ボーカロイドにまつわるさまざまな企画が繰り広げられるイベント「The VOCALOID Collection ~2020 Winter~」が、12月11日から13日まで開催される。
「The VOCALOID Collection」の開催を記念して、音楽ナタリーではイベントに賛同するクリエイターにスポットを当てた特集を複数回にわたって展開している。第3弾は、バルーン名義でボカロPとしての活動をスタートさせ、現在はシンガーソングライターとして幅広く活躍する須田景凪と、ボカロPとしての活動のみならずYOASOBIのコンポーザーとしてもその名が知られるようになったAyaseの対談。共にボカロを用いない表現でも大成している彼らは、インターネット上の音楽シーンやボーカロイドという音楽ツールに対し、どのような思いを持っているのか。クリエイターとして重なる部分がありながらも異なるアウトプットで音楽を生み出す2人に、音楽表現のこだわりを語り合ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦
一緒にパックマンを倒した仲
──先日配信された須田さんのラジオで「Ayaseさんとゲームをした」と語られていましたが……。
須田景凪 つい先日一緒にゲームをする機会があったんです。ラジオのリスナーから「Ayaseさんが『須田さんめっちゃスマブラ強い』と言ってました」みたいなメールが届いて、「いつの間にか広まっている!」と思いまして。Ayaseくん、どこで話したの?
Ayase ツイキャスかな? いや、本当に景凪くんはスマブラが強いんですよ。
須田 クリエイター同士でゲームをしたときに、Ayaseくんとチームを組んで戦って。
Ayase 僕らがチーム組んだときは強かったよね?
須田 うん。一緒にうざいパックマンを倒した(笑)。
──お二人の初対面はいつ頃ですか?
須田 実は最近なんです。
Ayase 2カ月くらい前だよね? 矢尾(拓也)さんの紹介で。
須田 サポートでドラムを叩いてくれている矢尾さんがAyaseくんの現場で一緒になって、引き合わせてくれたんです。実は自分もAyaseくんも、もともとドラムをやっていて。
Ayase そうそう。実は元ドラマー同士で経歴が似ている2人なんです。
──初めて会ったときの第一印象はお互いどうでしたか?
須田 もちろん曲は聴かせてもらっていたし、Twitterでもいろんな情報が流れてきたので「だいたいこんな感じの人だろうなあ」というイメージはあったんですが、Ayaseくんの顔までは初めて会うまで知らなかったんですよ。で、初対面のときに「めちゃくちゃイカつい人来たな」と、思いました。
Ayase いやいやいや(笑)。
須田 そんなに(ピアスで)耳を拡張するんだ、と思って(笑)。
Ayase 僕の中のイメージでは、景凪くんってすごくクリエイターっぽい人間だろうと思っていたんです。でも実際会ってみたら、どちらかと言うとバンドマンっぽい。現場に出るし、飲みにも出るし、意外とアクティブな人なんだな、と思いました。
ボカロ界のボスだと思っていた
──お互いの音楽についてはどう感じていますか?
須田 実はYOASOBIの「夜に駆ける」という曲を知ったときは、その作り手であるAyaseくんがボカロクリエイターだって知らなかったんですよ。「夜に駆ける」という曲のことを僕は2020年を代表する1曲だと感じていて。今年の初めのほうは至るところで流れていて、聴かない日がないくらいだったと思います。
Ayase ありがとうございます。
須田 なので、その曲を作ったAyaseくんがボカロクリエイターと聴いて衝撃を受けました。須田景凪として活動し始めてからここ数年は自分の活動に集中していたのもあって、ボカロ曲をあまり聴けてなくて。でもAyaseくんの音楽に出会ったり、syudouくん、煮ル果実さん、john/TOOBOEさんのような新しいクリエイターの音楽を最近知って、自分がボカロをやってたときとは全然違う音楽性で、素晴らしい音楽を作っている方がたくさんいることに改めて気付かされたんです。今年の頭くらいから改めてボカロ曲に触れていて、自分の知っていた時代よりアップデートされた音楽の文化が育ってるな、と感じています。Ayaseくんのボカロ曲ももちろん聴いていて、中でも「幽霊東京」と「ワンダラー」が好きですね。
Ayase 僕はボカロを始めた2018年になってから一気にいろんなボカロ曲を掘り始めたんですよ。再生回数の多いものや、サムネイルが気になったものをどんどん聴いていく中で、一番ボカロでJ-POPをやっているなと思う人がバルーン、要は景凪くんだった。
須田 うれしい(笑)。
Ayase 僕が最初に触れたボカロ曲の中でも「雨とペトラ」は何度も繰り返し聴きました。もちろん「シャルル」や「メーベル」といった曲も押さえて。僕は界隈のことを何もわかっていなかったから、誰がすごいとか、歴が長いとかはよくわからなくて、音楽を掘った感じだとバルーンという人がボカロ界のボスなんだろう、と勝手に思っていました(笑)。再生回数も凄まじかったし、「シャルル」はカラオケのランキングにも入っていたから。もちろんそこからシンガーソングライターとしての活動も知って、やっぱりすごい人だったんだな、という確信に変わった気がします。
須田 珍しいよね。こうやって音楽の話をするの。
Ayase うん。だいたいクリエイター同士で飲みに行くと音楽の話をしない。「いいよいいよ」ってなる(笑)。
須田 確かに。音楽の話になると真面目モードになっちゃうからね。飲むときはゲームの話とかのほうが多いかも。
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実力の垣根がない、フラットな表現の場