「怖いと言ってもらえたらしめしめ」なラブソング

──先ほどお話にあったように、「量産型ティーン」は楽曲の構成に新しさを感じさせるものにもなっていますね。

はい。歌詞の中でテンプレートを皮肉っている曲でもあるので、構成やメロディに関しても予定調和じゃダメだよなと思ったんです。なので、今までの焚吐の楽曲にはあまりなかったようなけっこう突飛な展開になっているとは思います。自分の中でも作っているときには「これでいいのかな？」って半信半疑なところもあったけど、アレンジされたことですごくカッコよく仕上がったのでよかったなと思いました。

──アレンジは薮崎太郎さんが手がけています。

焚吐として新たなステップを見せるには、これまでの僕のことも知っている方がいいなと思ったんです。なので「神風エクスプレス」などを手がけてくれた薮崎くんにお願いして。最初のアレンジはBメロにダブステ要素が入っているようなゴリゴリのEDMで、それはそれですごく面白かったんですよね。ただ、「呪いが解けた日」からの文脈をあまり感じられない気もしたので、最終的にはいい塩梅のポップに仕上げていただきました。歌詞の内容がスッと入ってくるバンドサウンドになったのが気に入ってますね。

──ボーカルに関してはどんな気持ちでレコーディングに臨みましたか？

デモの段階ではわりとフラットな感じで歌っていたんですけど、本番のレコーディングでは曲に気持ちをしっかり乗せて歌えたと思います。ツアーを経てのレコーディングだったからかもしれないですけど、「魂の入った声になってる」「歌詞を見ずとも声から感情が伝わってくる」ってスタッフの方に言ってもらえたのもうれしかったです。「ああ、いい歌が録れたんだな」って納得できました。

──カップリングには「トウメイニンゲン」「魔法使い」という2曲も収録されています。

そろそろラブソングを書きたいなというフェーズに気持ちが進んだことで生まれたのが「トウメイニンゲン」です。「焚吐の片思いソングが聴きたい」というファンの方の声を聞くことも多かったのでそういうテーマで作ったんですけど、今回の3曲の中では一番生みの苦しみがありましたね。恋愛経験がなさすぎなので（笑）。

──いや、でもすごくリアルな物語になっていると思います。思いを寄せる相手に認識されないこの歌の主人公は“透明人間”なわけですけど、嫌われてもいいからと“透明とは程遠い色に染まっていく”ところなんかはちょっと怖いですけどね（笑）。

恋愛ソングとしてはイレギュラーな感情が込められているかもしれないけど、別に正攻法でストーリーを導いていく必要はないと僕は思っていて。なので「怖い」と言ってもらえたらしめしめって感じですね（笑）。どんなに隠していても僕の中の毒みたいな部分は自然とにじみ出てしまうことはもうわかっているので、我慢せずに出すことにしています。

後悔や悲しみを引きずりながらも、前を向いて進んでいく

──もう1曲の「魔法使い」は先日のツアーで初披露されていましたね（参照：焚吐、満員の観客と紡いだ“1秒1秒が尊い”ワンマンツアーファイナル）。

高校2年生のときに亡くなった母親に向けて、ストレートな思いを伝えたいという気持ちで作りました。気負わずに素直な思いをぶつけることでいい曲になったと思います。母親にとっては僕が弾き語りで歌っている姿に一番なじみがあると思ったので、そういったスタイルで録ることにもこだわりました。

──シングルの通常盤のみに収録される「魔法使い」のライブバージョンはアコギによる弾き語りですが、スタジオレコーディングされたものはピアノと歌だけのアレンジになっていますよね。

今までピアノ1本のアレンジはやったことがなかったので、ツアーでサポートしてくれているピアニストの方にお願いして編曲していただきました。しかも、この曲は完璧に一発録りなんですよ。ガラス越しにピアニストの方と目くばせしながら「せーの」で歌うのはかなり緊張しましたけど、結果的にすごくいい仕上がりになったと思います。

──悲しみを抱きながらも、しっかり前を向いた歌声になっていますね。

母親にできなかったことに対する後悔や悲しみは少なからず今も引きずっているんですけど、僕がしっかり前を向いて進んでいくことが母親の願いだと思うので、光の見える曲にはしたかったんですよね。リスナーの方にはこの曲を通して、焚吐という人間のことをより理解して、より愛してもらえたらいいなって思います。

──11月26日には東京・TSUTAYA O-WESTにて「焚吐 3周年記念ライブ～リ・リ・リボーン～」も開催されます。

リボーンという言葉には“再生”とか“蘇り”みたいな意味がありますけど、3周年だから“リ”を3つつけて、1年ごとに新しい焚吐が生まれているんだよってことを表現したいなと思って。この流れでいくと10周年になったら“リ”が10個になっちゃうからどうしようと思いつつ（笑）。内容的には、焚吐がここまで紡いできたヒストリーを感じてもらえるものにはしたいですよね。古くからのファンはジーンとするような、新規の方には僕のことをより知ってもらえるようなライブにしたいと考えていて。焚吐としての次がしっかり見えるセットリストにするつもりなので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。