音楽ナタリー PowerPush -寺岡呼人×桜井和寿(Mr.Children)
2人の絆と受け継ぐバトン
ご贔屓に
──アーティストにはそのあと、完成した音楽を届けるライブという場所もあって。今作はその「届ける」ということも強く意識したアルバムだなと感じました。ラストを締めくくる「ご贔屓に」は先の20周年ライブでも披露されていましたが、この曲はまさにファンに届けることを歌った曲ですよね。
寺岡 こういう内容を歌にするのって一番難しいと思うんですよ。ともすると痛い感じというか。でも自分がもし違う商売をやってたら……例えばお店に買い物に行ったら、みんなお客さん相手に商売しているわけで、お客さんへの感謝の気持ちは誰にでも当てはまるんじゃないかと考えたらスラスラと出てきたんですよね。
──ともすればベタッとしてしまう感情を、「昔の人みたいに言うよ これからも、『ご贔屓に』」という、ちょっと脱力したような言葉で伝えるのが寺岡さんらしいなあと。
寺岡 「ファン」という言葉を調べたら「ご贔屓」って出てきたんですよ(笑)。日本語っていいなって思ったんですよね、改めて。
──しかも、常に応援している人だけがファンじゃなく、「いつしか離れたり また戻ってきたり」というはかない関係性も含めてのファン、ご贔屓であると歌っているのがすごく誠実だと思ったんですよね。
寺岡 それはね、スターダストレビューのライブに行ったときに(根本)要さんが言ってたんですよ。「僕らのライブに毎回来なくていいです。どんどんほかのライブに行ってください。で、またもし気になったらぜひ来てください。それが音楽業界を活性化させるんです。僕らはずっとやってますから」って。そんなこと言えるってすごいなと。だからそこの歌詞はある意味、要さんとの共作ですね(笑)。
まだドキドキしながら音楽をやれている
──桜井さんが今回のアルバムの中で特に気になる曲はありますか?
桜井 僕「青山通り」が好きなんだよね。
──「青山通り」もAOR的な雰囲気がありますよね。
寺岡 これも自分の中の80'sブームというか、一時期ちょっとダサいとされたものが今いいなっていう自分の中のブームを、自分の作品でなら自由にやれるかなって。桜井の曲って、1曲の中で突然ビュッと次元を飛び越えて、視線がミニマムなところから一気に壮大なものになったりするでしょ? その逆もあったり。「青山通り」はけっこうそれの影響を受けてるんだよ。「ディカプリオの出世作」から始まって大きな問題提起に広がるみたいに、スタジオ明けの青山通りから入って宇宙まで行くみたいな(笑)。
──なるほど(笑)。
寺岡 そうやって「自分だったらどう表現できるかな」ってやれる間は、まだドキドキしながら音楽をやれている証拠だと思っていて。自分の作品を作るのは、その確認作業と言いますか。
──そのドキドキがなくなってしまうんじゃないかという恐怖も?
寺岡 それは常にありますよ。だから言葉にして言うんですよ。「いつまでも青臭く生きたい」って。本当にそうなってるのかなっていつも考えますね。そういうときに友達の音楽を聴いて、ああ桜井もまだドキドキしながらやってるなと確認できるとこちらも勇気が湧くし。
桜井 呼人くん、アレンジするときはさ、自分でイメージしたものと完成型がズレてないでしょ。表現したい通りに楽器が鳴ってるみたいな。寺岡呼人という人の音楽がどんどん明確になってきてるんだなあっていう感じはしたな。
寺岡 うん。でもソロになりたての頃はそれが全然わかんなくて、わけがわかんないままイメージしたものをぶち込んでたんだけど、だんだんそういうテクニックは身に付いてきて、音を埋めすぎなくてもイメージ通りにできるようになってきたかもしれない。
“寺井”で「ジョンの魂」を
──いち音楽家として、またプロデューサーとして、この先の目標や大きな野望はありますか?
寺岡 野望というほどのことはないんですけど……人と何かをやるなんて誰でもできると思ってたし、それこそ「人を呼びますね」と言われても「いや人を呼ぶ人なんて世の中にいっぱいいるし」と思ってたけど、20年やってみると、僕は僕なりの役割というのがあるんだなって実感はあるんですよ。結果は二の次三の次ですけど、自分なりの「これやったら面白そうだよね」という感覚は常に持って、貪欲に行きたいと思いますね。
──ちなみに、寺岡さん桜井さんの2人だけでがっつり何かを作るとしたら、どんなものになりそうですか?
寺岡 ……寺井?
桜井 あはははははは(笑)。
──もし“寺井”をやるとしたらどんな音楽でしょう?
寺岡 寺井にすべきかわかんないけど、桜井には「ジョンの魂」みたいな作品を作ってもらいたいと思ってるんですよね。例えば楽器も全部桜井にやってもらって、超シンプルな音で。自伝的な要素もあるような、肌触りとしての「ジョンの魂」みたいな作品が聴いてみたい。で、それをやるなら絶対に僕が手伝いたい。それ「寺井」じゃ売れなさそうだから名前はちゃんと考えないとなあ(笑)。
──桜井さんとしてはそのアイデアいかがですか?
桜井 どうだろうなあ。僕はバンドだからこそやれてるけど、自分1人で内面を吐露するのは怖いですね。
寺岡 そうかあ。そこはじゃあ……やらせましょうか(笑)。
──それでは最後に。お2人それぞれ、お互いにどういうアーティストでいてほしいですか?
桜井 呼人くんは変わり続けていながらも、どんどん完成型に近付いていると思うんですよ。その両者のバランスを取りながら、常に探究心を失わない呼人くんでいてほしいですね。
寺岡 僕も同じですよ。ピカソが亡くなるまで芸術に対して貪欲だったように……どうしたってお互いどんどん劣化していくと思うんです。体力だって落ちてくると思うし。そんな中でも、ものを作る喜びやドキドキの炎だけはどんどん大きくなるような、そんな姿を見ていたいですね。
- ニューアルバム「Baton」/ 2014年9月23日発売 / TOWER RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3900円 / TRJC-1036
- 通常盤 [CD] 3100円 / TRJC-1037
CD収録曲
- 流星
- BLOOD, SWEAT&LOVE
- バックミラー
- バトン
- Departure
- Japan As No.1!!
- 青山通り
- Gear~歯車~
- 天職
- スマイル
- ご贔屓に
初回限定盤DVD収録内容
Music Video
- バトン
- BLOOD, SWEAT&LOVE
2014.2.8「MASTER PIECE」@赤坂BLITZ
- ブランニュージェネレーション
- 競争る為に生まれてきた訳じゃねぇ
- スマイル
- バトン
- スーパースター
寺岡呼人(テラオカヨヒト)
1968年生まれ、広島県出身。1988~93年にJUN SKY WAKER(S)のベーシスト兼コンポーザーとして活躍し、バンドを脱退後はソロでの活動を展開するとともに、他アーティストのプロデュースも行うようになる。これまでゆず、矢野真紀、ミドリカワ書房、植村花菜、グッドモーニングアメリカらのプロデュースを手がけている。2001年より、自身が尊敬するアーティストや親交あるアーティストをゲストに迎えコラボレーションを行うイベント「Golden Circle」を不定期に開催。ソロデビュー20周年を迎えた2013年には、東京・日本武道館と大阪・大阪城ホールにて計4日間におよぶ「Golden Circle Vol.18 ~Yohito Teraoka 20th Anniversary Special~」を行った。2014年9月には通算14枚目となるオリジナルアルバム「Baton」をリリース。
桜井和寿(サクライカズトシ)
1989年に結成されたMr.Childrenのボーカリスト。ミニアルバム「Everything」で1992年5月にメジャーデビューを果たして以来徐々に人気を集め、1993年11月発売の4thシングル「CROSS ROAD」がバンドにとって初のミリオンヒットとなった。2014年にはGAKU-MCとのユニット・ウカスカジーを結成し、「2014 FIFAワールドカップ」の日本代表公式応援ソング「勝利の笑みを 君と」などの楽曲を発表。同年6月にリリースしたアルバム「AMIGO」には寺岡呼人、亀田誠治、布袋寅泰ら多数のアーティストが参加した。Mr.Childrenの新曲「足音 ~Be Strong」は10月スタートのフジテレビ開局55周年記念プロジェクトドラマ「信長協奏曲」の主題歌に決定している。