TENDOUJIの配信シングル「HEARTBEAT」が2月14日、「SUPER SMASHING GREAT」が4月17日にリリースされた。
「FUJI ROCK FESTIVAL」「VIVA LA ROCK」など数多くのフェスでパフォーマンスを繰り広げ、過去にはアメリカ・テキサス州オースティンで行われている世界最大規模のイベント「SXSW」に出演するなど、国内に留まらない活動を展開しているTENDOUJI。「HEARTBEAT」はパンキッシュなアレンジで高揚感あふれるパーティチューン、「SUPER SMASHING GREAT」はメンバーが多大な影響を受けたグランジロックを基調にしつつ、グルーヴィなアナログシンセの音色を前面に押し出したダンスナンバーとなっている。さらに6月発売予定のCD盤にはボーナストラックとして、2月に東京・LIQUIDROOMで行われた全国ツアー「TENDOUJI TOUR PINEAPPLE 2019-2020」ファイナル公演のライブ音源が収められる。
音楽ナタリーではこのシングルの発売を記念し、モリタナオヒコ(Vo, G)とアサノケンジ(Vo, G)に各楽曲制作時のエピソードや「TENDOUJI TOUR PINEAPPLE 2019-2020」ファイナル公演について語ってもらった。
取材・文 / 天野史彬 撮影 / 南阿沙美
いい曲を作るための意識
──シングル「HEARTBEAT」「SUPER SMASHING GREAT」の2曲はどちらも音が細かく構築されていて、バンドの音作りに向き合う意識の変化を感じさせますね。
アサノケンジ(Vo, G) 今までは同期を入れないこと、ライブでそのまま表現できることにロマンを求めていたし、こだわっていた部分もあったんですけど、今回はシンセベースの音など使っているんですよ。それはもう単純に、曲にマッチするいい音だから入れたって感じで、これまで自分たちが設けていた制限を外したんです。どの曲もできる限りいいものになるようアプローチする方向に意識が切り替わった感じはありますね。
──楽曲至上主義的なスタンスというか。
モリタナオヒコ(Vo, G) 単純に成長したなって思います。変化というよりは進化みたいな感じ。そもそも俺らは楽器の専門知識があまりなかったし、歌詞も最初はめっちゃ適当に書いていたんですよ。結成したての頃から日本の音楽シーンに対するカウンター意識はあったけど、それ以外には「自分たちはこうあるべきだ」とか、「こんなことを伝えたい」っていうものが1つもなかったんです。ただ楽しければいいというか。
──なるほど。
モリタ でも、この数年でいろんなことを知ったし、たくさんのミュージシャンと交流したことで吸収したものもあるし。最初はプロデューサーもいなかったけど、今は片寄(明人)さんをはじめ、いろんな人が俺たちをフォローしてくれています。作る曲もおのずといいものになっていったし、伝えたいメッセージも生まれたんです。やっぱり聴いてくれる人が多くなったり、世の中が変わっていったことで、感じることも増えたんでしょうね。
俺がカッコいいと思う「HEARTBEAT」はこれだ
──2曲ともモリタさんが作詞・作曲を担当していますけど、どちらも発信する側や受け取る側だけでなく、さまざまな視点から“バンド”という存在について歌われた曲のように思えました。「HEARTBEAT」はどのようにして生まれたんですか?
モリタ 「HEARTBEAT」というタイトルの曲ってけっこうあるんですけど、あんまり「いいな」と思えるものがなくて。それなら「俺が一番カッコいい『HEARTBEAT』を作ってやろう」と考えたんです。でもベタなタイトルだからこそ、過去のグランジロックやパンクの形式にとらわれない曲を作りたかった。
──そもそも「HEARTBEAT」という言葉は、モリタさんにとって大切なものだったんですか?
モリタ 俺が「HEARTBEAT」と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、Hermann H.&The Pacemakersのアルバム「PINKIE'S ROCK SHOW」の1曲目「悲しみとハートビート」なんです。このアルバムが大好きなんですけど、「悲しみとハートビート」の存在が自分の中にすごくこびり付いていて。あとは街の看板でも「HEARTBEAT」と書いてあると、「なんか目につくな」みたいに思ったり。昔からずっと気になっていたワードだったんですよ。
昔の自分みたいなやつに伝えたいメッセージ
──「HEARTBEAT」の歌詞は“解放”をテーマに掲げ、自分自身を苦しめるしがらみから解放される瞬間を歌っているように感じたんです。どこか聴き手に語りかけているようにも聴こえるし、自分自身に言い聞かせているようにも聴こえました。
モリタ 確かに、過去の自分に向けて歌っている部分はあるかもしれないです。俺はバンドを始めるのが遅くて、TENDOUJI結成前は普通に仕事をしていたんです。でも、その仕事が全然楽しくなくて。バンドをやりたい気持ちをずっと我慢しながら生活していたんですよね。それで一番つらくなった28歳の頃、仕事を辞めてバンドを始めたらすごくスッキリしたんですよ。その歳でバンドを始めるって、珍しいことじゃないですか?
──そうですね。
モリタ 成功できるなんて思っていなかったけど、好きなことをやったり、目標があると、おのずと人生はいい方向に向かっていく。そういうことはバンドをやっていて実感できました。きっと昔の自分に似た人って、今の日本にいっぱいいると思うんですよ。特に日本は縦社会だから、会社で自分の意見が言えなかったりする人も多いだろうし。「HEARTBEAT」ではそういう人たちに向けて、「自分を解放すると、意外といいことあるぞ」と言いたかったんですよね。
──「過去の自分のような人は、今の日本にたくさんいる」ということは、確信的にそう思いますか?
モリタ そうですね。会社で働いている人はわかるかもしれないけど、上司とかよく「もっと自由にやればいいじゃん」みたいに言ってくるんですよ……「お前のせいでできないんだよ!」って反論したくなりますよね(笑)。日本だけの話じゃないのかもしれないですけど、働いてた頃は「出る杭は打たれるんだ」と感じることが多かったから、若い子がフリーで活動しているのはすごくいいことだと思う。そんな子が活動しやすい環境が生まれてほしいですよね。
──今のモリタさんの話に関して、アサノさんは何か思うところはありますか?
アサノ 俺はずっとバイトしていて、正社員として働いたことがないんですよ。だからナオと俺だと、自分自身の過去に対する捉え方は違うかも。TENDOUJIのメンバーがいたからまだ遊べていたけど、どちらかというと引きこもり側の人間だし。
──なるほど。
アサノ だから俺は「HEARTBEAT」みたいな、誰かに訴えかけるような歌詞は書けないんです。でも歌は響くやつには響くけど、全然響かない人もいるじゃないですか。だから無理やり人に訴えかけるような曲を書きたくないんです。俺は俺で、人生で初めて曲を書いたときの気持ちを持ち続けたい。ナオが作る曲とは違う作風になるけど、それがソングライターが1人だけじゃないバンドの強みになると考えるんですよね。伝えたいメッセージを1つに絞らないってことだから。
──さまざまな感情の置き場所が、バンドの中に生まれるということですもんね。
アサノ そこは俺がこのバンドで背負っている部分です。もちろん昔のナオみたいなやつがいっぱいいることもわかる。だからこそナオはその部分を背負って曲を書くべきだし、めちゃくちゃいいことだと思いますね。
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曲作りは「自分が感じてきたこと」を表現する手段