TAKU INOUEがMori Calliope、星街すいせい、ONJUICYと描く一夜の物語

TAKU INOUEの新作「ALIENS EP」がリリースされた。

「ALIENS EP」はMori Calliope、星街すいせい、ONJUICYといったボーカリストを迎え、TAKU INOUE自らも歌唱した全5曲で構成されるコンセプチュアルな作品。TAKU INOUEが幼少期から関心のある宇宙や、彼のホームであるクラブを舞台に“一夜の物語”が描かれている。TAKUはまさに“エイリアン”とも言える個性派のボーカリストたちとともに本作をどのように完成させたのか。彼のこだわりが詰まった5曲についてじっくりと話を聞いた。

取材 / 倉嶌孝彦文 / 寺島咲菜撮影 / 佐々木康太衣装協力 / Riprap

クラブと宇宙が並列に

──「ALIENS EP」には7月配信のメジャーデビュー曲「3時12分 / TAKU INOUE&星街すいせい」を含む5曲が収録されています(参照:TAKU INOUE×星街すいせい「3時12分」インタビュー)。「ALIENS EP」ができあがるまでにどんな過程があったのでしょうか。

「3時12分」の次に「Stellar Stellar」(2021年9月に発売された星街すいせいの1stアルバム「Still Still Stellar」収録曲)を作り始めて(参照:星街すいせい「Still Still Stellar」インタビュー)、そのあとに「ALIENS EP」の制作にとりかかりました。レーベルから「5曲入りのフィジカル作品を出しましょう」という提案を受け、「せっかくリリースするなら1つの作品としてまとまりのあるものにしたい」と思って。最初に収録することが決まっていた「3時12分」をベースに、ストーリー性を持たせながら作っていきました。「3時12分」に行き着くまでの一夜の物語を描きたかったんです。

TAKU INOUE

TAKU INOUE

──かなり急ピッチの作業だったんじゃないですか?

そうですね。泣きながら作りました(笑)。

──今作では“エイリアン”がコンセプトに据えられていますが、この言葉にたどり着いた経緯は?

まずリード曲「Yona Yona Journey」のサビの歌詞を書き終えたくらいでスタッフと「作品全体のタイトルをどうしようか」と話していて。もともと「Yona Yona Journey」の曲名を決めるときに「エイリアンズ」という候補もあって、すでにキリンジさんの「エイリアンズ」(2000年10月発売のシングル曲)があるので悩みましたが、いいワードだなとしっくりきたんです。収録する5曲を通じてクラブに行った一晩の出来事を表現したくて、それ以外にもう1つ柱になるようなテーマが欲しかった。個人的に夜に出かけることって宇宙を旅する感覚に近いのかなと思っていて。これまでに僕が関わってきたクライアントワークスでも宇宙というテーマを多く取り入れてきたこともあって、宇宙や旅を絡めて最終的に「ALIENS EP」に決めました。

──TAKUさんのコメントに「夜中の外出は宇宙旅行みたいな気分になる」とありましたが(参照:TAKU INOUEがMori Calliopeら迎えた新作リリース「誰もがエイリアン。そんなEPを作りたい」)、外出が宇宙旅行だとしたらクラブはどんな場所ですか?

難しいな(笑)。ご時世的にクラブに行くことはもとより夜外出すること自体が減っていて。最近は、宇宙に対して思いを馳せるのと同じように、クラブや夜の街について考えていることに気付いたんです。僕の中でクラブと宇宙が並列の存在になったなという感覚があります。

TAKU INOUE

TAKU INOUE

──今作に限らずTAKUさんの曲には宇宙をモチーフにした一節がたびたび登場しますが、以前から宇宙に対して興味があったんですか?

はい。小さい頃から宇宙ネタが大好きで(笑)。子供の頃、親に天体望遠鏡を買ってもらったこともありました。今でも気を抜くとすぐ歌詞に入れてしまいます。

──「ALIENS EP」は「The Aliens EP」という曲で始まるけど、全体のタイトルが決まる前に「Yona Yona Journey」がすでにあったんですね。“エイリアン”は宇宙人やよそ者などの意味があるように、いろんな解釈ができる言葉だと思います。1曲目の「The Aliens EP」には「僕らはエイリアンズ」というリリックがあって、ご自身のこともエイリアンと例えていますよね。

そうですね。「自分たちもエイリアンだな」っていう考えもあったし、今回、ラッパーのオンジュ(ONJUICY)くん、VtuberのMori Calliopeさん、星街すいせいさんと、参加いただいたボーカリストがバラバラだったので、そういう多様性みたいな意味も「ALIENS EP」というタイトルに匂わせました。クラブに集まる人ってさまざまだし、そこにいる人がどういう出自なのかってあんまり気にならない。単純に「いろんな人が集まるのって楽しいよね」という意味も込めましたね。

TAKU INOUE

TAKU INOUE

TAKU INOUE

TAKU INOUE

自分でイノタクとは書かない

──では1曲目「The Aliens EP」から順に伺えればと思います。ONJUICYさんがラップで参加していますが、リリックについてはONJUICYさんにどんなオーダーをしましたか?

「ALIENS EP」には多様性というコンセプトがあったので、僕だけじゃなくてほかの人にも歌詞を書いてもらっていろんな視点を入れることによって、作品のストーリーに深みを出したかった。そのためにオンジュくんにまるっと作詞をお願いしつつ、僕からは「エイリアンをキーワードにしてほしい」ということや、曲順を追うごとに時間が経過する流れにしたかったので「夜出かけるであろう、だいたい20時半から夜中の1時くらいまでの出来事を書いてほしい」とお願いしました。あとは「時間の表記も入れてほしい」と伝えたうえで、本人の気の赴くままに書いてもらいましたね。

ONJUICY

ONJUICY

──それで「深夜 0:30」っていうフレーズが入っているんですね。あとは「My G イノタク」というフレーズも気になりました。

確かに。自分で“イノタク”とは書かない(笑)。

──「まるで僕らはエイリアンズ」「禁断の実」といったキリンジ「エイリアンズ」の一節はもちろん、ランカ・リー=中島愛「星間飛行」(アニメシリーズ「マクロスF」劇中曲)の一節「キラッ☆」など、オマージュもふんだんにちりばめられていますよね。

これは僕が指定したわけでもなく、オンジュ(ONJUICY)くんがいろいろ入れ込んできたなっていう(笑)。びっくりしました。

──そもそも曲名に“EP”と付くのは珍しいですし。

“Aliens”だけでもよかったんですけど、アルバム全体を俯瞰したようなタイトルにしたくて。“EP”にはエピソードという意味も込めています。

TAKU INOUE

TAKU INOUE

──“The”を入れたのはONJUICYさんのアイデアですか?

僕がなんとなく付けてみました。EPタイトルには付いていないのに曲名になると“The”が付いている感じがカッコいいかなって(笑)。映画の予告編っぽくして、次のリードトラック「Yona Yona Journey」につなげたいという狙いです。

──トラックはどのように作っていったんですか?

最初、この曲はなんならインストにしようと思ってたんですけど、予想以上にカッコよく仕上がったので、これをイントロ扱いにするのはもったいないなと。

──トラックができあがってから歌詞を乗せることに決めたんですね。

そうです。すいせいさんとCalliopeさんはすでにボーカリストに決まっていたので、もう1曲ボーカルトラックを作るなら男性アーティストにお願いしたいなと思っていました。四つ打ちのBPM120くらいのトラックにしっくりくるラッパーを探していて、オンジュ(ONJUICY)くんなら四つ打ちにいい感じのフロウを乗せてくれると思いました。

──ミュートをはめたトランペットも印象的でした。

そうなんですよ。「3時12分」から派生して「ALIENS EP」全体にジャズのムードを漂わせたくて、1曲目の「The Aliens EP」をバチバチにジャジーにキメるためにも、トランペットをフィーチャーしたかったんです。

──ジャズテイストの生楽器に関して、演奏のディレクションはTAKUさんが手がけたんですか?

トランペットの類家(心平)さんとご一緒するのは今回が初めてだったんですが、「ミュートトランペットで」と指定したぐらい。あとは「めちゃくちゃに吹き倒してください」と伝えました(笑)。類家さんの吹いた音をたくさんもらったうえで、それを1つずつトラックに当てはめていきました。歌とトランペットの絡み合いもけっこう面白いポイントになっているので、注目して聴いてほしいですね。