音楽ナタリーではTechnicsの新作ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ100」の特集を展開中。これまで、くるり、PUNPEE、原島“ど真ん中”宙芳という人気アーティストに「AZ100」を体験してもらった。第3弾となる今回は、ニューアルバム「; semicolon」をリリースしたばかりのyamaが登場。楽曲制作において細かなニュアンスを大切にしているというyamaの耳に「AZ100」の音質はどのような印象を与えたのだろうか。率直な感想を語ってもらった。
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取材・文 / 張江浩司撮影 / 苅田恒紀
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Technics「EAH-AZ100」
「ありのままの音が生きる、生音質へ。」をキャッチコピーに掲げる、Technicsの完全ワイヤレスイヤホン。磁性流体ドライバーを搭載しており、振動板の正確なストロークで音楽を再生することで新次元のクリアさと臨場感を実現している。「EAH-AZ80」よりコンチャフィット形状を小型化し、軽い着け心地で多くの人に快適なフィット感を提供。また市場の要望に応え、通話やノイズキャンセリング、バッテリー性能なども使いやすさが向上している。
ワイヤレスイヤホンは肌身離さず持っている
──yamaさんは普段、主にどういった環境で音楽を聴いていますか?
サブスクを使って、イヤホンで聴くことが多いです。やっぱり手軽なので。家だとスマートフォンのスピーカーから流すこともありますけど、制作などの作業をしているときは、基本的にPCにつないだスピーカーやヘッドホンを使っています。
──音楽を聴き始めた当初からイヤホンを使っていたんですか?
最初はちっちゃいラジカセで聴いてました。そこからUSB型の音楽プレイヤーを使い始めて……あれはなんて言うんですかね?
──MP3プレイヤーでしょうか。
そうそう、それです。まだダウンロードという概念を知らなかったので、ラジカセとケーブルでつないで、CDを再生して録音する機能を使ってました。iPodとか携帯で聴くようになったのはそのあとですね。
──現在使っているイヤホンはワイヤレスですか?
そうです。
──昨年、ワイヤレスイヤホンをトイレで水没させたとSNSにポストされていましたが……。
あれは本当に悲しかったです……。お店のトイレだったのでそのまま流すわけにもいかず。しかも、あたりを見回しても何もなかったので、手を突っ込んで取るしかないという絶望的な状況で(笑)。それくらい肌身離さず持っているものではありますね。
──ワイヤレスイヤホンを選ぶときに重視するポイントはどこでしょう?
私はオーディオ周りに詳しいわけではないので、そこまでこだわりもなくて。人にオススメされたものや、使い勝手のよさそうなものを選ぶことが多いです。
──サウンド面でイヤホンを比べるときに、ご自身の中で基準にしている曲はありますか?
最初に聴くのは自分の曲ですね。ミックス的にも「この部分を聴かせたい」ということを一番わかっているので。特に「偽顔」(2024年リリースの楽曲)はわかりやすいと思います。音数もそんなに多くないですし、打ち込みメインではあるけど音の成分的にすごくわかりやすい。声の抜け感とか、1音1音をつかみやすい曲ですね。そのあとは、いろんなジャンルをまんべんなく聴いて比べます。アーバンな曲だと音域がわかりやすくていいかもしれない。
──具体的に挙げると?
FKJの「Skyline」とか。チルな曲で、単音がわかりやすいんです。あとはm-floが好きなので、数曲聴いてローの感じを確かめたりもします。逆に打ち込みじゃなく生音の曲で試したいときはEGO-WRAPPIN'とかを聴きますね。
──音圧で押すようなものよりも、分離がいい曲のほうが比べやすいんですね。
いつもは音質だけに集中して聴くことはないですけど、イヤホンの特性を確かめるときはそっちのほうがいいかもしれないです。
ここのノイズもちゃんと聞こえるんだ
──今回試していただいた「AZ100」はTechnicsの新製品ですが、Technicsと聞いて思い浮かぶイメージはどんなものでしょうか?
正直、今回初めてTechnicsさんの製品を使わせてもらったんです。これまではイヤホンよりもターンテーブルの印象が強くて。そういう意味では、フラットなイメージというか、先入観なしで試せました。
──では「AZ100」を使用した感想をお聞かせください。
1音1音がめちゃくちゃクリアで、きれいな音だなと素直に思いました。低音がめっちゃ出ているとか、どこかの帯域だけが刺さる感じがなくて、かなり聴きやすい。バランスのいい音質が好きなので、とても好みです。
──音楽制作の際もフラットな音環境を意識されているんですか?
レコーディングするときはむしろ逆で。自分が歌いやすいように、声が突出して聞こえるようなヘッドホンやマイクを選びがちです。ちょっといびつな状態で録っちゃってるんで、それを確認するために別のイヤホンやヘッドホンでチェックしています。そういう意味でも、普段はフラットな環境で聴きたいんですよね。
──プレイヤーとしての耳とリスナーとしての耳は別だと。
けっこう分けてます。それで言うと「AZ100」は自分の“リスナーの耳”にちょうどいいなと思いました。
──「AZ100」は磁性流体ドライバーという技術を採用することで、“新次元の高音質”を実現しています。「ありのままの音が生きる、生音質へ。」がキャッチコピーなんです。
なるほど。今回、「; semicolon」(3月5日リリースのニューアルバム)の曲もいくつか聴いてみたんです。リリースしたての曲を聴くと、自分がイメージして作り上げた楽曲や歌声とギャップを感じてしまうことが多くて。意図しない音域が持ち上がっていたり、解像度が低くて聞こえなくなっちゃっている部分があったりするけど、このイヤホンはそれがかなり少なかったです。「ここのノイズもちゃんと聞こえるんだ」とか思いました。自分は息の量が多い声質なんですけど、その息遣いもちゃんと聞こえましたね。
──どのサブスクを使っているかでも音質が変わりますし、リスナーが持っている機材でも音の聞こえ方がまったく違うので、どういった環境に向けてミックスするのかというのは、昔と比べてもさらに悩みどころですよね。
どれだけ大きいスピーカーでチェックしても、聴き手にはまた別の環境がありますからね。いろいろな機材で出来上がりを確かめるようにはしているけど、「こういう形で聴いてほしい」というイメージに近いイヤホンを使っていただけると、こちらの思いも伝わりやすいのかなと思います。
──まずミュージシャンが思い描いた音に近いものが表現できないと、その奥にあるエモーションはなかなか伝わらないと。
自分の音楽はダイナミックな起承転結があるタイプじゃないというか、華やかで派手なものではないので、細かいニュアンスがわかりづらいと思うんです。そういうところもなるべくじっくり聴いていただけると、こちらの思いがより伝わるのかなと。
──繊細なニュアンスを汲み取るためにも、1つの曲を何度も聴いて味わいたいところですが、そうなると音が潰れてしまうようなイヤホンだと疲れちゃいますよね。
そうですね。勝手なイメージですけど、ワイヤレスイヤホンはドンシャリ系の音が多い気がしていて。それがすごく苦手なんですよ。自分の声質のよさは中域に詰まっていると自覚しているので、そこをちゃんと聴いてほしいというのもありますし。そのあたりのバランスは気になっちゃいます。ドンシャリ系の音も迫力を感じられて、それはそれでよさがあると思うけど、カロリーオーバーしちゃうと毎日は食べられなくなっちゃいますからね。その点「AZ100」は、ドンシャリな感じではなく、バランスがすごくいいなと思いました。
“ドヤ感”がない聴き心地
──「; semicolon」収録の曲で、特に「AZ100」で聴いてほしい曲はどれでしょうか?
1曲目の「TORIHADA」は、「AZ100」のよさがよくわかる気がします。声の抜けがいいですし、キックの響きもすごく気持ちよくて。低音が効いているけど、「嫌な感じで出すぎている」みたいなことはない。音の輪郭が曇ることもなく、“具体的に響いてくる”というか、存在感があるんです。
──低音は盛り上がりには欠かせないですけど、ブーストしすぎると疲れに直結しますもんね。
そうそう。効きすぎちゃうと何回も聴けなくなりますから。楽曲全体がボヤッとすることもありますし。あと、「rain check」は生音メインの曲なので、その温かさがちゃんと感じられていいですね。この2曲を聴き比べていただけたら面白いかもしれません。
──個人的には「レコード」の隙間の多いアレンジが「AZ100」に合っていると思いました。
確かに。特徴的なシンセサウンドも入っているので、面白いかもしれないです。
──あと、「雫」はスネアの材質まで伝わってくるような生々しい音が感じられるなと。
そこには注目してなかった! この曲は(川谷)絵音さんにアレンジしていただいて、演奏もindigo la Endの皆さんなので、生音が生きてるんですよね。ちょっと聴いてみていいですか? (実際に「AZ100」で聴きながら)なるほど、そういうことか。
──いかがでしたか?
確かにスネアの深さがすごいですね。楽器それぞれの繊細なところまで聞こえるというか、生演奏がすごくフレッシュに再現されていますね。だけど“ドヤ感”はなく、あくまでもさりげない聴き心地。声とのバランスもちょうどいいと思います。
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抽象性と物足りなさ