音楽ナタリー PowerPush -寺岡呼人×桜井和寿(Mr.Children)
2人の絆と受け継ぐバトン
新譜ができたら直接ポストに
──その後Mr.Childrenは誰もがご存知の大躍進を遂げて、寺岡さんはソロで活動しつつプロデューサーとしても大活躍で。お2人の交流はずっと続いていたんですか?
寺岡 けっこう会ってない時間は長かったよね? 音楽をやってる人たちって基本的に、会わなくなったら平気で10年ぐらい会わなかったりするんですけど、10年ぶりに会ったときに昨日も会ったような感覚になるんですよ。空いてる時間はとことん空いてましたけど、一緒にサッカーをするようになってからはまた付き合いが濃くなりましたね。それに、いい新譜ができると電話をくれたり、直接うちのポストにサンプル入れてきてくれたり(笑)。そのへんは当時の感覚と変わんない気がします。
桜井 呼人くんの曲の歌詞を書いたりとか、花見会をやったりとか、なんだかんだで付かず離れずの交流はずっと続いてましたね。呼人くんは最初にMr.Childrenを評価してくれて、自分になんの得もないのにいろんな人にプロモーションしてくれていて。それが回り回ってラジオのヘビーローテーションになったりとか、僕らが軌道に乗るきっかけを作ってくれた人なんですよね。その人が今の僕らの音楽を聴いてどう思ってくれるかな?というのは常に気になっていたから、新譜ができたら聴いてほしくて、ポストに届けにいく(笑)。
寺岡 この間のウカスカジーも(参照:桜井和寿&GAKU-MCによるウカスカジーが1stアルバム)そういう流れで、手紙の交換みたいな感じでしたね。彼の歴史は知っているから、届いたデモテープを聴きながら「今はきっとこういう思いを持っているのかな」って想像しながら、あえて「どういうふうにしてほしい?」って聞かずに俺の返事はこう、みたいな。でも俺の返事は間違ってるんじゃないか?と思っていたら、すぐに電話をくれて。
桜井 だって興奮したんだもん(笑)。すごくいい!って。
初めて一緒にツアーを回ったあの感覚を今でも持っている
──2人とも日本を代表するビッグネームなのに、会話を聞いてるとただのバンドのあんちゃん同士って感じですよね。去年の寺岡さんのソロ20周年を祝した「Golden Circle Vol.18 ~Yohito Teraoka 20th Anniversary Special~」(参照:寺岡呼人「GC」武道館で小田、桜井、ゆずら豪華競演)も、日本武道館でそうそうたるメンツが集まっているのに、ライブハウス並のリラックス感があって。特に桜井さんはMr.Childrenだとあそこまでリラックスした感じにはなれないんじゃないかなって。
桜井 自分で仕切らなくていいからラクというのもあるし、単に呼人くんの友人として参加すればいいだけだから、Mr.Childrenのライブとは違う気楽さはありましたね。
寺岡 桜井はリハのときからほかの出演者が歌っているのを観て、その上で本番に臨んでくれたんですよ。それって、あの頃初めて一緒にツアーを回ったあの感覚を今でも持っているってことなんだろうなあと思って、僕もそんな彼を見て気持ちがリセットできたんですよね。ああ、これってあのときと同じだよね、みたいな。あのときKくんの曲を聴いて、すぐにCD買ってたもんね(笑)。
桜井 今ずっとカラオケでKくんの曲歌ってるもん(笑)。
寺岡 完コピでね。「だいじょぶー」って(笑)。
桜井 寺田(寺岡と奥田民生によるユニット)は緊張しましたけどね。僕のキャラじゃないことを要求されるし、寺田が積み上げてきたものを壊しちゃいけないなと。
寺岡 結果、全部桜井が持っていきましたけどね(笑)。表情1つで。
──寺田が誕生した1991年頃って、メジャーの第一線で、しかも別レーベルで活動しているアーティストがユニットを組んで活動するのは珍しかったですよね。
寺岡 あの頃よくジュンスカとユニコーンで一緒にイベントをやっていて。ライブが終わってまっすぐ帰るんじゃなくちょっと飲んでいこうか、みたいな話をしている中でなんとなく「よし、やろう」みたいな話になったんですよ。特に打ち合わせをするでもなく、すごく自由に。
「バトン」ができるまで
──寺岡さんの持つある種ユルいムードが「Golden Circle」にも根付いているのがすごいなあと思うんですよ。そのユルくていい雰囲気が、ゆずをはじめとする後輩アーティストにも染み入るように浸透していて。そんな寺岡さんがソロ20周年の節目に、桜井さんとの共作で「バトン」という曲を作ったのは意義深いことだなと。
寺岡 なんでこのタイトルと内容にしたのか覚えてないんですけど(笑)、まずはざっくり曲を聴かせようと思って朝から呼び出したんですよ。9:00ぐらいにカフェに呼び出して、イヤホンと紙とペンを持って強引に聴いてもらって。何かアイデアが浮かんだらその場で書いてもらおうっていう(笑)。「バトン」というタイトルとざっくりとした内容は決めていたけど、受け継ぐものはさまざまだと思うんですよ。「もっとポジティブに受け止められるほうがいいんじゃない?」って言うから「それ、思ってることすぐにメモって」って(笑)。
──寺岡さんのデモはどんな感じだったんですか?
桜井 アレンジもほぼ完成型に近かったですね。基本的にはそのままだよね?
寺岡 曲によって違うんですけどね。この曲はわりとデモのイメージのまんまかな。
──鈴木英哉(Mr.Children)さんが叩いているドラムのドシャメシャな感じが、泥臭くもがきながらバトンを渡しているようなイメージですごく印象的でした。
寺岡 デモではマーチっぽくしてたんですよ。リレー、運動会みたいなイメージで。それをJENがうまいことバンドマインドにしてくれて。彼もバンドマンなんで、曲を聴いて自分なりのアイデアを持ってきてくれて。
──桜井さんとしては、自分がMr.Childrenとして歌う歌詞を書くのとはまた違うものですか?
桜井 違いますね。書き始めは「呼人くんはこんなことを考えてるんじゃないかな」とイメージするんですけど、同時に僕もこういうふうに考えてるという思いも入るんですよ。
寺岡 「フォーエバーヤング」(2010年発売のコンピレーションアルバム「フォーエバーヤング」に収録された「桜井和寿(Mr.Children)・ゆず・寺岡呼人」名義の楽曲)も同じような感じだったね。曲を共作するのも相性ってあると思うんですよ。目に見えない、理屈じゃない感覚だと思うんですけど。桜井とやって驚くのは、お願いした次の日には歌詞が届くんですよ。
──それは言葉にせずとも伝わるところが大きいという相性のよさゆえでしょうね。
寺岡 うん。それって誰にでも感じることじゃなくて。だからアレンジを頼まれると「じゃあ俺も1日でやってやる」って思うんだけど(笑)。
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- ニューアルバム「Baton」/ 2014年9月23日発売 / TOWER RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3900円 / TRJC-1036
- 通常盤 [CD] 3100円 / TRJC-1037
CD収録曲
- 流星
- BLOOD, SWEAT&LOVE
- バックミラー
- バトン
- Departure
- Japan As No.1!!
- 青山通り
- Gear~歯車~
- 天職
- スマイル
- ご贔屓に
初回限定盤DVD収録内容
Music Video
- バトン
- BLOOD, SWEAT&LOVE
2014.2.8「MASTER PIECE」@赤坂BLITZ
- ブランニュージェネレーション
- 競争る為に生まれてきた訳じゃねぇ
- スマイル
- バトン
- スーパースター
寺岡呼人(テラオカヨヒト)
1968年生まれ、広島県出身。1988~93年にJUN SKY WAKER(S)のベーシスト兼コンポーザーとして活躍し、バンドを脱退後はソロでの活動を展開するとともに、他アーティストのプロデュースも行うようになる。これまでゆず、矢野真紀、ミドリカワ書房、植村花菜、グッドモーニングアメリカらのプロデュースを手がけている。2001年より、自身が尊敬するアーティストや親交あるアーティストをゲストに迎えコラボレーションを行うイベント「Golden Circle」を不定期に開催。ソロデビュー20周年を迎えた2013年には、東京・日本武道館と大阪・大阪城ホールにて計4日間におよぶ「Golden Circle Vol.18 ~Yohito Teraoka 20th Anniversary Special~」を行った。2014年9月には通算14枚目となるオリジナルアルバム「Baton」をリリース。
桜井和寿(サクライカズトシ)
1989年に結成されたMr.Childrenのボーカリスト。ミニアルバム「Everything」で1992年5月にメジャーデビューを果たして以来徐々に人気を集め、1993年11月発売の4thシングル「CROSS ROAD」がバンドにとって初のミリオンヒットとなった。2014年にはGAKU-MCとのユニット・ウカスカジーを結成し、「2014 FIFAワールドカップ」の日本代表公式応援ソング「勝利の笑みを 君と」などの楽曲を発表。同年6月にリリースしたアルバム「AMIGO」には寺岡呼人、亀田誠治、布袋寅泰ら多数のアーティストが参加した。Mr.Childrenの新曲「足音 ~Be Strong」は10月スタートのフジテレビ開局55周年記念プロジェクトドラマ「信長協奏曲」の主題歌に決定している。