世界中のDJがプレイする現場で使われ続けるTechnicsのターンテーブル「SL-1200MK」シリーズの最新モデル「SL-1200MK7」。新開発されたダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシ、アップデートされたモーターのトルク制御など新たな特徴もある一方で、トーンアームや操作スイッチなどの配置は従来のモデルのレイアウトと操作感が踏襲されており、“継承と進化”が感じられるモデルとなっている。
この連載企画では無類のレコード好きとして知られるカクバリズム社長の角張渉をホストに迎え、所属アーティストとの対談を通して「SL-1200MK7」の魅力やレコードで音楽を聴く楽しみを紹介する。第1回のゲストは、角張同様にレコードを愛してやまない思い出野郎Aチームのマコイチこと高橋一(Trumpet, Vo)。彼が持参した2枚の愛聴盤と、思い出野郎Aチームの最新アルバム「Share the Light」のアナログ盤を「SL-1200MK7」で聴きながらトークを繰り広げてもらった。
構成 / 瀬下裕理 撮影 / 須田卓馬 動画撮影 / OUNCE
オリジナル盤は音圧があって、音質がいい
この連載ではカクバリズムのアーティストたちを招いて、毎回Technicsのターンテーブル「SL-1200MK7」を体験しながら、好きなレコードを聴いていこうと思います。
高橋一 「SL-1200MK7」! すごいですね。僕が使ってるのは「SL-1200MK3」ですもん(笑)。“3”で止まっちゃってる。
僕も同じですね。「ドラゴンクエスト」で言うと「ドラクエ3」で止まってる(笑)。さて今日はマコイチ(高橋一)くんに最新機種「SL-1200MK7」で聴きたいレコードを持ってきてもらいました。
高橋 迷ったんですが、今日はギル・スコット・ヘロン&ブライアン・ジャクソン「Winter in America」と、アルトン・エリス「Sings Rock And Soul」の2枚を持ってきました。
最高の2枚ですね。この2枚を選んだポイントは?
高橋 「Winter in America」は、お金がなかった学生時代に初めて買ったオリジナル盤のレコードなんですよ。リイシュー盤ではなくて。
これ大事だよね! 以前は中古レコード店でリイシュー盤と呼ばれる再発LPを1100円とか1200円とかで買えたわけです。オリジナル盤っていうのは最初にプレスされた、いわゆる“初版”のレコードを指すんだけど、それが中古でも高くて……でもその分、オリジナル盤は音圧もあって、音質がすごくよかったりするんだよね。
高橋 全然違います。僕は当時すでに、この「Winter in America」のリイシュー盤を持っていたんですけど、大好きなアルバムだったのでどうしてもオリジナル盤が欲しくて。初めてオリジナル盤に針を落としたとき、1曲目からフェンダー・ローズの音の違いが如実にわかって、「うわ、こんなに違うんだ!」みたいな。
リイシュー盤とオリジナル盤の音の違いにはびっくりするよね。
高橋 もう1枚の「Sings Rock And Soul」はジャマイカのロックステディの大名盤なんですけど、サブスクでは配信されてなくて。しかも再発盤のCDも廃盤になってる。
ロックステディやレゲエは、意外とCDもすぐ廃盤になっちゃうんだよね。
高橋 これもオリジナル盤なんですけど、60年代当時のジャマイカ録音の作品って、決して鮮明な音質ではないものの独特の味があるんです。レコードで聴くと本当に染みるというか。アルトンの声もすごくいい歪み方をしているので、今日は「SL-1200MK7」でそういう部分も聴いてみたいなと……ちなみにこれジャマイカ盤なんですけど、角張さんは昔から「ジャマイカ盤は修行」って言ってるじゃないですか。当たり外れがあるから。これも2枚買ったうちのまともな1枚です(笑)。
そうそう! ジャマイカ盤は修行ですね(笑)。僕もCarlton & The Shoesのジャマイカ盤を4枚くらい買ったんですけど、中にはラベルの穴がずれてるものがあったりして……そうすると音が波紋のようになる。
高橋 ちゃんと回らなかったりしますよね。僕もそういう盤はダンボールで補強したりしてますもん。
初めて買った「SL-1200MK3」でレコード熱が加速
マコイチくんは普段、家でレコードをどんなふうに聴いているんですか? ここ最近はコロナウイルスの影響で自宅にいることが多かったと思うけど。
高橋 自粛期間が長かったので、制作も家でやらなきゃと思って防音材とか、けっこういっぱい買ったんですよ。
マコイチくんのInstagramを見たらわかると思いますけど、けっこうすごいんですよね。床までやってたでしょ?(笑)
高橋 はい、床に防音カーペットみたいなものを敷いてますね。自粛期間中は周囲に音が漏れないように吸音性があるものを買ったんですけど、その部屋でレコードを聴いてみたら今までより圧倒的に音がよくなったんですよ。
へえ!
高橋 コンクリート建ての部屋って普通は音が反響するじゃないですか。それが防音材に吸収されたのか、レコードの音がめちゃくちゃよく聞こえるようになったんです。最近は夜中、作業部屋で椅子に座ってお酒を飲みながら粛々とレコードを聴いていて。昔買ったレコードを引っ張り出してきて、改めて「いいなあ」と思ったりしてます。
環境が変わると昔聴いた音が違って聞こえるよね。ターンテーブルや針をいいものに変えると、今までまったく聞こえなかった音が聞こえたりする。「こんな音入ってたの?」というレベルで。
高橋 そういうことありますよね。僕も最初は安いポータブルタイプのターンテーブルでレコードを聴き始めましたが、初めてTechnicsの「SL-1200MK3」でレコードを聴いたときは音が全然違いましたね……忖度じゃないですけど(笑)。
わかるなあ。初めて聴いたときうれしくなったよね。
高橋 はい。やっぱりいい音で聴けることがわかると、レコード熱が加速するんですよね。どんどんレコードを買っちゃう。
買っちゃうね。いい言葉だね、“加速する”って(笑)。
高橋 ははは(笑)。そんな思い出がありました。
「SL-1200MK」シリーズは“一生モン”感がある
Technics「SL-1200MK」シリーズは、僕らが持ってる「SL-1200MK3」から20年以上の年月を経て最新機種「SL-1200MK7」まで進化したわけですが、もともと僕はカクバリズムの事務所を引っ越すタイミングで「SL-1200MK7」を買いたいと思ってたんです。人生のお供というか、ターンテーブルはちゃんしたものを買いたいんですよね。
高橋 確かに最近の家電製品とか、みんな壊れる前提でどんどん新しいものに買い替えていきますよね。でもそういう中で、このTechnics「SL-1200MK」シリーズは“一生モン”感がある、というかタフ。
ただTechnicsさんとしては、きっと最新機種に買い替えてほしいよね(笑)。
高橋 ははは(笑)。我々もついつい「SL-1200MK3」を長く使い続けてきてしまいましたが、このタイミングで最新機種を買いたい欲はありますよね。
そうなんです! だから個人的にも今回の企画を楽しみにしてました。ではさっそくマコイチくんに持参してもらったレコードと、思い出野郎Aチームの最新アルバム「Share the Light」のアナログ盤を「SL-1200MK7」で聴いてみましょう。
高橋 (試聴に没頭しながら)音、いいっすね。
いいね。これならここでDJパーティできるかも(笑)。低音がグッと際立つから面白いね。
高橋 確かに。
(試聴を終え)さて今「SL-1200MK7」でレコードを聴きましたが、我々非常に盛り上がってしまいました。マコイチさん、改めて「SL-1200MK7」で「Share the Light」を聴いてみていかがでしたか?
高橋 すごく音が忠実というか、余計な色付けがない感じがしました。盤の特性がそのまま出ていていいですよね。あとボタンの押し心地が軽すぎず重すぎずちょうどいい。こういう部分ってDJにとってはけっこう大事だったりするんですよね。そういうTechnics独特の使用感が自分の体になじんでいるんだなと。
うんうん。僕が持参したトッド・ラングレンの「Something / Anything」も、「SL-1200MK7」で聴いてみたんですよね。昔から繰り返し聴いてる名盤ですけど、「SL-1200MK7」で聴いたら高揚感が増しました。「こんな感じに盛り上がるんだ!」と。「Share the Light」のアナログ盤もよかったですね!
高橋 そうなんですよ。今回すごくぜいたくにカッティングしたので。
今聴いてたら、低音のハネがすごく上品な感じがして。前作よりも全体的にサウンドのクオリティが向上していることがちゃんと伝わってきました(笑)。「Share the Light」は、皆さんにぜひレコードで聴いてもらいたいですね。
高橋 確かに、レコードで聴くと曲のよさがさらに出るなと思いました。
次のページ »
変わってほしくない部分は変わってない