TENDOUJI|俺らが伝えたい音楽、メッセージ、人

曲作りは「自分が感じてきたこと」を表現する手段

──モリタさんは、アサノさんとの作家性の違いを意識することはありますか?

モリタナオヒコ(Vo, G)

モリタ いや、ないですね。レコーディングまでお互い歌詞は見ないです。でも、ケンジとは中学生の頃からずっと一緒にいるから、「こういう歌詞を書いただろうな」ってだいたいわかるんですよ。何か強要することもないし。例えば「俺がこういうテーマで曲を作りたいから、お前らも合わせろ!」と言ってみたところで、そうなるわけないんです。別に言葉にしなくても、曲を作った人の感情が自然と乗っかればいいし、実際そうなるものだから。ライブで演奏すると、不思議とそういうパワーが生まれるんですよ。

アサノ 確かにそうだね。

モリタ 曲には作ったメンバーの人柄が出るし、いいバンドならその部分をしっかり表現できるはずなので、あえて意識することはないです。

──「曲には人柄が出る」というのは、まさにTENDOUJIの楽曲を聴いていて感じます。その音楽を作った人がどう生きてきたかという足跡、いわば人生がTENDOUJIの音楽からにじみ出ているんですよね。

モリタ 少なくとも俺は、曲でウソはつけないです。

アサノ 曲を作るのは、「自分がこれまで感じてきたこと」を表現する手段だと思うんですよ。だからこそ説得力が生まれるんでしょうね。

そのワードは「めっちゃいいね!」

──「SUPER SMASHING GREAT」はタイトルからして強烈ですね。

モリタ これはスラングというか、アメリカの古いドラマでよく使われていた言葉で、「めっちゃいいね!」「まさにその通り!」みたいなニュアンスで使うらしいです。その意味とワードセンスがすごくいいなと思って、これをタイトルにしたシングル曲を作りたかったんです。

──全肯定的なニュアンスのある言葉なんですね。「HEARTBEAT」もそうですけど、モリタさんはタイトルからイメージを決めていくことが多いですか?

モリタ そうですね。思い返すと、自分が好きなオリジナル曲はタイトルから作ったものが多いです。いいタイトルが思い浮かぶと、すぐにサウンドのアイデアも生まれるんですよ。

──音楽的には、どんなことを意識されましたか?

モリタ この曲はタイトル含め、自分のやりたいことを詰め込みたくて。その中でも「単語をたくさん使う」ことは意識したんですよね。ある譜割りに対して普通は2つのワードでまとめるところを、あえて5つ入れて早口で歌ってみたり。これはVampire Weekendからの影響が強いと思うんですけど、その特性がめっちゃ出てます。

──歌詞は恋愛をモチーフにしていると思ったのですが、ポジティブで全能感のある状態から始まって、段々と暗くなっていくというか、無力感に苛まれていく流れが印象的でした。

モリタ 俺の書く歌詞は恋愛の歌が多いですね。あとは過去のことをよく思い出しちゃって。「SUPER SMASHING GREAT」を作ったときは1週間誰ともしゃべらず、音楽ばっかり聴いていた頃の恋愛を思い出したんですけど、その恋は成就しなかったんですよね。そういうフラッシュバックをそのまま曲に詰め込んじゃってます。それからこの2曲は、俺のフラストレーションが反映されているんです。何歳になっても「なんか納得いかないな」「本当はこんなはずじゃないのに」とか、ずっとイライラしているんですよ。

──そのフラストレーションは、簡単に忘れることはできない?

モリタ 忘れられないし、当時の自分の感情を忘れたくないなとも思う。今までの感情を思い出せなくなったら、バンドをやる意味もなくなってしまう気がするんです。

左からモリタナオヒコ(Vo, G)、アサノケンジ(Vo, G)。

影響を受けたバンドをちゃんと伝えないといけない

──「SUPER SMASHING GREAT」の歌詞にはThe ClashやBuzzcocksといったバンド名が出てきますよね。

モリタ 俺たちのことが好きな人に、The ClashやBuzzcocksの存在を知ってほしかったんです。素晴らしいバンドの音楽はちゃんと聴かれ続けていくべきだし、誰かが伝えなきゃいけないと思うんですよね。音楽業界に関わっている人からしたらThe ClashやBuzzcocksは知ってて当たり前かもしれないけど、リスナーの中には知らない人のほうが多いはずで。それに最近、俺らが影響を受けたバンドの魅力を、若い子に伝えられていない気がするんですよ。ちゃんと継承されていないというか……。

──僕らのような音楽メディアに携わる人たちの責任も大きいと思うんですけど、継承されていないという実感はわかります。

モリタ これは音楽だけじゃなくて、映画や絵とかもそうですよね。

アサノ 俺らから言わないと、過去の音楽を掘る機会も減るだろうし。

モリタ The Beatlesの曲すら知らない人も多いんじゃないかな? そういうことは最近すごく考えますね。

──The ClashとBuzzcocksは1970年代に活躍したパンクバンドですが、このあたりの影響は大きいですか?

モリタ メンバー全員、これまで聴いてきた音楽が違うんですけど、俺はめちゃくちゃ影響を受けました。高校生のときグランジにハマって、もっと荒々しいもの、もっと汚いものが聴きたくなって、大学生の頃に1970年代のパンクを聴き始めたんです。The ClashとBuzzcocks以外にもリチャード・ヘルやTelevision、もっとさかのぼってThe Velvet Undergroundなんかも大好きでした。そういう音楽に浸かって生きてきたので、今でもThe Clashのライブ映像を観るとドキドキしますね。あと、パンクに出会ったのは銀杏BOYZの影響も大きいかもしれない。銀杏BOYZは俺に「こういう音楽はカッコいいぞ」と教えてくれた存在で。

──銀杏BOYZの「トラッシュ」の歌詞にもBuzzcocksの名前が出てきたし、そもそも銀杏BOYZの前身・GOING STEADYというバンド名も、Buzzcocksのベスト盤のタイトルからきているんですよね。僕もBuzzcocksは銀杏BOYZを通して知りました。

モリタ ホントですか。俺もです(笑)。今でこそサブスクのプレイリストでミュージシャンが好きな音楽を知ることができるけど、当時はそういう情報自体が貴重だったんですよね。そういう意味でも銀杏BOYZの存在はすごく大きかったです。

アサノケンジ(Vo, G)

──雑誌とかに載っていた、峯田和伸さんの部屋に憧れたりしましたね。レコードがいっぱいあって。

モリタ 自分の部屋もあんな感じにしたくて、無理やりレコードを買ってましたね(笑)。好きなものってつながっていて、「この人たちもあのバンドが好きだったのか」みたいな発見がありますよね。たまたまジャケ買いしたアルバムのプロデューサーが好きなバンドと一緒だったり、さかのぼっていくうちNirvanaとのつながりを知ったり。そういう現象が大好きでした。買った当時は魅力がわからなかったものもあったけど、今は全部無駄じゃなかったなって思います。

アサノ 俺は1970年代のパンクはそこまで詳しくないんですけど、The ClashやBuzzcocksはもちろん聴いてますし、パティ・スミスがめっちゃ好きでしたね。The Clashもだし、品のあるパンクは好きです。

──The Clashはレゲエを取り入れたり、音楽性も実験性にあふれていますよね。

アサノ そうそう。そういうところもいいですよね。パンクという言葉の意味合いは好きですけど、言葉の表面だけなぞったようなバンドは苦手で、積極的に手を出さなかったですね。

モリタ 確かに俺も、ピストルズのコスプレみたいなパンクスはすごく嫌いだったな。