未来感と懐かしさの混在

──アレンジは橘井健一さんが手がけてます。焚吐さんが思った通りのアレンジになりましたか？

自分の想像を上回るものにしてくださった感じですね。例えばイントロは「閉鎖的でこもった音にして、サビでヌケるようにしてください」とお願いしたんですけど、その範疇を超えるくらいに仕上げていただけたので、歌っていて楽しいんです。

──サビのところで一気に闇から抜け出して、光の中に飛び込むようなイメージというか。

そうですね。それはイントロやAメロのこもった感じがあるからこそ、引き立つと思うんです。

──メロディにはどこか懐かしさがあり、サウンドには未来感がある。その融合がうまくできたことで、この曲ならではの個性が際立ったんだなと思います。

この曲の全体像で自分がイメージしたのはスチームパンクなんです。昔のヨーロッパの装飾だとか、機械仕掛けでありながら前衛的な感じだとかが合わさったようなビジュアルで。音においても、そういう未来感と懐かしさの混在が出ているんじゃないかと。

──ミュージックビデオのあの感じですね。時計があって、いくつもの歯車があって、どこかSFチックな。

「天空の城ラピュタ」とか、ジブリ作品に出てくるような。そういうスチームパンクの世界観で表現したいと自分から提案したんです。

──スチームパンクの世界観が好きだったわけですか？

スチームパンクとの出会いも大学の友達からなんですよ。周りの友達がスチームパンクっぽい雑貨や洋服を熱心に集めていて、その影響で自分も好きになりました。

3年前の自分には絶対歌えてない

──「ふたりの秒針」の歌い方に関して、意識したところはありますか？

サビの最後のリフレインは、アレンジに合わせたノリのいい感じにしつつ、少しゆっくりしたリズムで歌うように心がけました。それからAメロでスッと耳に入ってくる、くどくない歌い方をするようにしたので、その分サビでは自分の声の個性を存分に表現するように歌いました。

──なるほど。どのように歌い分けたらより効果的に響くか、という分析がはっきりできているわけですね。

前作「オールカテゴライズ」発表以降、自分で分析するようになったんです。あの曲で多くの方が自分の声を褒めてくださったので、それを踏まえて、今度メロディを作るときは100％自分の声に合ったものにしようと思ったんです。

──いろんな意味で、この曲は今の焚吐さんだからこそ歌えた曲と言えそうですね。

3年前の自分には絶対歌えてない。こういう曲を作るモードにもならなかったし、作れる技術もなかったし、そもそも自分のこともよくわかっていなかったので。今だからこそできた曲なんだろうなと思いますね。

──作れたことで、重荷を下ろして、何かから解放されたような感覚もあったのでは？

ありましたね。ラブソングは今まで避けてきたジャンルだったし、自分にはできないと決めつけていたので、これだけ必死になればちゃんと形になるというのはひとつの自信になりました。