「ボカコレ」特集|川谷絵音とyamaが語り合う、“脱サブカル”化したボカロカルチャーの変容と音楽シーンに与えた影響

ボカロ文化の祭典「The VOCALOID Collection ~2023 Spring~」が3月18日から21日にかけて開催される。

「The VOCALOID Collection」、通称「ボカコレ」は2020年に開催され、今回で6回目となる、ネット最大級の“ボカロ楽曲投稿祭”。開催期間中、「TOP100」「ルーキー」「REMIX」「演奏してみた」「MMD&3DCG」の全5カテゴリで順位を競うランキング企画が実施される。「TOP100」「ルーキー」で1位となった楽曲は、スマホゲームプロジェクト「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」内に実装予定。そのほか、「超会議2023テーマソング」コンテストや「ボカコレ&歌コレ&踊コレ」コラボ企画など、ボカロカルチャーを多角的に楽しめるコンテンツが用意される。

音楽ナタリーでは「ボカコレ」の開催に先駆け、川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ、ichikoro、美的計画、礼賛)とyamaの対談をセッティング。休日課長とのボカロPユニット・学生気分としても活動していた川谷と、ボーカロイド楽曲の“歌ってみた”制作をルーツに持つyamaに、ボーカロイド文化との接点やボカロが音楽シーン全般に与えた影響などについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 入江達也

ボカロは曲の良し悪しをシビアにジャッジできる

──川谷さん、yamaさんがボーカロイドのカルチャーに接したきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

川谷絵音 青春時代にはまったく通ってなくて、ボカロが登場してかなり経ってから聴いたんですよ。ボカロを聴くよりも前に、フラッシュ動画(Webコンテンツ制作ツール「Adobe Flash」で制作された動画)を観てました。BUMP OF CHICKENの「K」のフラッシュとか、すごく流行っていて。僕も学生のときに「指が柔らかい」という動画をアップしたことがあります(笑)。たぶん探せばどこかで観れるんじゃないかな。

yama すごい(笑)。何年頃の話ですか、それ?

川谷 2005年くらいかな。その後、音楽をやり始めたんですけど、今度は「演奏してみた」動画が流行り始めたんですよ。当時はthe band apartのコピーバンドをやっていたので、バンアパの楽曲の“演奏してみた”はよく観てました。ボカロを知ったのは2014年にメジャーデビューした頃かな。最初に「すごい」と思ったのはハチ(米津玄師のボカロP時代の名義)でしたね。

左から川谷絵音、yama。

左から川谷絵音、yama。

yama 自分の場合は学生時代に周りでボカロが盛り上がっていて、メジャーな音楽を聴く人、ボカロを聴く人で分かれていたんですよ。自分はボカロの音楽が好きだったし、むしろ、それしか聴いてなかったです。それこそハチさんがすごく人気だったときで。ボカロの機械的な音声によって旋律のよさみたいなものが際立つのが好きだったんですよね。

川谷 メロディラインがよくわかるし、曲の良し悪しをシビアにジャッジできるんですよね。ボカロ系の楽曲はサウンドやアレンジなども独特なので、それも含めて聴いています。僕は人間の声に美しさを見出しているところがあるんですけど、自分で歌わない人が使うぶんにはすごくいいと思うんですよ、ボカロは。僕もパソコンに入れていて、趣味でメロディ作りにたまに使うこともあるので。2017年に立ち上げた学生気分は僕が作った曲を休日課長がボカロに変換する体制でやってたんですが、本当に“気分”でやってみただけで、今は消滅してます(笑)。

yama (笑)。自分は学生時代、メジャーな音楽にほとんど触れたことがなかったし、ライブにも行ったことがなくて。生音や生の声のよさをまったく理解していなかったんです。とにかく機械的で熱量のない音楽が好きだったというか。最近ですね、熱量のある音楽のよさがわかってきたのは。

川谷 ボカロPが自分で歌い始めることも多いじゃないですか。僕の中でずっと「あれはどういうことなんだろう?」という疑問があって。

──米津玄師さんを筆頭に、くじらさん、TOOBOEさんなど、ボカロPを経由してシンガーソングライターとして活躍する方は確かに増えていますね。

川谷 いきなり顔を出し始めるタイミングもあって。僕はむしろ「顔を出さなければよかった」と思ってるので(笑)、自分が表に出なくても活動できるっていう今の状況はいいなあって。

川谷絵音

川谷絵音

yama ボカロ文化の「顔を出さないで活動していい」というムードは、すごく助かりました。自分は最初から「絶対、表に出たくないです」と言っていたし、今は仮面して人前に立ってますけど、こういう形で受け入れてもらえているのは、ボカロ文化という土台があったからなのかなと。

薄れていく、ボカロとメジャーシーンの境界線

──ボカロPがバンドとコラボしたり、アイドルグループに楽曲提供するケースも増えています。ボカロカルチャーが音楽シーンに与えた影響をどう捉えていますか?

川谷 今のロックシーンやボカロシーンに関しては、もともとの始まりはBUMP OF CHICKENだと思ってるんです。バンプの音楽がボカロPに影響を与えていて、そこから今のシーンにつながっている。ハチやwowakaさんもそうだと思うけど、生身の音楽から始まって、それぞれ解釈しながらボカロ楽曲に落とし込んでいたんじゃないかなと。今はボカロ自体が肥大化して、独自のものになってますけどね。スタッカートっぽいピアノのフレーズだったり、ジャキジャキしたギターだったり、あとは歌詞の言葉数の多さ、メロディが急に高いところにいく感じとか。

左から川谷絵音、yama。

左から川谷絵音、yama。

yama そうですね。

川谷 衝撃的だったのは、バンプと初音ミクのコラボですね(2014年発表の「ray feat. HATSUNE MIKU」)。こんなことあるんだ?って本当に驚きましたけど、それも今となっては普通というか。以前は「ボカロはサブカル」という感じで、メジャーな音楽と完全に分かれていたけど、最近は一緒になってきてるじゃないですか。ボカロPじゃない人がボカロっぽいアレンジをしている曲もけっこうあるし、区別がなくなってきている。今の若い世代はもっといろんな音楽を取り入れながら曲を作ってる印象がありますね。「ゲスの極み乙女のピアノの影響を感じるな」と思うこともあるし、「初めて買ったCDは『猟奇的なキスを私にして』です」という人がアーティスト活動をしてたりしたのはびっくりしました。いろんな意味で(笑)。

yama 川谷さんの音楽に影響を受けたボカロPはたくさんいるでしょうね。ボーカロイドの曲を聴いて、「これを作った人は、このバンドが好きなんだろうな」と感じることは多々ありますけど、そういう、その人が触れてきた音楽がろ過されて、ボカロ曲になっているというか。

川谷 どんどん新しい流れも出てますからね。King Gnuが登場して、またメロディの感じが変わってきて。それがボカロにも影響するだろうし、世代がさらに変わってきてるんだろうなと。

yama 時代の変化で言うと、ボカロPの楽曲を歌うことで、シンガー全体のレベルが上がっていると言われることもあるんですけど、それはどうなんでしょうね? 自分はもともと歌い手の音楽はあまり聴いてなくて。先ほども言いましたが、機械的な音声がいいなと思っていたんですよ。自分で“歌ってみた”を始めたときも、生身の人が歌っている曲をカバーしても勝てないと思って、ボカロ曲を自分の解釈で歌い始めた。ボーカロイドで作った楽曲はメロディラインが難しいものが多いから、人が歌うのはちょっと無理があって。そもそもシンガーが歌うことを想定してないですし、ボカロPの中にはおそらく、自分で歌わずに作っている方もいらっしゃると思うんです。でも自分なりに“歌ってみた”を続けていたら、だんだんと歌えるようになってきて。そのうちに自分と同じように複雑なメロディのボカロ曲を歌う人が増えてきたので、結果として「歌がうまくなった」という印象があるのかもしれないですけど、実際はそうではない気がします。歌がうまくなったというより、メロディラインがよく動く曲が多いという流行の話なのかなと思ってますね。