自分自身への劣等感から抜け出したくてギターを始めた

──プロフィールによると小学4年でギターに目覚めたそうですが、周りにいた人の影響ですか？

いえ、ウチの家族で音楽をやっているのは僕1人なので、自発的に始めましたね。

──きっかけは？

子供の頃、誕生日が長嶋茂雄さんと同じという理由だけで少年野球のチームに入れられていて、自分自身はすごく運動音痴でなかなか上達しなかったため、運動に対しての反抗心のようなものがずっとありまして。それで野球を辞めるための口実になるのはなんだろうと考えて、習い事を増やすのがいいんじゃないかと思い、初めに手に取ったのがギターだったんです。

──運動ができるやつが偉いというような、よくある周りの価値観に対する反抗心みたいなもの？

周りに対してというか、自分自身に劣等感があったので、とにかくそこから抜け出したいという気持ちでギターを始めました。

──初めからエレキギターですか？

初めはアコースティックギターですね。そして1年経たないうちにオリジナル曲を作り始めたので、カバー曲をこなすというよりはオリジナル曲を作る中で基礎を学んだ感じでした。

──オリジナル曲を作りたいという気持ちになったのはなぜですか？

ギターを始めてしばらくしてから、YUIさんがテレビで歌ってらっしゃるのを拝見して、直感的にカッコいいと思ったんです。それが小学4年のときで、その頃は音楽理論だとか細かいことはよくわからなかったんですけど、「自分もこういうふうに歌ってみたい」という気持ちになって作り始めました。

──YUIさんのどういったところに惹かれたんでしょうか。

いい意味ですごく必死なところ。歌を通して何かを伝えたいという気持ちが先行している方だなと思って、そこに惹かれましたね。

過去の自分に報いるために歌を作っている

──焚吐さんは、初めはどんな曲を作っていたか覚えていますか？

ひたすら暗い曲だったのを覚えてます。

──小学校中学年くらいから内向的だったということですか？

そうですね。自分は他人とコミュニケーションをとることが苦手で、それを補う形で歌を作って、コミュニケーションの手段として吐き出していたので、当時の心境からすればすごく暗い歌ばかりですね。

──学校という社会になじめなかった。

学校生活の大半を占めていたのは、違和感だとか、周りが自分に対して思っているであろう異物感のようなもので。そういうものがずっとつきまとってました。

──その期間は長かったんですか？

小学校中学年で一度いじめにあって、それが尾を引いて。中学に入って一度立ち直ったんですけど、そこからまた振り出しに戻ってということを何度か繰り返しました。高校のときはそれほど周りから干渉を受けてたわけではないんですけど、やっぱり自分からはなかなか（人との交流を）踏み出せずにいましたね。

──今はあまり思い出したくない過去ですか？

思い出したくないというよりは、積極的に思い出していこうという気持ちがあります。過去の自分に報いるために歌を作っている部分が少なからずあるので。いじめを受けたことだとか周りとうまく交流できなかったことは確かに不本意なことですが、今はそういう過去があったからこそ音楽を作れているところがあるので、不本意を本意に変えていく力を養っていけたらなあと思ってますね。

音楽は一番気が許せる友人のようなもの

──その頃の焚吐さんにとって、音楽はどういうものだったんでしょうか。

一番気が許せる友人のようなものでした。

──曲を作り、それを人に聴かせる機会はあったんですか？

オリジナル楽曲を作り始めてすぐにオーディションを受けるようになって、そのオーディションで聴いていただくということをしてました。小学5年の頃からですね。

──じゃあ、バンドで表現したいみたいな気持ちにはならずに。

1人で歌うことしか考えてなかったですね。バンドを組みたいと思っていた時期もあるんですが、自分の音楽への熱と周りの人の熱とに温度差を感じて、組めずにいました。周りの人たちがバンドを始める理由は「モテたいから」とか、そういうものだったので、どうしても自分と食い違うものを感じてしまって。

──今はバンド表現についてどう考えていますか？

つい最近、初のバンド編成のライブがありまして、それはすごく楽しかったです。今までは自分が一番音楽に対する熱を持っているという自尊心のようなものがあったんですが、やはりプロのミュージシャンの方々は音楽に対する熱があって、高いレベルでテクニックを磨いている。自分が学べることがあればできるだけ学んでいきたいという気持ちを持てましたし、自分1人で自分の音楽を作っているわけじゃないんだという自覚が湧いてきました。

──その気持ちが持てたのはすごく大きいですよね。

そうですね。これまでは自分が自分のために歌うという気持ちでやっていましたが、プロとして活動をしていくとなると、不特定多数の方に聴いていただくという大きな着眼点を持つことになる。自分以外の人たちに目を向けなければという気持ちが大きくなりました。