろいろ発見がありそうだなと。助かります(笑)
イベント情報
「The VOCALOID Collection ~2023 Spring~」
開催期間:2023年3月18日(土)~21日(火・祝)
参加者
r-906 / 藍瀬まなみ / Aqu3ra / あ子 / アルセチカ / あんみつ(宮田俊哉) / 家の裏でマンボウが死んでるP / 石黒千尋 / IshiTchi / ヰ世界情緒 / 市川 / 市瀬るぽ / 164 / 稲葉曇 / いよわ / A4。 / える/ Eru / かいりきベア / 香椎モイミ / 花譜 / カルロス袴田(サイゼP) / 神沢有紗 / きさいちさとし / Kish. / 木村風太 / Guiano / 栗田穣崇 / くろうめ / 子牛 / cosMo@暴走P / 才歌 / 事務員G / シャノン / Shu / STEAKA / すりぃ / せきこみごはん / Sohbana / タケノコ少年 / daraku / 檀上大空 / Chinozo / 鶴野有紗 / Teary Planet(Nanao) / DJ'TEKINA//SOMETHING a.… / DJ WILDPARTY / DECO*27 / デスおはぎ / なきそ / なみぐる / にっくきゆう / NORISTRY / 晴いちばん / 春猿火 / 柊マグネタイト / ピノキオピー / Fushi / 星野卓也 / みさいる / 南ノ南 / メドミア / 雄之助 / 雪乃イト / 40mP / りゅうせー / RED / 廉 / WONDERFUL★OPPORTUNITY!
プロフィール
川谷絵音(カワタニエノン)
1988年生まれ、長崎県出身の音楽家。indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ、ichikoro、礼賛といったバンドでの活動に加え、DADARAYや美的計画のプロデュースや、他アーティストへの楽曲提供なども行う。2023年3月には、yamaを迎えたジェニーハイの新曲「モンスター feat.yama」が配信リリースされる。
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yama(ヤマ)
SNSを中心にネット上で話題を集めるシンガー。2018年よりYouTubeをベースにカバー曲を公開するなどの活動をスタートさせる。2020年4月にリリースした初のオリジナル楽曲「春を告げる」がミュージックビデオの再生回数1億回、ストリーミングの累計再生回数3億回を突破するなど、若い世代を中心に注目を浴びている。
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