音楽ナタリー PowerPush - TeddyLoid

“無冠の若き帝王”を徹底解剖

「これ、プログレだね」

──“TeddyLoid第2章”はまずTeddyさんの誕生日(2013年8月23日)に、「BLACK MOON RISING」と題した15分にもおよぶ楽曲を無料配信するところからスタートしました。

TeddyLoid

それもフリーで活動していたからできたことであって。海外では新曲のフリーダウンロードってけっこうポピュラーですけど、まだ国内ではネットレーベルやヒップホップの方を除いてまだそこまで浸透してないと思うんです。tofubeatsくんとか、ヒップホップの若手の方々はカッコいい作品を完成させたら、数十分後にはインターネットにアップしている。そういう人たちの勢いに勝つにはどうしようかと考えて、だったら自分もフリーダウンロードしちゃえって思い付いたんです。で、普通にやるのは面白くないなと考えて15分もある、それこそシンフォニーと言えるような作品を発表したら世界的にもあんまり例がないんじゃないかなと思いまして、チャレンジしてみました。

──その発想がすごいですよね(笑)。

頭の中でイメージしたものをどんどん形にしていったら15分になったんです(笑)。もちろん難しかったですけど、とても意欲的なものができたと感じてます。

──クラブミュージックで10分、15分の楽曲というと、同じビート、同じフレーズがシーケンスされた、踊らせることを前提としたトラックを思い浮かべますが。

そうですよね。おっしゃるとおりです。

──でもこの作品はそことは視点が違いますよね。

ある方に「これ、プログレだね」って言われたんですよ(笑)。

──そう、僕もまったく同じことを思ったんですよ(笑)。プログレッシブロックって70年代が全盛で今では時代遅れな印象がありますけど、実はクラブミュージックって現代的なプログレなんじゃないかと個人的には思っていて。最先端のサウンドで、一筋縄ではいかない複雑なこともやっていたりするのに、ポピュラリティのあるメロディが備わっているところも共通してるかなと。

ああ、なるほど。確かにそうですね。けっこうシンセソロも入ってますし。うん、鋭いですね。

単独作品制作のきっかけは「ももクロの西武ドーム」

──2008年にTeddyLoidとしての活動が始まってから、これまでに自身の作品を発表するチャンスは何度かあったと思うんですが、どうしてここまでリリースされることがなかったんですか?

それはちょっと理由がありまして。ダンスミュージックシーンでSFや宇宙をテーマにした作品ってけっこうポピュラーですけど、ビジュアルやアートワークという点では似たり寄ったりのものが多くて、どうしたらオリジナリティのあるものが作れるのかずっと悩んでいました。実は去年のももいろクローバーZさんの西武ドームでのライブで、僕はオープニングと曲中でDJをやらせてもらったんですけど(参照:ミヒマル&こうせつも登場!ももクロ「春の一大事」1日目 / しげる!香美!冬美!ももクロ「春の一大事」怒濤の2日目)、そのときのステージがけっこう高い位置で。で、ドーム内がキレイな照明で染まっていく景色を目にしたとき、真っ白な宇宙と黒い月っていうイメージがパッと思い浮かんだんです。「あ、この経験をもとに、今までにない幻想的でオリジナリティのあるストーリーや楽曲を作れるんじゃないかな?」って思ったんですよね。

──じゃあそれまでは「これだ!」と確信を持てるきっかけがなかった?

はい。やっぱり難しかったですね。自分の曲も当時Myspaceで発表はしていたんですけど、やっぱり「これぞ!」というものがなくて。なのでももクロさんのライブ時のインスピレーションがきっかけになって、去年の誕生日から始めた「BLACK MOON RISING」っていうプロジェクトでは本当にそのときのベストを尽くせたと思ってます。

──そして去年の誕生日から毎月のように新曲を発表していきます。

15分の大作から一部を切り落として、それをエクステンドして発表していきました。最終的には8カ月間コンスタントに楽曲を届けることができたんです。僕に興味を持った人がパソコンやスマホを開いて、気軽に曲を聴ける、ダウンロードできるのはいいですよね。

──ほかのアーティストの楽曲を手がける場合と自分の曲を作る場合、どういったところに違いを感じましたか?

今までは自分以外のことばっかりやってたから誰かに相談することができたし、客観的に見ることができたんです。でも今回自分のオリジナル作品を作る上でわかったのは、自分の曲を作るのって感情がダイレクトに出るぶん、すごく難しいなっていうこと。しかも今回の「BLACK MOON RISING」プロジェクトでは演奏から歌、ミックス、マスタリングまで、すべて自分で行ったんですね。なので本当に自分の中で終わり決めないと、こだわり出したらキリがなくていつまで経っても作業が終わらないんです(笑)。

ストーンズの歌詞やサウンドがコンセプトと合った

──アルバム「BLACK MOON RISING」に先がけて8月27日にリリースされるワンコインCD「UNDER THE BLACK MOON」は、500円なのにものすごいボリュームですよね。

はははは(笑)。そうですね。無料配信した曲も入ってるんですけど改めてミックスしてるので、実は少し変わってるとこもあるんですよ。

──「BLACK MOON RISING」のコンセプトに沿った、アルバムの序章的な作品になるわけですが、いきなりThe Rolling Stones「2000光年のかなたに」のカバーから始まってビックリしました(笑)。

これは黒い月のドーム内にいるTeddy少年は60年代、70年代のレコードやVHSビデオを聴いたり観たりして生活している、というストーリーからインスピレーションを受けてカバーしたんです。実は僕自身、ストーンズってあんまり聴いたことがなくて(笑)。

──あ、そうだったんですね。

TeddyLoid

両親がとてもロックンロールが好きで、常に家の中ではロカビリーが流れてはいたんですけど、今回はマネージャーに「こういうのも面白いんじゃない?」って、デヴィッド・ボウイやPink Floyd、P-Funkといった宇宙をテーマにしたロッククラシックをいろいろ聴かせてもらって。その中から「2000光年のかなたに」の歌詞やサウンドがTeddyLoidのコンセプトと合うなと感じて、カバーしてみようかと思ったんです。

──にしても、ストーンズの楽曲の中でもかなりマニアックな楽曲ですよね。

あははは(笑)。そうですよね。僕も全然知らなかったですし。

──カバー曲ですけど、ちゃんとアルバム本編への序章として成立しているし、しっかり意味あるものになったなと思います。

ありがとうございます。この曲では新しいことにもたくさんトライしていて、例えばリズムトラックは生ドラムの音をサンプリングしたものを使っていたり、モーグシンセサイザーみたいに60~70年代のオルガンの音を入れていたり、ビンテージサウンドを意識したものになっているんです。

──確かにTeddyさんのカバーバージョンは原曲に忠実な仕上がりですよね。

そうですね。そこはすごく意識しました。

──このあとに続くオリジナル曲とまた違った色合いを持っているのに、シングルとしてちゃんと統一感がある。

そう言っていただけてうれしいですね。実は「2000光年のかなたに」だけはテープシミュレーターで1回テープに落としてからマスタリングをするっていう、ちょっとしたこだわりを持って仕上げたんですよ(笑)。

ワンコインCD「UNDER THE BLACK MOON」 / 2014年8月27日発売 / 500円 / EVIL LINE RECORDS / KICS-93102
ワンコインCD「UNDER THE BLACK MOON」
収録曲
  1. 2000光年のかなたに
  2. BLACK MOON RISING pt.3
  3. BLACK MOON RISING pt.4
  4. BLACK MOON RISING pt.5
  5. FOREVER LOVE
1stアルバム「BLACK MOON RISING」 / 2014年9月17日発売 / EVIL LINE RECORDS
1stアルバム「BLACK MOON RISING」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3240円 / KICS-93103
通常盤 [CD] / 2700円 / KICS-3103
TeddyLoid(テディロイド)

1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行した。2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)とともにテレビアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成し、アルバムを発表した。またSOUL'd OUTのツアーではスクラッチDJとしてのテクニックも披露している。2013年にはももいろクローバーZの楽曲「Neo STARGATE」でアレンジを担当したほか、同年4月の「ももいろクローバーZ 春の一大事 2013 西武ドーム大会」ではDJとしてもライブに参加。さらにMEGやマドモアゼル・ユリア、TEMPURA KIDZ、Yun*chi、the GazettE、SuGなどさまざまなジャンルのアーティストの楽曲プロデュースやアレンジ、リミックスを手がけている。2013年8月からは自身のオフィシャルサイトで、「BLACK MOON RISING」と銘打たれた連作を発表。2014年7月にキングレコードの新レーベル「EVIL LINE RECORDS」とのアーティスト契約を発表し、翌8月にワンコインCD「UNDER THE BLACK MOON」、9月に初のオリジナルアルバム「BLACK MOON RISING」をリリースする。