高橋一(思い出野郎Aチーム)×岡部大(ハナコ)|同世代の2人が音楽と笑いで表現する“光を共有する方法”

1月に配信リリースされたシングル「ステップ」がテレビ東京のドラマ「デザイナー 渋井直人の休日」のオープニングテーマに使用され、夏には「FUJI ROCK FESTIVAL 2019」に出演を果たすなど、2019年を飛躍の年としている思い出野郎Aチーム。

その充実ぶりを作品に落とし込むかのように、3枚目のアルバムとなる「Share the Light」は、より多彩さを増した音楽性と、演奏力の向上によって、ダンスミュージックを生み出すソウルバンドとしての存在感をさらに高める、非常に濃厚で耐久性の高い1枚となった。とはいえ、そういった聴感のよさとは裏腹に、作中で語られるメッセージは、残酷な現実であったり、ネガティブな感情や怒りを表現する部分も非常に多い。しかし、ただひたすらに“悲しみ”を歌うのではなく、互いに光を分け与えて、その暗闇を共に抜け出そうという、“希望への処方箋”がしっかりとその中には輝く。そして、その美意識こそが思い出野郎Aチームの本質だとも感じさせられた。

今回のインタビューでは、思い出野郎Aチームがエンディングテーマおよび劇中音楽を単独公演に提供したコントグループ・ハナコから岡部大を迎え、ハナコと思い出野郎Aチームとの縁や関係性、お互いの魅力、そしてハナコが出演した「繋がったミュージック」のミュージックビデオ制作秘話まで、リーダーである“マコイチ”こと高橋一(思い出野郎Aチーム)とざっくばらんに語り合ってもらった。

取材・文 / 高木"JET"晋一郎 撮影 / 南阿沙美

マネージャーからの連絡に「ヤバい! 怒られる!」

──先日放送された「ハナコのオールナイトニッポン0(ZERO)」では、岡部さんのセレクションとして、思い出野郎Aチームの「夜のすべて」が番組のエンディングでオンエアされましたね。

岡部大(ハナコ)
高橋一(思い出野郎Aチーム)

岡部大 メンバーが1人1曲、好きな曲を流せるってことだったので、僕は「夜のすべて」がぴったりだなと思って選んだんですよね。本当は番組の1曲目にかける予定だったんですけど、菊田(竜大)のチョイスが、はなわさんの「佐賀県」で、曲自体のインパクトが強すぎるし、番組の最後とか途中じゃ内容的に成立しなくなっちゃって(笑)。それで「夜のすべて」がラストソングになったんですよね。

高橋一 だいぶ夜も深まりすぎた時間に。

岡部 もう明け方でしたね(笑)。

──素敵な終わり方だったと思います。もともと思い出野郎Aチームとハナコのつながりはどのように始まったんですか?

高橋 最初は僕がTwitterで思い出野郎のことをエゴサーチしてたら、「ハナコが思い出野郎の曲を使った」っていうコメントがちょこちょこ流れてて。それでよく調べたら、ハナコさんが単独ライブ(2018年11月開催のハナコ第三回単独ライブ「タロウ3」)のエンディングで、僕らの「ダンスには間に合う」という曲を使ってくれているということがわかって。メンバーもハナコさんのコントが好きだし、これも何かの縁なので、マネージャーのタッツくんに連絡してもらったんですよね。

岡部 ハナコの単独公演は、僕が客入れからエンディングまで使う曲を考えてるんですけど、思い出さんの曲は、秋山(寛貴)も菊田もすごく気に入ってくれていて。ただ、なんの許可も得ないで使ってたので、タッツさんから「マネージャーです」というメールが来たときは、正直ピリッとしましたね。「ヤバい! 怒られる!」って(笑)。

高橋 そうだったんですか。僕らは「ありがとうございます!」っていう感じだったんだけど。

岡部 メールの内容が「使っていただいてありがとうございます」だったんで、「よかったー」って(笑)。しかも「これも何かのご縁なので、ご協力できることがあれば」って、めちゃくちゃうれしいことが書いてあって。

岡部を巡る思い出野郎 or ネバヤン論争

高橋 それで、次の単独公演にはオリジナル楽曲を提供しますという話になったんです。その打ち合わせの前に、chelmicoのMamikoちゃんから「岡部さんも交えて飲むんですけど」と誘ってもらって、その飲み会が初対面だったんですよね。もうひたっすら飲んで、打ち合わせとか音楽の話は全然しなかった(笑)。

岡部 あの日はベロベロになったなー。「今日は仕事の話はなしで!」って(笑)。

高橋 それで俺らはベロベロになっちゃったんだけど、Mamikoちゃんだけ潰れなくて、「岡部さんはこれから収録ですよね!」って、明け方にタクシーに押し込んで(笑)。

──Mamikoさんのお笑い好きは有名ですが、芸人さんのスケジュールまで把握しながら飲んでると(笑)。

高橋 そんな流れがあって、ハナコさんの単独公演「タロウ4」の音楽を正式にやらせてもらうことになったんですけど、ちょうど今回のアルバムを作り始めるタイミングでもあったんで、その時点で進めてたオケのストックだったり、断片的にできてる曲を岡部さんに送って、「この中で使いたい曲があったら、制作を進めます」って伝えたんですよ。その中には「繋がったミュージック」のデモもあって、「この曲をエンディングで使いたいです」って返ってきたので、その曲の制作をまず進めていって。

岡部 まだ未完成の、自分しか聴けない音源を聴けるのって、めちゃくちゃ興奮したし、完成版を聴いたらもっとよくなってて……もう……とにかく感動でしたね……。

左から高橋一(思い出野郎Aチーム)、岡部大(ハナコ)。

──今めっちゃしみじみしましたね(笑)。

岡部 実際に単独公演のネタ終わりでスパッと「繋がったミュージック」が流れた瞬間は本当に気持ちよかったですね。こんな流れが生まれるんだから、勝手に曲を使ってみるもんだな、と(笑)。

高橋 僕らも単独公演を拝見して、内容ももちろん面白かったし、自分たちの曲がこういう感じに聴こえるんだという驚きもあって。

岡部 いやー、ありがとうございました。

高橋 ただ、岡部さんは大きい仕事のときはnever young beachのTシャツをよく着てるなと(笑)。

岡部 いやいや! あのー……はい(笑)。

高橋 メンバーの中でも、「この前のテレビではネバヤンTだったね」って話題になります(笑)。

岡部 思い出さんのTシャツも、カクバリズムデリバリー(通販)で注文してるんですよ! すぐチェックしないと売り切れちゃうから、通知が来るようにもしていて。普段は思い出野郎のTシャツを多めに着てるんですけど、お仕事のときはネバヤンの熊のキャラクターが入ったTシャツが、ちょっとポップかなと(笑)。

──SNSで検索すると、岡部さんが思い出野郎かネバヤンのどっちのTシャツを着てるかについて、ファンの方がけっこう言及されてて。

岡部 「岡部は浮気しまくってるな」とか書かれたり(笑)。

「週末はソウルバンド」で放心状態に

高橋 でも、僕らもネバヤンもけっこうな音楽好きが好むようなグループだと思うんですが、音楽は昔から聴かれてたんですか?

岡部 音楽自体はずっと好きで、中高の頃とかはRIP SLYMEやケツメイシ、サンボマスター、ウルフルズをよく聴いてましたね。

高橋 岡部さんっておいくつなんでしたっけ?

岡部 今、30歳ですね。

高橋 僕は33歳なんで、ほぼ同世代だし、その感じはわかりますね。

岡部 ミーハーっちゃミーハーだったんですけど、芸人を始めて、単独ライブとかで自由に音楽を流せるようになってから、改めていろんな音楽を雑食的に聴くようになったんですよね。同期で「男性ブランコ」っていうコンビがいるんですけど、彼らは音楽が好きで、男性ブランコにまず片想いさんを薦められたんです。

高橋 僕らと同じカクバリズム所属の。

岡部 はい。そこから周辺の音楽を掘って行ったときに、思い出野郎さんに出会ったんですよ。それでサブスクリプションで聴いてると、関連アーティストが出てくるじゃないですか。その流れで出てきたネバヤンさんも聴くようになって。

左から高橋一(思い出野郎Aチーム)、岡部大(ハナコ)。

──「ANN0」でも、オープニングがネバヤンの「明るい未来」で、エンディングが思い出野郎という構成で。

岡部 そうですね、浮気しまくって(笑)。

──天秤にかけて(笑)。

高橋 そういうふうに言うと俺らとネバヤンが岡部さんを取り合って仲悪いみたいになっちゃうじゃないですか(笑)。

岡部 どちらのバンドもハッピーで聴いてて気分が上がる音楽なんです。思い出野郎さんの曲だと「アホな友達」に最初すごく共感したんですよね。お笑いで食えなくてバイトしまくってた時期に、バイトが終わったあと仲間と飲み会に集まるワクワク感をあの曲から感じてグッときたんです。あと「週末はソウルバンド」も、めっちゃ刺さる! あの曲の歌詞に出てくる彼女の言葉とか、それを歌うマコイチさんの男臭さとか、全部がホントに刺さってきて「……俺もがんばろう!」って。

──「週末はソウルバンド」はバンドマンとか自由業、表現業のアンセムですからね(笑)。

岡部 ですよね!(笑) 最初に聴いたときは、ホントに放心状態になったし、聴くたびにジワーっとくる曲です。それからやっぱりマコイチさんのザラッザラした声。男が憧れるカッコよさというか、説得力があってすごく好きです。