tha BOSS「IN THE NAME OF HIPHOP II」特集 ソロインタビュー&Mummy-Dとの対談 (2/4)

がんばれる理由は同業者の存在

──JEVA、Mummy-D、SHINGO★西成、YOU THE ROCK★、ZORNと、客演は世代や拠点とする地域を問わない、面白いラインナップですね。

基本的にみんな曲を書いてるときに顔が浮かんだラッパーで、Dくん(Mummy-D)はやはりこのタイミングでぜひ参加してもらいたかった。ユウちゃん(YOU THE ROCK★)とは最近よく遊んでるし、みんな友達関係の延長って感じで、まあタイミングがすべてだね。

──知名度という意味では今回の客演の中では一番低いかもしれませんが、JEVAの参加は意外でした。

ブライテストホープだねー。

──キャリア長いですよ(笑)。彼はかなり長尺の、素晴らしいヴァースを提供してますね。

(感慨深そうに)マジで間違いない仕事をしてくれた。LIBROのビートとあいまって、胸が締め付けられるみずみずしさがある。そのおかげもあって、俺のリリックもフレッシュな感じでいけたし。彼の「イオン」って曲が前からすごく好きで、よくMVを観てたんだよ。三重に住んでるんだけど、2019年に俺が名古屋でライブをしたとき、呼んでくれた人に「JEVAもブッキングしてほしい」って言ったのさ。で、俺の前にライブしてもらって。

──その時点で面識はあったんですか?

なかった。ただのファンだったのさ(笑)。

──本人からしたらビビるでしょ、いきなり「BOSSさんからのご指名で」なんてオファーが来たら(笑)。

俺、いつもそうだよ(笑)。「俺のライブ後にDJやってほしい」とか。でも、JEVAはもともと俺と近しいところにいたんだよね。そのライブではJEVAとレーベルメイトの呂布カルマも出てたから。で、その何年かあとに「曲やろうぜ」ってメールした。

──今作の各曲から感じたのは「人生讃歌」、もっと言うと「ヒップホップ人生讃歌」のように聞こえるな、ということで。ここまでヒップホップ1本でやってこれたからこそ感じることのできる歓びのようなものが、全編にあふれていると思うんです。

それは大いにあると思うし、まさに「人生讃歌」だと思う。27歳で「STILLING, STILL DREAMING」を作ったときも「人生讃歌」のつもりだったと思うし、それこそ「LIFE STORY」を36歳で出したときもあのときの「人生讃歌」だった。でも、今作はいい感じで歳を重ねてここまで来れたっていう気持ちがあって、そこからのポジティブな帰結がある。俺自身も溌剌と気持ちが上がってるし、こんな時代だけど全然クヨクヨしてない。そんなアルバムをみんなと作れたし、「ヒップホップに夢中になってる」って感じが外にあふれ出てるんだと思う。

──だから、アルバム通してBOSSさんは楽しそうなんですよね。一方で、その歓びの裏には、歳を取るごとに増えてくる別れなどを反映したブルースも、これまで以上に感じられます。死を強く意識したアルバムではないですけど、「いつか来る別れ」とか「いつか終わる」みたいな感情が随所で出てきますね。

それだね。どんどんそういうふうになっていくんだと思うし、少しずつそういう“影”が射し始めてるね。

tha BOSS

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──そういったことを感じるからこそ今を謳歌しよう、みたいな意識はありますか?

あると思う。そこは若いときよりも強くなってると思うし、その反面、それがもっと上に上がっていこうとする力、今を楽しもうとする力になっている。で、その気持ちをお客さん、リスナーにも促してるんだ。

──「THAT'S WHEN」はまさにそういう曲ですしね。今作、というか近年のBOSSさんのラップを聴いて感じるのは、成し遂げてきたことに対する感慨と同時に、今もなおラッパーとしてフレッシュであろうとラップに向き合ってる姿勢なんです。ある意味、ベテランラッパーのひとつの理想形だとも思います。BOSSさんが今もなお、ラッパーとしてモチベーションを保ち続けられる原動力はどこにあるんでしょうか?

例えば今作で客演してくれた5人がそれぞれのヴァースで俺のアルバムを完全に乗っ取っちゃって、完全に持っていっちゃってる瞬間、それを聴くと悔しくもなる自分がいるんだ。自分のアルバムなのにだよ。そういうヴァースを聴いた瞬間に俺の中で湧き上がってくる気持ちってのは、昔も今もあまり変わらないんだ。「ヤバイヤバイヤバイ……ヤバいよコイツ!」みたいな(笑)。変な焦燥感というか、「悔しい」「怖い」「焦る」じゃ言葉足らずなとても微妙な心境なんだけど、とにかくそういった気持ちが湧き起こる。「俺もまだこういう気持ちになるんだ」って気付かされるね。

──そうすると、同業者にモチベーションを煽られ続けてるんですね。

それしかないんじゃない? そんな気がする。やっぱり同業者っていうかライバルの存在なんだろうね、俺ががんばれる理由は。だから今でもいいラッパーを探してるんだと思う。

──「SOMEDAY feat. SHINGO★西成」で「追われたっていまいち燃えない / これはそんな簡単なゲームとは思えない」とラップしてますけど、誰かに追われて蹴落とされる危機感とか、そういう意識とは違うんですよね。別にバトルしてるわけではないし。なのに、そういった焦りを感じる、と。今は、昔と比べたら勝ち負けのようなラップゲームから離れていると思いますし。

いや離れてるようで、実はずっと離れてないのかもしれないよ。もともとそこにいなかったし、そういったことには構ってないようなツラしてやってたよ。でも、昔からそう思ってるんだよ。何というか、勝ち負けを他人様に決められるってより、自分で決めたい勝ち負けってのがあってさ、「クソー、俺のほうがもっとカッコいい」みたいなガキくさいところがあるんだと思う。それをいまだに若い人たちを見て感じてる。カッコいい人はたくさんいるしね。

音楽的に枯れることはあり得ない

──今作を作って、出し切った感はありますか?また、今作を作って新たな気付きはありましたか?

今作がひとつの大きな区切りだとは思うけど、アルバムができてもずっと作り続けてるし、今もリリックを書いたり、いろいろやってるよ。リリックに関しては、生きてる限りいろいろあるし、それを書いていくだけだから変わらないけど、曲作りにおける具体的なアイデアだったりは、今回またいろいろつかめたね。

──今でも変わらず新たな刺激やインスピレーションを得られるのは、作り手として幸せなことだと思いますが、それがいつか枯れてしまうかもしれない、という怖さを感じることはないですか?

音楽に関してはないね。札幌の音楽シーンにおいて、俺は中盤より下ぐらいの世代なんだ。だから、上の世代もめっちゃいて、今も音楽をめっちゃ教えてくれる。ジャンル問わず新譜もいいのがいつもある。確かに俺はヒップホップじゃエキスパートかもしれないけど、音楽全体で見たらヒップホップはまだまだ歴史が浅いから。音楽全体の大きな世界に生きてる限り、音楽的に枯れるということはあり得ないね。

──よく、「ヒップホップは若い人たちが主流であるべき音楽だ」と言われることもありますが……。

悪いけど、そういう概念はこの俺が出て来る前の時代の言葉だから。ここからは俺みたいなやつがいるから、それだけじゃ片付けられないし、そういう領域に入ってきてる。まだみんな70、80代までいってないじゃん? 音楽的な枯渇だけじゃなくて、体だって金だって、みんないろいろあって大変だよ。そこを乗り越えるだけでも大変なのに、さらにフレッシュでい続けて作品を出すなんてさ、若さだけでは説明のつかない世界だよ。

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